秋葉さまも不慮の事故で倒れた事ですし、残った魔法少女はわたし一人。
「つまりわたしこそが真の魔法少女っ!」
「え……ヒロインとしては完全に失格な戦い方だったと思うんですが……」
「あーっ、聞こえません聞こえませんっ!」
しょせん勝てば官軍の世の中なんですよっ。
「どんな事件もほうき少女まじかるアンバーにさくっとお任せですっ」
ここぞとばかりにわたしは決めポーズを披露するのでありました。
「君も今日から魔法少女!」
その12
「前回のあらすじ。魔法少女同士の争いに生き残ったのは極悪策士でした」
「ななこさん、何かおっしゃいました?」
「いえ、なんでもないです……」
「そんなテンション低くちゃ駄目ですよー。ささ、ネロさん探しに行きましょう」
「あー……そうですね……なんかもうどうでもよくなってきちゃいましたけど……」
ななこさんはやたらと投げやりになっていました。
人がせっかく決めポーズで勝利の余韻に浸っていたというのに。
「精霊がそんな事では魔法少女のモチベーションまで下がってしまいます」
「あー、はい。そうですね」
気のない返事はちっとも変わっていません。
「むー……」
「わたしは最初からこんなテンションでしたよ……はぁ。ささ、わたしなんぞのことは気になさらず」
「まあ、別にいいですけど」
脇役は目立つものではありませんからね。
「とりあえず秋葉さまの杖はわたしが預かることにして……」
いざとなったらこれを敵に投げつけて爆発させるのです、ふふふ。
「メカ翡翠ちゃんの武装も拝借しておきましょう」
多くの武装は体に内装されているものですが、分離できるものもあるのです。
小型火炎放射器とかビームサーベルとか。
火炎放射は上手く使えば魔法っぽく見せられそうです。
「まじかるふぁいあーなんてうふふふふ……」
「あのー、琥珀さん?」
「まじかるさーべる、えいやー! ……じゃちょっと肉体的すぎますかね」
「琥珀さんってばっ」
「え? はい? なんでしょう?」
人がせっかく必殺技を考えていたというのに。
「二人を介抱とかそういうのはないんですか?」
「いえ、復活されたらまた厄介な事になりますんで放置しておきます」
「放置……むごい……」
「大丈夫ですよ、秋葉さまは頑丈ですしメカ翡翠ちゃんはメカですし」
介護するのが面倒だからとかそういう理由ではありません。
「ネロさんを倒せば平和になるんです。ならばわたしがすべき事はネロさんを探し、倒す事でしょう」
「ま、まあ……それは……そうなんですけれど」
「ならば迷う事はありませんっ! さあさあっ!」
「……えと、マスターのところに案内するって話は」
「それは秋葉さまが言っていた事でわたしにはまるで関係ありません」
悪を全て倒せばすなわちわたしが正義、真の魔法少女。
それさえ証明できればいいのですっ。
「うー、わかりましたよぅ。ネロなんとかを探せばいいんですね?」
「そうです」
「……ちょっと待ってください……」
再び怪しい光を放ちだすななこさん。
「下R……上L……YBXA」
懐かしのカプコンコマンドとはまたマニアックな。
「……発見しました」
「さすが裏技の効き目は抜群ですね」
「え? な、なんの事です?」
「なんでもないですよ」
ターボだったら速度10モードにっ。
「えと、とにかく連れて行きますけど、いいですか?」
「あ、はい……いやちょっとタイムです」
「え? 何か問題が?」
「えと……ネロさんがいるのは空を飛ばなくてはいけない距離でしょうか?」
「いえ、徒歩でもいけます」
「あ、そ、そうなんですか。あはっ、よかった……」
またあの高速飛行をやられるのは勘弁願いたいですからね。
「……でも徒歩でいける距離なんですか」
「ええ」
「うーん」
近くでわたしたちの様子を伺っていたということなんでしょうか。
「こちらですよー」
「あ、はい」
若干の不安を感じつつも、わたしはななこさんの後についていきました。
「……」
月の光に照らされる公園。
「まままま、マスターッ?」
ななこさんが悲鳴に近い叫びをあげていました。
「え?」
「あああ、あれっ! マスターですよっ?」
「……マスター……さん?」
わたしの視線のずっと先にはぼんやりと人影がありました。
この位置ではどんな顔なのかよくわかりません。
「わ、わたし行って来ますっ」
「あ、ちょっと?」
止める暇もなくななこさんはマスターさんのところへと向かっていき。
ぶおんっ!
「え……わわわわっ!」
何ものかに吹っ飛ばされてしまいました。
「……えーと」
これはもしかしなくてもピンチというやつでしょうか。
「先ほどは……不覚を取った……が……全ての我を消さなかったのが命取りだったな……」
ななこさんを吹っ飛ばした黒い物体が不気味に動き形を形成していきます。
「あの、ちょっと、マジですか?」
これってほのぼの魔法少女ストーリーじゃなかったんですかね?
「……部品は足らないが姿を模す程度は出来る」
それは人に近い姿をしていました。
「残った全ての部品を結集すれば……代行者ごとき……どうとでもなるのだ」
「ちょ、ちょっと、落ち着いて話しあいません? ね? ね?」
「だがかなりの力を消耗してしまった……」
一歩ずつわたしに近づいてくるネロさん。
「食事をすれば体は修復できる。特に……魔力の高い人間はいい餌になる」
「……ま、まさか」
この展開だとネロさんが餌としようとしているのは。
「よくも我が部品を破壊してくれたな。貴様を食わせてもらうぞ」
「えええええええーっ!」
やばいです。ギャグやってる場合じゃありません。
魔法少女まじかるアンバー絶体絶命の危機!
「……とまあ普通の魔法少女なら慌てふためくところですが、このわたしは一味も二味も違います」
「む」
「あなたは今言いましたよねっ。かなりの力を消耗してしまったとっ!」
それはつまり弱っているということです。
「そう、あなたは飛んで火に入る夏の虫っ!」
ネロさんの一部はバケツで殴った程度で倒せる雑魚だったんです。
それが集合したところで烏合の衆っ。
「ならば……試してみるといい」
「言いましたねっ」
今のわたしにはメカ翡翠ちゃんから奪った強力な兵器があるんですよっ。
「地獄の業火に焼かれなさいっ! まじかるふぁいあーっ!」
火炎放射器のスイッチをぽちっと。
ゴオオオオオッ!
火力モード最強、灼熱の炎がネロさんを襲いました。
「もえろもえろもえつきろーっ!」
「……下らん……攻撃だ」
「え」
ギュイン!
「わっ!」
炎の中から黒い塊が飛び出し、わたしの持っていた火炎放射器を叩き落としました。
「我は混沌……炎など通用しない」
「……そ、そんな」
打撲は効くのに炎は効かないってどんな理屈ですかっ?
「先ほどと同じに考えぬことだな。666倍は強化されている」
「くっ……」
あんな雑魚が666倍強くなったって例えはすごいわかり辛いんですがっ。
今目の前にいるこの相手が強敵だというのは認めざるを得ないようです。
「本気を出さざるを得ないようですね……」
こうなったら策士としての策を総動員するだけです。
なおかつ魔法少女としてもフルパワーを用いる作戦を。
「覚悟なさってくださいよっ」
わたしの頭脳は即座にネロさんを倒すための策を構築しはじめるのでありました。
続く