シオンは、全て終わりましたと一言だけ言って意識を失ってしまった。

俺には本当にタタリが滅んだのかどうかはわからなかったけど。

アルクェイドは「この世界からいなくなっちゃったみたい」とよくわからない事を言っていた。

一応決着は着いたらしい。

気を失ったシオンをシエル先輩が抱えあげ、俺たちはシュラインを後にした。
 
 



「徐々に奇妙な冒険」
その62
「夜明け」








「わたしも一応タタリの倒し方考えてたんだけどなー」

残念そうに呟くアルクェイド。

「どんな方法だよ」
「ええ。タタリっていくら倒してもキリがなかったでしょ? だから、その根元。タタリ本体を捕獲しちゃえばよかったのよ」
「どうやって?」
「恐怖のサインを発見したとき。絶対無敵の攻撃を発動させる……」
「よりによってエニグマかよ」

完全に悪役のスタンドじゃないか。

「いいアイディアだと思ったのよ。捕まえちゃえばビリビリに破いてポイでおしまいだもん」
「タタリが恐怖するサインを見つけなきゃ意味ないだろ?」
「……まあ、それはそうなんだけど」

顔をしかめるアルクェイド。

「シオンがタタリを倒したって事は、何らかの技を使ったはずなのよ」
「まあ、気がついたら聞けばいいじゃないか」
「今は張り詰めていた緊張が解けて、倒れてしまったんでしょうし。そっとしておいてあげましょう」

シオンさんを抱えたシエル先輩がそんな事を言った。

「むー」
「珍しく優しいんですね。シエル先輩」

皮肉めいた口調の秋葉。

「……まぁ、ずっと追ってきた宿敵の相手を倒せたわけですしね」

先輩はどこか遠くを見るような目をしていた。

もしかしたらロアを倒した時の事を思い出しているのかもしれない。

「なーに感傷に浸ってるのよっ」
「痛っ!」

アルクェイドがシエル先輩の頭を叩いた。

「とにかく勝ったんだから。ぱーっとやりましょ。宴会とかっ」
「あー。いいですねー。腕によりをかけて調理しますよー」
「賛成です。でも、その前にお風呂にも入りたいですね。かなり汚れてしまいましたし」
「そうねー。みんなボロボロだもん」

あっはっはとみんなで笑いあう。

ついに三咲町に平和が戻ったのだ。

よかった。本当によかった。
 
 
 
 
 
 
 

「……うん」

ベットに眠っていたシオンが声を上げた。

「シオン?」

気がついたんだろうか。

「ここ……は」
「遠野家だよ。吉良を倒した後さ。シオン、ぼーっとしてただろ?」
「……ああ」

思い出したように頷くシオン。

「全て終わったんですね……」
「ああ」

薄く目を閉じるシオン。

「で、さ。一体どういう風にタタリを倒したのかな」
「そうですね。それはとても聞きたいです」
「教えなさいよー」

などと言いつつ部屋に入り込んでくるシエル先輩とアルクェイド。

「シオンさん、無事で何よりですー」
「当然でしょう。翡翠と琥珀に介抱をさせたのですから」
「飲み物などご所望ならばお持ちいたしますが」

多分みんな部屋の外で聞き耳を立ててたんだろう。

俺は普通に看病してただけだってのに。

「……」

シオンはみんなとは目を合わせず、俯いていた。

「あ、いや、話したくないなら別にいいけど」

もしかしたら倒した方法ってのは人に話せないようなものなんだろうか。

「……私は、この町で最初に具現化したタタリを倒すため、志貴の意識にアクセスしました」

と思ったらシオンは呟くような声で話し始めた。

「うんうん、それで?」
「そしてそのスタンドの存在を知ったんです」
「スタンド……やはりタタリを倒したのはスタンドだったんですか」

神妙な顔をしているシエル先輩。

「ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム」
「……」

そのスタンドの存在を知っている人間は納得したような顔をしていた。

「な、なんですか? それは」

四部までしか読んでいない秋葉たちは首を傾げている。

「……まあ、要するに最強のスタンドだよ。そいつに殺されたやつは永遠に死に続ける」
「そう。決して未来にたどり着く事はない。なるほど、アレに対しての最高の対処法だわ」

