「本気を出さざるを得ないようですね……」

こうなったら策士としての策を総動員するだけです。

なおかつ魔法少女としてもフルパワーを用いる作戦を。

「覚悟なさってくださいよっ」
 

わたしの頭脳は即座にネロさんを倒すための策を構築しはじめるのでありました。
 
 


「君も今日から魔法少女!」
その13





「ほう、我と戦うつもりか」
「当然です。ここでわたしが戦わなければこの街の平和は誰が守ると言うんですかっ」

聞きましたか? このかっこいいセリフっ。

ビデオに録画して永久に保存しておきたいところですよねっ。

「下らんな。そのようなもののために命を落とすというのは」
「何をおっしゃいますか。それこそが魔法少女の生き様なんです。秋葉さまを魔法少女にした貴方ならわかるでしょう?」
「……あれか。あれは時間稼ぎのためだ。遊びに過ぎぬ」
「左様ですか。ならやはり秋葉さまは偽者だったということですね」

会話をしつつもわたしはチャンスを狙っていました。

次に仕掛ける兵器は秋葉さまのステッキに取り付けた超小型爆弾。

ステッキから外したそれをネロさんめがけ投げつけ爆発させるのです。

(だ、駄目ですよ琥珀さんっ。今のネロなんとかには物理攻撃は通用しませんっ)

「え?」

急に頭の中に響いてくる声。

この声はななこさんのものです。

生きてたんですか、あなた。

(勝手に殺さないで下さいっ。マスターを安全なところまで連れていっただけですっ。マスターのカタキを打つためわたしも戦いますっ)

ななこさんはやる気十分のようでした。

物理攻撃が通用しないってどういうことです?

(一部分のみの雑魚は再生機能が弱かったようですが、この合体ネロはかなり本体に近いみたいですので。魔力攻撃以外は無駄だと思います)

そ、そんな、わたし魔法なんて使えませんよ?

(そのためのステッキじゃないですかっ)

……ああ、あの撲殺兵器ですね。

(立派な魔力を持たせた道具ですっ! 通用しますっ!)

「どうした? かかってこないのか?」
「……」

正直言ってわたし程度の身体能力じゃネロさんに格闘でダメージを与えるのは難しいと思うんですが。

(そのへんはわたしがなんとかフォローしますのでっ……いきますよっ)

まあ……なるようにしかなりませんか。

とりあえずななこさんに期待してわたしの策は後に発動する事にしましょう。

「ネロ=カオスっ!」
「む」

ふわふわと空中に浮かんでいるななこさん。

「よくもマスターをやってくれましたねっ! この第七聖典セブンがただではおきませんよっ!」
「第七聖典……貴様には苦しめられた記憶がある。排除すべきだ」

空中へ向けて黒い触手を伸ばすネロさん。

「ひゅっ!」

地上へ急降下してそれをかわすななこさん。

「マスター直伝! コードスクウェアっ!」
「ふん。代行者のいない第七聖典など……雑魚に過ぎぬわ!」

パチンと指を弾くと地面から巨大なモグラの腕が現れました。

「わ、わーっ!」

また吹っ飛ばされていくななこさん。

「な……何故です。わたしの魔力はマスターなしでも百万あるはずなのに……」

いきなり万の桁が出てきましたけど普通の人の力はどれくらいなんでしょう。

「百万……下らんな。我の魔力は一千万は下らん」
「い……一千万っ?」

不完全なはずのネロさんはとんでもないパワーを持っていました。

「わたしの倒した部品ってどれくらいのパワーだったんでしょう……」

1/666として……ええと。

「まま、ますたーは三千万パワーは持っていたはずですっ! どうしてあなたが倒せたんですっ?」

ああ、わたしの関係ないところで力のインフレ化が進んでいます。

この調子だとアルクェイドさんあたりは一億パワーとか言いかねません。

「簡単なことだ。罠をしかけ、それに代行者が引っかかったところを倒した」
「……む」

どうやら策士としてもこのネロさんは優秀なようです。

「はっ! ままま、まさかカレ……ごほげほごほっ!」

何かを言いかけて大げさにむせるななこさん。

「ひ、卑怯な! なお許せません! このわたしが成敗してあげますっ!」
「百万パワーごときが一千万パワーに勝てるわけなかろう」
「そう考えるのは浅はかですっ!」

しゃきーんとなにやら角のようなものを取り出すななこさん。

「ユニコーンヘッド装着で200万パワー!」

はて、この展開はどこぞの少年マンガで見たような。

「いつもの2倍のジャンプがくわわって200万×2の400万パワーっ!」

言葉通りものすごい高度まで飛んでいくななこさん。

「そしていつもの3倍の回転をくわえれば400万×3の……」

わたしは思いっきりツッコミを入れたかったですが堪えていました。

プラシーボ効果というものもありますし、余計な事は言わないほうが。

「これであなたを超える1200万パワーですっ!」

ななこさんの体が光り輝きました。

あの計算式ってどう考えてもおかしいんですけれど。

これも魔法の力というやつなんでしょうか。

あーっとななこさんが光の矢になったー! と実況を入れたいところですが。

「食らいなさいっ!」

ネロさんに向かって突っ込んでいくななこさん。

「ぬ……くっ」

さすがにこの攻撃は衝撃だったようです。

ズシャアアッ!

「や、やったっ?」

ネロさんの中心を貫通したななこさん。

「……ってちょっと?」

精霊のほうが魔法少女より活躍するってまずくないですか?

魔法少女のほうが主役ですよね?

「フ……フフフ」

体を貫かれたネロさんは怪しい笑いを浮かべていました。

「え……?」

1200万パワーの影響なのかふらふらになっているななこさん。

「愚かな……あれだけ派手な行動をしていて我がそのままでいるわけないだろう」
「うわ……わっ」

次の瞬間、地面からネロさんが何人も現れました。

「あらかじめ分離していたのだ。これなら力を殺される比率は少なくなる」
「そ、そんな……っ」

膝をつくななこさん。

「……」

ネロさんがたくさん増えてしまったこの状況。

確かに傍目には不利に見えますけれど。

「終わりだ。滅ぶがいい、第七聖典」
「いえ、まだ終わりではありませんっ!」

わたしはほうきを持ち上げ、近くにいたネロさん向けて思いっきり振り回しました。

ぶおんっ!

真っ二つに引き裂け、そのまま消滅していくネロさん。

「な、なんだと!」
「合体怪人が分離したら一匹一匹は弱いに決まってるじゃないですかっ!」

かの有名な三つ目の人もこれに気付かず破れていったのです。

「ななこさんっ! あなたの犠牲のおかげですよっ!」

あの無茶苦茶な計算理論を聞いて警戒しすぎたんでしょう。

安全策を取って失敗したといういい例です。

「わ、わたしまだ死んでないんですが……」

ななこさんの言葉はさらりと流しておいて。

「さあ、わたしの大活躍がはじまりますよーっ!」
 

次回の放送前にはビデオかDVD準備が必須ですっ!
 
 

続く



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