わたしは台所で食器を洗いながらため息をついていました。
「平和なのは結構。ですが何かしらのイベントがなくては人生はつまらないものです」
これはこの琥珀の座右の銘だったりします。
「また何か考えましょうか……」
そろそろとんでもない事件が起きてもいいころですよね?
突如遠野家に爆弾が仕掛けられた……とか。
その爆弾を英知溢れるわたしが解除。
当然みんなは大感謝!
「……問題は爆弾なんて仕掛ける人いないでしょうからわたしがやらなきゃいけないわけで」
つまり自作自演というやつです。
最初はそれでも面白かったんですけどだんだん飽きてきてしまいました。
遠野家の方々もバカではありません。
事件が起きたらまずわたしを疑え、みたいな方程式が出来上がってしまっているんです。
よって犯行はすぐばれてしまうと。
「せつない世の中ですねえ」
一体このわたしが何をしたっていうんでしょうかっ。
ちょっとお茶目で日常を楽しくしようと努力してるだけなのにっ。
「……はぁ」
誰かわたし以外に世の中を面白おかしくしようとか考えてる人はいないんでしょうか。
ちゅどーん!
「はい?」
突如志貴さんの部屋のほうから聞こえる爆音。
「これは……これはもしかして事件ですかっ?」
そう思った瞬間わたしの体は動いていました。
待っててくださいね志貴さんっ。
どんな事が起きていようがこの琥珀がたちどころに解決してあげますよっ。
「君も今日から魔法少女!」
「……あらら」
志貴さんの部屋は真っ黒焦げになっていました。
もうこれは志貴さん死んじゃったんじゃないかなーという感じです。
「志貴さん、ご無事ですかー?」
まああれで案外志貴さんは運の強い方ですので助かってるでしょうけど。
「え、ちょ、これ……どうなってるんだ?」
「わっ」
いきなり背後から聞こえる声。
「……って志貴さん?」
そう、わたしの後ろにいたのは間違いなく志貴さんでした。
「琥珀さん、これ何があったの?」
「志貴さんこそ、何故部屋におられなかったんです?」
「いや、ちょっとトイレに行ってただけなんだけどさ」
「……」
ほら、やっぱり強運なんです。志貴さんって。
「何が起こったのかはわかりません。今回ばかりはわたしが起こした事件ではないと主張しておきます」
「うん……琥珀さんが犯人だったらここにいるはずないだろうし」
「わたしが犯人だったらもっとあれこれ準備してから始めますよ」
「……まあね」
志貴さんは複雑な表情をしていました。
「とりあえず現場検証といきましょうかー」
「検証って何をするの?」
「爆発物が投げ込まれて爆発したのか予め仕掛けられていたのかーとか」
「……予め仕掛けられてたって……そんな俺恨み買うような事してないってば」
「大いにありますよ。主に女性関係とか」
「……う」
たじろぐ志貴さん。
「あはっ。多少は自覚があったんですねー」
「い、いや、でもアルクェイドにしろ秋葉にしろ先輩にしろ……俺を殺そうとは思わないでしょ」
「まあそれもそうなんですけど……」
と、真っ黒けの壁に何かもぞもぞ動いているものを発見しました。
「し、志貴さん」
「ん」
脇を小突いてさりげなくそれの存在を教えます。
「……」
無言で頷く志貴さん。
うごめくそれが何なのかはわかりませんが、何かの手がかりになるはず。
ゆっくりとそれに近づき。
「このっ……!」
傍の本を掴んで投げつけました。
「わわわっ?」
なんと声を発するその物体。
シュンっ!
「え……」
そしてわたしの耳元を何か白い光線が通り過ぎていきました。
どごーん!
