ははぁ。話が読めて来ましたよ。
倒れてしまった志貴さんの変わりにわたしに戦って欲しいというんですね?
あいにくですけどわたしは戦闘系じゃないんで……
「お願いです! 魔法少女となって悪のネロなんとかを倒して下さいっ!」
「ま、魔法少女っ?」
「そうです! 女の子の憧れ魔法少女ですよっ!」
なんですかこの展開っ。
流行りの言葉で言えば……
「ぶっちゃけありえない?」
「君も今日から魔法少女!」
その2
「そう言われましてもこれは現実でして」
「……というか志貴さんを魔法少女にする気だったんですか?」
元々ななこさんは志貴さんを呼びに来たわけで、つまりはそういうことになると思うんですけれど。
「いえいえ。あなたが女性なので魔法少女たる資格があるんです」
「はぁ」
一瞬魔法少女のコスプレした志貴さんのビジョンが浮かんで爆笑しそうになったじゃないですかっ。
「どうですか? やってみませんか魔法少女」
「そんな……イヤですよ。魔法少女だなんて馬鹿馬鹿しい……」
と口では言っていますけれど。
魔法少女、変身ヒロイン。
その言葉に憧れなかった女の子がいたでしょうか? いえ、いません。
魔法使いサリーちゃんからふたりはプリキュアまで極めつくしたこのわたし。
そりゃあ滅茶苦茶やりたいに決まってますともっ!
でもそんなものに憧れてただなんて、わたしの清楚可憐なイメージとはとてもかけ離れていて。
いやそれは冗談ですが。
策士腹黒と言われたわたしが魔法少女になんてなれるわけがないと思っていましたので。
まずは否定してもう一押しされたらOKを出すという展開に持って行きたかったわけです。
「そうですか……残念です。では他の方をあたるとしましょうか」
「え」
ところがこのななこさんはとんでもないことを言い出しました。
「え、ちょ、そんなあっさり諦めていいものなんですか?」
「ええ。だってイヤだと言っている人に強要は出来ませんし。実際誰がやってもいい仕事なんです」
「い、いや、一般人の人が化け物と戦うのは危険でしょう?」
「だから魔法少女になってもらうんじゃないですか。魔法少女なら化け物とも立派に渡り合えます」
「……」
まずいです。このままではななこさんは去っていってしまいそうです。
しかしここでわたしを……と主張したらなりたがってるのがバレバレですし。
「でもななこさん。あなた言いましたよね? 『あなたわたしの姿が見えるってことはタダモノではありませんよねっ?』と」
「あ、はい。言いましたけど」
「この先そんな簡単にあなたの姿を見える人間が見つかるんでしょうか? 難しいと思うんですが」
「あ……そういえばそうですね」
やりましたっ。
やはりななこさんの姿が見える人間というのは貴重なようです。
「うーん」
考え込むななこさん。
しかし答えは決まっています。
やっぱり貴方が魔法少女を引き受けていただけないでしょうか……と。
その時はもう二つ返事でOK出しちゃいますわたしっ。
「ううん……」
さあ、さあっ!
「あの……姉さん、今の爆発は何だったんですか」
「えっ?」
そこに現れたのは……翡翠ちゃん。
「……そちらの方は……一体?」
「あわわわわわ」
まずい。ひじょおにまずいです。
やはりわたしの妹だけあって翡翠ちゃんにもななこさんの姿はしっかり見えているようです。
「あれ、もしかして貴方もわたしの姿が見えたりします?」
「あーっ! ひ、翡翠ちゃんっ。これはねっ。なんでもない。なんでもないのよっ? だからお部屋で寝てて構わないからっ」
「はい、その……見えておりますが……不思議な感じのする方ですね」
「ええ。わたしは精霊なんですよ。現在魔法少女候補を探して声をかけてるんです」
「……魔法少女」
「興味ありませんか? とっても楽しいですよ?」
「ひ、翡翠ちゃんっ? 魔法少女なんてつまらないよっ? 止めたほうがいいよっ?」
このままではわたしではなく翡翠ちゃんが魔法少女になってしまいそうです。
なんとしてでもそれだけは避けさせねばなりません。
「その魔法少女は何をするのですか?」
「あ」
そう言えばわたしもそれをよく聞いてませんでしたね。
ネロなんとかとか言ってた気がしますけど。
「えーとですね。以前ネロ=カオスというそれはそれは恐ろしい化け物がいたんです」
ななこさんは説明をし始めました。
「ネロ=カオスはマスターと志貴さんの活躍でなんとか倒すことが出来たんです」
「志貴さんが?」
「はい。獅子奮迅の活躍だったらしいですよ」
「はぁ……」
この志貴さんがですか。
ちょっと信じられない話ですねえ。
「……ところで姉さん。志貴さまはどこへ?」
「……あ」
そういえばわたし志貴さんが倒れたまま放置しちゃってましたね。
「えーと、そこに……」
「し、志貴さまっ!」
志貴さんに駆け寄る翡翠ちゃん。
「どうしてこんな事に……」
「ええ、そのネロ=カオスの体の生き残りの仕業なんです」
実際はななこさんのせいなんですけどねえ。
「体の生き残りとは?」
まあ自覚がない人に何を言っても無駄なのでわたしはもう少し情報を得ることにしました。
「ネロ=カオスの体は666の混沌で出来ていたんです。志貴さんの活躍でそのうち660は滅することが出来ました」
「ってことはほとんど倒したって事じゃ?」
「はい。わたしとマスターは今残りの6を追っているんです。名前がないんでネロなんとかととりあえず呼んでいます」
「……」
それはまたずいぶんなネーミングセンスですね。
「ところがそのネロなんとかが非常に厄介でして……無茶苦茶弱いんですけど繁殖力が異常なんです」
「は、繁殖ですか」
「はい。5を倒したとしても、1残ってしまえば翌日には6に戻っています。1日でも放置したらもっと増えてしまいますし」
「大変なんですね」
「そうなんですよ。マスターもほとんどノイローゼ気味で……」
なるほど、それで手伝ってくれる人を探していたわけですか。
「わかりました。そこまで聞いては引き受けざるを得ませんね。喜んで魔法少女をやらせていただきます」
「えっ……ほ、ほんとですかっ?」
「はい。仕方なく……ですよ?」
ああもうここまで来るのに無駄に長かったですよっ。
さっさとイエス出して魔法少女になっちゃえばよかったですっ。
「あああ、ありがとうございますっ。これでマスターも救われます」
「いえいえ」
さあさあ早く魔法のグッズをっ。
ステッキですか? コンパクトですか?
変身ポーズでもなんでもおっけーですよっ?
「ではとりあえず……名前決めましょうか?」
「な、名前っ? 自分で決めていいんですかっ?」
「ええ、もちろんですよ。名乗るのは貴方なんですから」
「じゃ、じゃあ……」
実は秘密の魔女っ子ノートに名前候補がたくさん書かれているんです。
そしてその中のマイベスト魔女っ子ネームが……
「ほうき少女……ほうき少女まじかるアンバーでお願いしますっ!」
続く