秋葉さまは目を丸くしていました。
「……ソノ武器ヲ捨テロ」
右腕をライフルに変形し、秋葉さまに照準を向ける翡翠ちゃん。
そろそろつっこんでみましょうか。
さあ、皆さんご一緒に。
よろしいですね?
「メカだあれーーーっ!」
第三の魔法少女の正体。それは翡翠ちゃんではなくメカ翡翠ちゃんでした。
「君も今日から魔法少女!」
その11
「メ、メカってどういうことなのよ琥珀っ!」
「……えと、話すと長くなるんですが」
「簡略に話しなさいっ!」
「あれはわたしが遠野家の財産を作って作り上げたメカ翡翠ちゃんです」
「遠野家の財産を……って!」
「はっ! 余計な事まで言ってしまいましたっ」
このわたしとしたことがなんたる失態。
「代金はあなたの給料から差っ引かせて貰うわよっ!」
「そ、そんなご無体なっ。ただでさえ安月給なのにっ!」
「バカおっしゃい! 無駄な事に使わなければ十分生活が成り立つぶんをあげてるわよっ!」
「策士には色々とお金が必要なんですよっ!」
ズキューンッ!
「は、はう」
わたしと秋葉さまのほんの僅かな隙間をレーザーが通り抜けていきました。
「モウ一度警告スル。ソノ武器ヲ捨テロ」
「あああ、秋葉さま。とりあえず言う事を聞いたほうがいいんじゃ」
「そ、そそそ、そうね」
秋葉さまは魔法のステッキを地面に起きました。
「しかしあのメカ翡翠ちゃんはまだテスト中で起動段階まで達して無かったと思うんですが……何故動いているんでしょう」
「それこそ魔法の力じゃないの?」
「メカに魔法って効くんですかね……」
「そんなこと私が知るわけないでしょ」
まあそれは確かに。
謎ばかりが増えていきますねえ。
「なんにしても対処しなくてはいけませんけど」
会話から察するにあんまり人類にとって優しくない仕様となってるっぽいんですが。
「ソッチノ女。オマエモ捨テロ」
「え? わ、わたしもですかっ? わたしあなたの味方なんですけどっ?」
といいますか最初はひらがなも混ざってたのに何故に今はカタコトなんでしょうね。
「ワタシ以外ノ魔法少女は皆敵ダ」
「……小賢しい、機械の分際で魔法少女を名乗るだなんて」
秋葉さまの髪の毛が怪しくざわついていました。
「わたしの性格をインストした記憶はないんですけどね……」
やはりロボットは発案者の影響を受けてしまうものなのでしょうか。
翡翠ちゃんのようならぶりーでぷりちーなメカを目指したはずなのに。
「ハヤクステロ。捨テナケレバ射殺スル」
「無茶苦茶タチ悪いですね。どうしてこんなことになってしまったんでしょう」
「あなたのせいじゃないの?」
「わたしはあんな性格歪んだロボット作りませんっ!」
繰り返しますけど翡翠ちゃんのようにらぶりーでぷりちーな……
ズキューンッ!
「タイムオーバー。コレヨリ消去ヲ開始スル」
「……秋葉さま。とりあえず二人で協力して倒さなきゃいけない敵が現れたみたいですけど」
どうやらあのメカ翡翠ちゃんとの和解は無理そうです。
「仕方ないわね……でも遠野の財産を使ったと聞いた以上、破壊はしたくないわ」
秋葉さまはお金持ちなのにケチな思考でした。
まあ、わたしとしても翡翠ちゃんの姿をしているメカ翡翠ちゃんを破壊なんて出来ませんからそれで問題ないんですが。
「とりあえずメカ翡翠ちゃんは停止スイッチを押せば動かなくなりますよ」
「どこにあるのそれは?」
「首の後ろです」
本当は人には言えないような危ないところにつけてみたかったんですけれど。
それだと某パソコンになっちゃいますからねえ。
「なるほど。二人で協力してそのスイッチを押せばいいわけね」
「ええ。秋葉さまが戦ってわたしがこっそりスイッチを押すという作戦がいいと思います」
「……貴方が戦いなさいよ」
「秋葉さまのほうが戦闘的でしょう」
このか弱いわたしに戦えなんてなんて無茶な事を仰るんですかっ。
「あのー、お二人とも、ケンカしてる場合じゃないと思うんですけど……」
「部外者は黙ってなさいっ!」
「そうです、これは遠野家の問題なんですっ!」
「ま、魔法少女の問題ですよぅ……」
ななこさんはもはや完全に端役と化していました。
魔法少女の精霊の扱いなんてまあそんなもんです。
「サンライト・ボンバー!」
「うわっ、落ちてきますよ秋葉さまっ!」
「……っ」
どごーんっ!