「……」
後ろを振り返ると秋葉さまの部屋のほうが見事に大破。
さようなら秋葉さま。わたしは秋葉さまという胸のない根性悪の当主の事を生涯忘れません。
「な……かはっ」
「え」
その物体のほうに目線を戻すと志貴さんがドリフのショーみたいにアフロヘアーで真っ黒焦げになっていました。
「ししし志貴さん大丈夫ですかっ?」
「……駄目」
ばたん。
「し、志貴さーんっ!」
志貴さんはぴくりとも動いてくれません。
「……」
なおももぞもぞと動く謎の物体。
「あ、あわわ。いくらわたしが策士といえどもごく普通のかよわい女の子なんですよ?」
化け物なんかに勝てるはずはありません。
しーん。
「……誰もツッコミがいないからボケてもつまらないですねえ」
こんな状況でも状況分析が出来なきゃ策士とは言えません。
「先ほどあなた話されましたよね? 言葉分かりますか?」
わたしはそのもぞもぞ動く物体に話しかけました。
「あ……え、は、はい」
どうやら少しは知性のあるもののようです。
「あなたは誰ですか?」
「えーええと……なんといいますか……遠野志貴さんを助けに来た精霊?」
いや、志貴さんにトドメさしたの貴方じゃないですか。
「そ、そうです。わたしは遠野志貴さんを助けに来たんですっ。無事ですかっ?」
「……残念なことに真っ黒焦げになってしまいました」
わたしがそう教えるとその真っ黒けな方はがくりと落ち込んだようでした。
「な、なんてことでしょう。間に合わなかったんですね……うう」
いえ、志貴さんは運よく爆発を回避したんですけれど貴方にやられたんですってば。
「……で、お名前は?」
「あ、は、はい」
顔をごしごしと拭うと割と可愛い感じの女の子でした。
耳が人間と違ってみょーんと長いのでもしかしたら本当に精霊なのかもしれません。
「わたしの名前は第七聖典セブン。略してななこです」
「はぁ。第七聖典さんですか。それはずいぶんご大層な苗字ですねえ」
「い、いや、それは固有名詞でして。第七聖典イコールセブンでありイコールななこなんです」
「……ややこしいですね」
「わたしも困ってます」
まあそんな精霊さんの名前の事情なんて知った事ではありません。
神話の世界ではもっとややこしい名前がたくさんいるんですからね。
「志貴さんを助けに来たと言いましたが……これは一体どんな状況なんです?」
「あー……えと、その」
目線を泳がせるななこさん。
どうやら一般人には言ってはいけない内容のようです。
「大丈夫です。こう見えてもわたしは口が堅いんです」
「そ、そうなんですか。実はその……遠野志貴さんに協力を依頼しに来たんです」
「はぁ」
一体志貴さんに何をさせる気だったんでしょう。
「ですがそれを先に察した敵勢力が先に刺客を送り込んで……このザマです」
むしろわたしは最初の爆発すらこのななこさんの仕業だったんじゃないかと思えて来たんですけど。
「ああどうしよう。志貴さんを連れていけなかったらわたしマスターにしかられるぅ」
「大変なんですねえ」
いつの時代も下っ端というのは辛いものなのです。
「そ、そうだっ。あ、あなたっ」
「……はい?」
わたしの顔をじっと見つめるななこさん。
「あなたわたしの姿が見えるってことはタダモノではありませんよねっ?」
「え? いや、えーとその」
もしかしてななこさんの姿って普通の人には見えないものなんでしょうか。
「まあ、一応特殊能力があることはありますが……」
ぶっちゃけサポート系なんで直接戦闘には向いてないんですよねえ。
「な、ならっ! お願いがありますっ!」
ははぁ。話が読めて来ましたよ。
倒れてしまった志貴さんの変わりにわたしに戦って欲しいというんですね?
あいにくですけどわたしは戦闘系じゃないんで……
「お願いです! 魔法少女となって悪のネロなんとかを倒して下さいっ!」
「ま、魔法少女っ?」
「そうです! 女の子の憧れ魔法少女ですよっ!」
なんですかこの展開っ。
流行りの言葉で言えば……
「ぶっちゃけありえない?」
続く