「……まさか……吉良吉影を消されるとは……な」

そいつは悔しげに呟いていた。

「先に殺しておくべきだったのは……遠野志貴のほうだった……」

そいつの具現化したスタンド使い、吉良吉影は遠野志貴によって滅ぼされたのだ。

「だが……次はこうはいかん……能力……タタリが……最強の男を具現化させて……殺してやる……」

スタンド使い。

そう、ジョジョの奇妙な冒険には、スタンドという概念がある。

スタンド能力はある意味その本体の無意識の才能であり、願望だ。

そいつ――タタリは己の存在を維持するため、人の恐怖を具現化し、具現化したものに殺戮、吸血を行わせる。

それはタタリが存在するために必要不可欠な行動であり、願望であった。

よってタタリとスタンドの概念は、酷似していると言える。
 
 



「徐々に奇妙な冒険」
その61
「シオン・エルトナム・アトラシア」






「遠野志貴に触れたときにやつの恐怖を取り込んだ……第二部……第二部だ……太陽すら克服した……最強の生命体を……」

タタリは今、遠野志貴の恐怖のイメージを取り込み、それを具現化しようとしていた。

もちろんわたしはそれを静観するわけにはいかない。

「……カーズを具現化するつもりなのですか? タタリ……いえ、ズェピア・エルトナム・オベローン」

わたしはそいつの真の名を呼んだ。

「ほう……?」

ズェピアは興味ありげにわたしの顔を見つめる。

「どうしたね? シオン。たった一人で」
「決着をつけに来たんですよ」

わたしの目の前にいるそいつは、タタリの本体である。

今まで具現化してきたスタンド使いらと、存在感、力が明らかに違っていた。

「仲間はどうしたね? あの少年らは」
「不要です。あなたと決着をつけるのはわたしであるべきですから」
「なんと……友達思いなのだね、シオンは」

そいつは可笑しそうに笑った。

「ええ。初めて出来た異性の友達ですから」

わたしにとって遠野志貴は特別な存在になっていた。

それは贖罪のためだったのかもしれない。

「そうか……では、その友達のために死ぬがいい。シオン」

そいつはわたしへ向けて拳を振り回してきた。

「……」

わたしはただぞれを黙って眺めていた。

ぶんっ。

「……な?」

そいつの表情が変わる。

当然だろう。

当たるはずの拳が、わたしの体をすり抜けていったのだから。

「まだ……わからないのですか? タタリ」
「な、なんだと……こんなバカな……」

吉良吉影は承太郎に殺された時、その事実を認識出来ていなかった。

こいつもそれと同じだ。

いや、その程度では生ぬるいだろう。

「……ヘブンズドアーを知っていますよね」

動揺するそいつにわたしは言った。

「何を……言っている?」
「ヘブンズドアー。生き物を本にすることのできる能力。そして余白には岸辺露伴が自由に書きこむ事が出来る……」
「何を! 何を言っているんだ貴様ッ!」

タタリの冷静な口調が消え、早口に変わった。

「貴方は……この街で最初に、石仮面を被った遠野秋葉を具現化しましたよね」

そしてそれを倒したのはわたしである。

「シシシシ質問に答えろッ! ギギギ疑問文に対して疑問文で返すスススなッ!」

激高しているのか、言葉にノイズのようなものが入り混じり始めていた。

「……答えているではありませんか。あの時、遠野秋葉は何で滅びたか、覚えていますか」
「キキキ、キサマノ波紋ダッ! キサマノ波紋で……っ」
「波紋……ですか」
「波紋ダッ! 吸血鬼ニ絶大ナだめーじヲ与エル…………与エル?」

一瞬タタリの動きが止まる。

「わたしは貴方に吸血鬼にされたんですよ? 波紋なんて使えると思っているんですか?」

吸血鬼になったストレィツォは自らの波紋で滅んだ。

わたしが波紋を使えたとしても、恐らく同じ運命を辿っていただろう。

「ナラバ……何故」
「わたしのエーテライトは霊子にハッキングし……あらゆる回路を乗っ取っる技です」
「ま……まさかっ?」
「ハッカーとクラッカーは別物なのですけどね。貴方に容赦などする必要ありませんから」

