俺はポケットからアルクェイドの部屋の合鍵を取り出すのであった。
「徐々に奇妙な冒険」
その8
悪魔 その1
「合鍵……ですか」
「ああ。アルクェイドに前貰ったんだ」
「……そう、ですか」
シオンは何故だか顔を真っ赤にしていた。
「とにかく、開けるよ?」
「あ、はい」
がちゃりと扉を開く。
「ん?」
入ると玄関に変な人形が置いてあった。
なんだろう、これ。
前に来たときにはなかったけど。
しかも全然かわいくない。
「まあどうでもいいか……」
あいつの変わってるのは今に始まったことじゃないからな。
「とにかく、電話電話……と」
確かベッドの傍にあったはずだ。
「あったあった。これこれ」
かわいい猫の時計の傍に子機が置かれていた。
時間は8時半ちょい過ぎ。
晩飯の時間からだいぶ時間が経ってしまっている。
「ぴのぽのぱ」
さっそく家へ電話をかけてみた。
プルルルル、プルルルル。
「はい。お電話ありがとうございます。遠野ですけど」
「あ。琥珀さん。俺だけど」
電話に出たのは琥珀さんだった。
「志貴さんですかー。でも最近俺俺詐欺が流行ってるから信用できないですねー」
「だあ、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ」
「では問題です。ナイチチといえば?」
「秋葉」
「正解ですー。どうやら本物の志貴さんのようですね」
「……あはは」
この会話、秋葉に聞かれたら殺されかねないなあ。
「あ、ええと、ちょっといろいろあって晩飯に行けなかったんだ。ごめん」
「いえいえ。秋葉さまにはうまく言っておきましたので。アルクェイドさんに宜しく言っておいてくださいね」
含みのある言い方をする琥珀さん。
「あ、いや、アルクェイドと一緒にいるわけじゃないんだ。むしろアルクェイドを探してる」
「はぁ。そうなんですか。家に来られた様子はなかったですけどー」
「……そっか」
とするとどこに行ったんだろう、あいつ。
「そっちは大丈夫? 何か変わったことない?」
とりあえず遠野家の安否を尋ねてみた。
「あ。有彦さんが来られてジョジョの三部をあるだけ持ってきてくださりました。いい人ですね、有彦さんって」
「そりゃよかったな」
どうやら遠野家は平和そのもののようだ。
「とにかく最近物騒だからね。家でじっとしててよ」
「あはっ。こんな時間に外出しませんよー。志貴さんじゃありませんし」
「うう」
耳が痛かった。
「じゃ、これで切るけど、秋葉に宜しく言っておいてくれよ」
「はいはい。ではー」
がちゃん。
「まいったな。どこに行ったんだろ、アルクェイドのやつ」
「え? あ、はい。そうですね」
なんだか挙動不審なシオン。
「ど、どうしたの?」
「いえ……本当にここが真祖の家なのですか? 凄くその、普通なんですが……」
「ああ。うん。そうだよ。……えーと、手当て道具でもありゃいいんだけど、あいつ何にもおいてないだろうしな」
適当にそのへんの棚をあさる。
意外と整理整頓されているのには驚きなのだが、ハサミとビデオテープが一緒に入っていたり、意味不明である。
「手当ては平気です。……もう治りましたから」
「え?」
見るとタワーオブグレイに攻撃された箇所はほとんど血が止まっているようだった。
というか傷すらもほとんど見えない。
「シオン、治癒魔法とか使えたりする?」
「い、いえ。ですが、まあそのようなものです」
「ふーん」
さすがは錬金術師というかなんというか。
「じゃあ、ここにいてもしょうがないし、またアルクェイドを探しに行く?」
「……」
シオンは俺の言葉に答えず、無言で台所のほうへと歩いていった。
「ど、どうしたのシオン」
「志貴、気づかなかったのですか、この妙なものに」
「妙なもの……?」
シオンは冷蔵庫を指差している。
そしてその隣には散乱した野菜やらジュースの缶やらが。
「……確かに妙だな」
野菜は触るとまだ冷たかった。
つまりついさっきまでこの野菜は冷蔵庫の中にあったということだ。
「わたしたちに休ませる暇も与えないということですか……出てきなさい」
「おっと」
慌てて冷蔵庫から離れる。
ズズ、ズズズ……
すると冷蔵庫の中から気持ち悪い動きをした男が現れた。
「なかなか鋭い殺気をしていますね……名乗りなさい。このわたしに倒される前に」
「俺の名は呪いのデーボ。スタンドは『悪魔のカード』の暗示……呪いに振り回され精神状態の悪化! 不吉なる墜落の道! を意味する」
そう、こいつはエボニーデビルの使い手、呪いのデーボだ。
しかし最初は秋葉の偽者、第一部だったのにどうしていきなり三部に飛んでしまったんだろう。
まあ二部なんか具現化されたらたまったもんじゃないけど。
「何故俺が冷蔵庫の中にいることがわかった?」
「貴方……頭脳が間抜けですか? 冷蔵庫の中身を全部外に出して片付けてないですよ」
シオンは深々とため息をついている。
なんでタタリはこんな奴らばっかり具現化しているんだろう。
まさか潜在意識で俺はこいつらを恐怖しているのか?
「エボニーデビル!」
「……はっ!」
デーボの背後に不気味なイメージが見える。
「打ちます!」
「だ、駄目だシオン! そいつは……」
ダダダダダダ!
問答無用でデーボに弾丸を撃ち込むシオン。
「ギニャーッ!」
デーボは血まみれになって吹っ飛んでいった。
「あっけないやつですね……本気を出すまでもありません」
「……」
終わるわけがない。
あの呪いのデーボが。
「つ、ついにやったな……シオン! グヒヒヒ! よくも! こんなんしやがって……ウヘヘヘヘ」
血まみれになりながらも怪しげな笑いを浮かべるデーボ。
「痛ええ〜〜〜よおお〜〜〜〜っ! とってええもォ痛ぇよォおおおおおおハハハハハハー!」
「な、なんですか、こいつは……」
「痛えよおお〜〜グヘヘおのれッハハファハグエッブババババ よくもやりやがったなァこれで! 思いっきりてめーを恨めるというものだァァァ!」
「シオン、今のうちに早くそいつを倒すんだっ!」
「え、は……はいっ!」
「俺のスタンド『エボニーデビル』はそいつを恨めば恨むほど強くなるのだッ! チクショオオオウウバババヒヒヒ!」
シオンはエーテライトを振るが、デーボは素早くドアから飛び出していってしまった。
「こんなに! こんなに痛い苦しみは晴らさなくちゃあいかんなああババババーッ! わざと見つかってわざとやられたんだよォおおヒヒヒヒヒ!」
デーボの声だけが聞こえる。
「逃がさないっ!」
「シオンっ!」
シオンの足元に玄関にあった人形が落ちている。
俺は思い出していた。
あの人形は呪いのデーボの操る人形だったのだ。
「うけうけうけけけけけけっ!」
「なっ……!」
ザシュッ!
俺の目の前でシオンの背中から鮮血が飛び散った。
続く