だから秋葉さまセリフが完全に悪者ですって。
「とうっ!」
しゅたっ。
「……!」
「なっ……?」
ついにわたしたちの前に姿を現した第三の魔法少女。
ですがその姿にわたしたちは驚きを隠せませんでした。
「天空よりの使者……マジカル☆ヒスイ推参っ!」
「君も今日から魔法少女!」
その10
「ひ、ひひひひひひひ……翡翠ちゃんっ?」
「どうして翡翠が……?」
そう、わたしたちの目の前にいるのは翡翠ちゃんでした。
「はぁ。お知りあいなんですか。なんだかよくわからないけどマスターがこの人を採用したということですね」
「か、カメラっ。カメラ持ってませんかっ? この感動的な姿を保存しておかなければっ!」
あのほとんどメイド服しか着た事のない翡翠ちゃんのらぶりーでぷりちーな魔法少女姿っ!
ヲタクな人なら1秒で撃沈出来るでしょうっ。
ええ、実の姉のこのわたしが言うんだから間違いありませんっ。
「ひ、翡翠ちゃん……萌えーッ!」
「琥珀……なんか危ない人になってるわよ」
「はっ! わ、わたしとしたことが」
しかしこれはあれですよ?
「秋葉さま、もしかしなくてもこの状況って、わたしと翡翠ちゃんの姉妹魔法少女が出来たってことですよね?」
「う……そ、そういえば」
マスターさんとななこさんは味方。
つまり翡翠ちゃんとわたしも味方同士。
「姉妹魔法少女って斬新じゃないですかっ? 二人はヒスコハというタイトルでアニメ化出来そうな勢いですよっ?」
「なっ……なにをバカな事をっ! 新番組はラブリー少女シルベルアギーハよっ!」
「ハッ! ご自分のどこを見てラブリーだと言いたいんですか? そのまな板のような胸ですか?」
「な……なななななな!」
これは普段の秋葉さまにとっては最大の禁句です。
しかしこの琥珀はあえてこの状況だから言ったのです。
「琥珀……あなた言ってはならないことを言ってしまったわね……」
「あ、あの琥珀さん? なにやらこの方恐ろしいオーラを発し始めたんですが?」
「大丈夫ですっ。わたしと翡翠ちゃんの姉妹の絆に勝てるものはありませんからっ!」
ここいらでひとつわたしたち姉妹と秋葉さまの力の差を実感してもらうとしましょうっ。
翡翠ちゃんが味方だと分かった以上秋葉さまは邪魔もの以外の何様でもありませんっ!
「さっきまで味方にしようとしてたというのになんてえげつない……」
「え? なんのことですか? わたしさっぱりわかりませんねー」
秋葉さまよりも翡翠ちゃんを選ぶのは一般常識でしょうっ?
「さあ翡翠ちゃんっ、わたしと一緒に悪をやっつけましょう!」
わたしは翡翠ちゃんの手をぎゅっと握り締めました。
「……はて?」
なにやら翡翠ちゃんの手がいやに冷たいような。
「琥珀。あなた一人で喋ってるけどこういうのは翡翠の意思も大事でしょう?」
「いや、まあそれはそうなんですけど」
「翡翠。あなたはわたしの雇っているメイド。どちらにつくかくらいわかるでしょう?」
「あ。それはヒキョウですよ秋葉さま。日頃の関係は魔法少女とは関係ありません」
「だったら姉妹だって関係ないでしょう」
「し、姉妹の絆は別格なんですっ!」
「……」
翡翠ちゃんは何も言わずわたしから手を離しました。
「翡翠ちゃん?」
「……」
しゃきーん。
「おおっ?」
そしていきなりスカートの中からビームサーベルを取り出します。
「きゃきゃーっ、翡翠ちゃんってば大胆っ!」
志貴さんとかだったら今の仕草だけで鼻血ものですよっ。
「抜けば玉散る氷の刃……」
そして翡翠ちゃんはその切っ先を秋葉さまに向けました。
「や、やる気なの?」
「いざ尋常に」
「そう……なら仕方ないわねっ!」
くるくるくると魔法のステッキを回す秋葉さま。
「灼熱の炎に焼かれて滅ぶがいいわ! 食らいなさい! ボルテックシューター!」
「対抗してセリフ増やしてません?」
「だまらっしゃい! まずはあなたからよっ!」
「ふ、この琥珀を倒そうなど100年早いんですよっ!」
迫りくる炎。
「えいっ♪」
すぐ傍にいたななこさんをわたしの前に設置。
「え? ちょ、ちょ、待っ……!」
ちゅどーん!
ものすごい炸裂音がしました。
「……さようならななこさん。あなたのことは忘れません……」
「生きてますよっ! 何するんですかあっ!」
「うわ、本気でしぶといですね」
「しぶといってなんですかっ! 防御魔法で回避したからよかったものの」
「あはっ、魔法少女といってもか弱いわたしを護るのは精霊の仕事でしょう?」
「……うう、わたし絶対人選間違えました……」
このようにななこさんガードでわたしに被害が来る事はない……と。
「ひとつっ!」
キィン!
「くっ!」
「ふたつっ!」
カキィン! バシュッ!
「あぐっ……調子に乗らないでっ!」
「みっつ! うりゃー猪鹿蝶!」
「牙神っ?」
とにもかくにも翡翠ちゃんは秋葉さまと互角の戦いをしています。
ここは援護してあげなくちゃっ。
「ななこさん、そのへんに石ありませんかっ? 後頭部狙えば結構ダメージありそうなんですけどっ」
「……あの、琥珀さん、それは魔法少女としてどうかと思うんですが」
「ふっ、そのツッコミはもうイヤって程うけましたから気にしない事にしましたっ。わたしらしく自分らしくっ!」
「確かブロック塀の破片がそのへんに転がってたかと」
「……やけにあっさり教えてくれましたね」
「いやもう何言っても無駄かなと思いまして」
「……」
その反応はその反応でちょっと腹が立つのですが。
まあ今は見逃しておいてあげましょう。
秋葉さまを倒す事が先決ですっ。
「散れっ!」
「起き上がりに飛び道具重ねっ?」
二人はなんだかマニアックな戦闘を展開していました。
キィン!
翡翠ちゃんの放った飛び道具を秋葉さまがガードすると飛び道具は宙を回転し始めました。
「足払いとの二択……かわせますかっ!」
「せ、セコイ! せこいわよ翡翠っ!」
「これが運命です」
「そんなバカなっ……!」
再び杖を回転させる秋葉さま。
「それならばこれを受けなさい! レゾナンスウェーブッ!」
「なっ……!」
秋葉さまが叫ぶと周囲の大気が振動しはじめました。
「……っ!」
吹っ飛ばされる翡翠ちゃん。
「ひ、翡翠ちゃんっ!」
わたしは慌てて翡翠ちゃんを抱き止めにいきました。
が。
「……飛行モード」
ギュイーンッ!
「はい?」
バサアッ!
なんと翡翠ちゃんの背中から翼が生えました。
そしてその羽で飛行する翡翠ちゃん。
ゴゴゴゴゴゴゴ……
羽から響く轟音。
「え……ちょっと?」
秋葉さまは目を丸くしていました。
「……ソノ武器ヲ捨テロ」
右腕をライフルに変形し、秋葉さまに照準を向ける翡翠ちゃん。
そろそろつっこんでみましょうか。
さあ、皆さんご一緒に。
よろしいですね?
「メカだあれーーーっ!」
第三の魔法少女の正体。それは翡翠ちゃんではなくメカ翡翠ちゃんでした。
続く