アルクェイドは納得したような顔をしていた。

「ということは、もう二度とタタリの現象は起きないんですか?」

シエル先輩が尋ねる。

「タタリの力が尽きない限りね。でも、あいつって恐怖をエネルギーにするんでしょ? だから……」
「タタリが死に続ける限り、エネルギーには事欠かないと」

また複雑な表情をする先輩。

「そう。すなわち無限よ。あいつが望んでいた……ね」
「望んでいたものが手に入れたからと言って幸せにはならないんですねえ」

琥珀さんが妙に感慨深く呟いた。

「無限なんてそんないいもんじゃありませんよ」
「そうそう。つまんないだけだって」

先輩とアルクェイドの意見が珍しく一致している。

「二週目はいいですけど五週目とかまでいくとさすがに……」
「琥珀さん、それちょっと違う」

俺がツッコミを入れると琥珀さんはにっこり笑っていた。

「最高の対処法を行ったのに、何故シオンさまはそのように落ち込んでいるのでしょう」

翡翠が核心を突くような事を尋ねる。

「私はタタリにゴールド・E・レクイエムを具現化させるという対処作を知っていながら皆に説明しませんでした」

シオンは吐き捨てるようにそう言った。

「結果的に……いえ、わたしはタタリが油断した瞬間を狙うため、貴方たちを利用したんです」

自虐的な口調。

「それはちょっと違うんじゃないの?」

アルクェイドがそんな事を言った。

「ゴールド・E・レクイエムっていえば、そりゃもう反則中の反則みたいな能力よ。それをタタリが具現化できるかどうか、自信がなかった。違う?」
「……」

シオンは何も答えない。

「わたしだってあれは完全に具現化出来るかどうかわからないもの」
「そ、そうなのか?」

アルクェイドならばなんでも出来るって感じがするのに。

「具現化したらそっちのほうに力持ってかれちゃうでしょ? 疲れそうだから」
「……エネルギーの問題って事か」
「そ。タタリの場合、自分で自分のエネルギーを供給するうまいシステムになっちゃったから問題ないと思うけど」

そう考えると原作でのゴールド・E・レクイエムのエネルギーってどこから来てるんだろう。

まあ深く考えたら負けか。

「でよ。最後のほう、ザ・ワールドとかキラークイーン・バイツァ・ダストとかとんでもないの具現化してきたでしょ? あいつ」
「だなぁ」
「あれでほぼ確信したんじゃない? ゴールド・E・レクイエムを具現化できるぞって」
「そういえば全て終わったとシオンさんが仰ったのは吉良さんを倒した後ですもんねえ」

タタリも吉良がやられるとは思っていなかったんだろう。

そこに隙が生まれたわけだ。

「しかも、変に話したらわたしたちがそれを考えちゃうでしょ? そうすると先にタタリに察知されて対処されたかもしれないし」
「ふむ。分割思考が出来る彼女でしたら思考を読まれるという心配はありませんしね」
「……で、ですが」

多分シオンはそれら全ての事を考慮して誰にも話さなかったんだろう。

そして最後に計画を実行した時も、成功するという確信はなかったんじゃないだろうか。

なんていうか、シオンって確実性がない言葉は絶対に口にしなそうだし。

「私は志貴の記憶を勝手に……」
「ん? 志貴の記憶がどうかしたの? わたしだってさっきから拝借してるけど」

平然とした顔でそんな事を言うアルクェイド。

「……そういえば」

なんでこいつ四部やら五部に詳しいんだろうと思っていたが。

「えっへっへー。エーテライトって便利ね。わたしも今度から使ってみようかな」
「人のプライベートを勝手に覗くなっ! このばかおんなっ!」
「きゃーっ。志貴こわ〜い」

ぴょんと跳ねて人の後ろに隠れるアルクェイド。

「……覚悟は宜しいですね?」

だが隠れた相手がまずかった。

「げ、妹じゃない。妹の貧相な胸じゃ壁にならないわっ。……ん? 逆になるのかしら?」
「ぶち殺してさしあげますっ!」
「甘いわね妹っ! ブッ殺すと心の中で思ったときにはッ! その時既に行動は終わってないと!」

アルクェイドは物騒な事を言いながら逃げていった。

「待ちなさい、この……!」

それを追いかけていく秋葉。

「まったく……」

平和になったかと思えばすぐこれだ。

「あ、あの」

何か言いたげなシオン。

「ああ、うん、アルクェイドにはああ言ったけど。別に気にしてないから。シオンが俺の知識を使ったおかげで勝てたわけだし」
「……」
「ある意味協力できたって事で嬉しいかも」
「志貴も……真祖も……代行者も遠野の方々も。私のために戦ってくれて……」
「いやいやいやいや、だからそんな硬く考えなくていいからさ」

どうもシオンは物事を極端に考えすぎる気がする。

まあ俺が適当すぎるだけなのかもしれないけど。

「俺たち友達なんだからさ。困ってたら助け合うの。違う?」
「……!」

シオンの目が大きく見開かれた。

「だよね?」
「そうですねー。マニアックな知識を語り合えそうですし」
「性格的に合いそうな気がします」

琥珀さんと翡翠も頷いている。

「……」

シエル先輩は何も言わなかったけれど。

にこりとシオンに向けて笑っていた。

「……本当に……ありがとう……ございます…………」

シオンは嗚咽を漏らしていた。

今度こそ、本当に今まで耐えてきた緊張が解けたんだろう。
 

チュン……チュン。
 

朝を知らせる雀の鳴き声が響き始めていた。
 

TO BE CONTINUED……



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