メカ翡翠ちゃんのキックで地面に穴が空いてしまいました。
「トアアアアーッ!」
「ちょこざいな……知るといいわ。真の魔法少女の力というものを!」
秋葉さまはステッキを拾いメカ翡翠ちゃんの攻撃を受け止めます。
「ミサイル!」
「近距離での飛び道具なんてっ!」
ちゅどーん!
「ビーム!」
「通用しないと言ってるでしょうっ!」
どごーんっ!
「ああああ、秋葉さまっ! 秋葉さまが回避するとそこいらじゅうの建築物に被害がっ!」
「見ているだけのあなたが私に指図する気っ!」
「う」
それを言われてしまうととても痛いんですが。
「あれに参戦するのはちょっと……」
「ゴットハンドスマッシュ!」
「甘いわっ! シャイニングフィンガーとはこういうものよっ!」
それにしても秋葉さまの戦い方は何でもありです。
魔法少女としてはほぼ理想に近い戦い方なのですが。
「秋葉さまっ! 服のチラつかせ方が甘いですっ! 見えそうで見えない絶対領域を駆使しなくてはっ!」
「どこに目をつけてるのよあなたっ!」
「そんなんでは大きなお友だちの興味を惹く事は出来ませんよっ! 素材はいいのに勿体無いっ!」
秋葉さまのつるつるぺたんな体型は大きなお友だちには好評のはずっ。
ああ、今だけは秋葉さまよりも恵まれた体型のわたしのボディが憎いですっ。
「バカな事言ってないでさっさとスイッチをなんとかなさいっ!」
「えー……」
わたし勝算の薄い戦いはやる気ないんですけれど。
「ななこさん、行ってみません?」
「こういうときだけわたしを頼らないで下さいよぅ」
「はぁ。仕方ありませんねー」
このままでは秋葉さまばっかり目立ってしまいますし、わたしも動くとしますか。
「ジェットローラーシーソー!」
「甘いわっ! 食らいなさいアイシクルディザスター!」
必殺技合戦をしている二人にゆっくりと近づいていくわたし。
そしてわたしも必殺技発動ですっ。
「あーっ! あんなところに上半身裸の志貴さんがっ!」
「えっ!」
「……!」
秋葉さまもメカ翡翠ちゃんもロコツにわたしの言葉に反応してくれました。
どごーん!
ちゅどーん!
「……直撃……損傷70%オーバー……」
「琥珀……あなた……」
お互いの必殺技をモロに食らって倒れこむ二人。
そしてメカ翡翠ちゃんの背後に回りこむわたしっ。
「ポチっとな!」
わたしの指先はメカ翡翠ちゃんの停止スイッチを押しました。
「ガ……ガ……ガ」
がくがくとぶれた後動かなくなるメカ翡翠ちゃん。
「勝ったっ! わたしの作戦勝ちですっ!」
秋葉さまも不慮の事故で倒れた事ですし、残った魔法少女はわたし一人。
「つまりわたしこそが真の魔法少女っ!」
「え……ヒロインとしては完全に失格な戦い方だったと思うんですが……」
「あーっ、聞こえません聞こえませんっ!」
しょせん勝てば官軍の世の中なんですよっ。
「どんな事件もほうき少女まじかるアンバーにさくっとお任せですっ」
ここぞとばかりにわたしは決めポーズを披露するのでありました。
続く