わたしはあの時、波紋を放つふりをして遠野秋葉にエーテライトを取り付けた。

「タタリの具現化したモノは情報のカタマリ……そこにわたしが『波紋で倒されたように滅ぶ』という情報を入れたら……どうなると思いますか?」

わたしの流した情報は、タタリに対するウイルスのようなものだ。

「わたしのエーテライトによる情報操作で貴方の作り出した偽者は滅んだのですよ。ヘブンズドアーで『死ぬ』と書き込まれたように」
「マサカ……まさかマサカまさかマサカ……」
「もっとも、あれは貴方がこの街で最初に具現化した弱い存在だから倒せたんですけどね」

そして弱い存在であるがゆえに、タタリはわたしがエーテライトを使った事に気付かなかった。

自動操縦のスタンドは、たとえスタンドに何かがあっても本体は影響を受けないのだ。

「あなたの末端をいくら殺しても無意味なのは知っています。本体を叩かないとタタリは永遠に続く」

ただ、いくら似通っていてもタタリはスタンドではない。

わたしが遠野秋葉の偽者を殺した事を知っているし、その後のわたしたちの動向も全て知っていたのだ。

「あなたは末端から現在の戦況の情報を読み取っていた……その情報はどこから寄せられたものだったのでしょうか」

答えはひとつだ。

「末端である具現化した情報体が本体へ情報を流していたんですよ、貴方は。だからわたしは少しずつプログラムを組んでいった」

タタリの具現化したスタンド使いと戦いながらエーテライトを繋げ、そのプログラムを流していった。

「そしてようやくそれが完成した……」

だからこそタタリの本体が今わたしの目の前にいるのだ。

「プロ、プログラム……ナニヲ……ナニヲ……」
「それが発動した瞬間、タタリ本体とエーテライトで接続出来るというものですよ」

つまり『わたしとタタリ本体がエーテライトで繋がる事が恐怖』という情報を流したのだ。

「ただし……それはあなたにとっての恐怖ですがね」

わたしとタタリ本体がエーテライトで接続されるということは、タタリ本体の情報を操作できるということである。

「わたしはおまえの情報を操作し、あるスタンド使いを具現化させるように仕向けた」

そのスタンド使いはとても恐しいスタンド使いであった。

それ故に最も恐ろしい末路を辿ったスタンド使い。

「そしておまえがそのスタンド使いと同じ運命を辿ると書き込んでおいた」

タタリが望んでいたもの。

それは永遠という、無限輪廻。

「行動はすべて無になる。真実には永遠に到達できない」

タタリが具現化するスタンド使いたちはどれも完璧だった。

だからきっと、この恐るべきスタンドも再現できるだろう。

「この世界にはおまえひとりだ……おまえはこのスタンドに恐怖せずにはいられない」

タタリだけしか存在しない世界で、タタリがそれに恐怖しているとしたら、タタリは永遠にその恐怖を具現化し続けるだろう。

「ココハ……ドコナンダ……ココハ……」
「ああ、あなたがわたしに触れなかった理由を教えておきましょう。あなたが見ているわたしの映像は、わたしがエーテライトで送り込んでいる情報だからですよ」

わたしはタタリの本体にアクセスしているからその世界を認識出来ている。

このエーテライトを切り離したらわたしは二度とここには来れないだろう。

「まあ、もう二度と会うつもりはありませんが」
「ヒャ……ヒャハハハ……ヒャハハハハハ……!」

狂ったように笑い続けるタタリ。

「さようなら。貴様には地獄すら生ぬるい」

タタリが最後に具現化した男の名は、ディアボロ。

「貴様はもう、どこへも向かうことはない」

ディアボロは死に続ける。

「特に貴様が「真実」に到達することは、決して……『死ぬ』という真実にさえ、到達することは決して…『無限に』」

こいつは自ら具現化した世界で永遠に死を繰り返すのだ。
 

「終わりのないのが終わり。それが『ゴールド・E・レクイエム』」
 

Code cutting.
 

TO BE CONTINUED……



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