「ちょ、ちょっと秋葉さま?」
「今の私はシルベルアギーハよっ!」

バシュ!

「わ……たっ?」

わたしのいた場所に赤い光線が放たれました。

「ふん……上手くかわしたわね」

その光線はどうやら秋葉さまの持っている杖から放たれたようです。

「なんか……向こうのほうがホントの魔法少女って感じがするんですか?」
「ネ、ネロは魔物だから何でもアリなんですよっ。正義の味方はいつも待遇が悪いものなんですっ」
「……妙に説得力があるような無いような理屈ですねえ」

どちらが真実なのかもはやわからなくなってきましたけれど。

「とりあえずその杖はわたしが頂かせてもらいますよっ……!」
 

正義だろうが悪だろうが魔法少女はわたし一人で十分なんですっ!
 
 


「君も今日から魔法少女!」
その6













「食らいないさい、ボルテックシューター!」

秋葉さまがそう叫ぶと杖に赤い光が集まっていきます。

「うあ、いいなぁあれ……呪文まであるんですかっ……」

ちゅどーん!

わたしのいた場所を襲う赤い閃光。

威力も抜群のようです。

「ああっ、わたしもななこさんなんかじゃなくてネロさんに魔法少女にされればよかったっ!」

そうすればもっとあれやこれや出来たでしょうにっ。

「ちょ、琥珀さんそんな酷いですよっ。わたしだって頑張ってるのに……」
「努力は認められるものではありません! 結果が全てなんです!」

そう、世の中理不尽なのです。

才能も実力もあるこのわたしがこんな待遇で魔法少女なんてまるっきり興味なさそうな秋葉さまがあんな待遇だなんて。

なりたがってる人にはもっといい能力をつけるべきだと思いませんかっ?

「……ん?」

何か今自分の思考におかしいところがあったような。

はていったいなんでしょう?

「さあいくわよ琥珀っ!」
「あ、いや秋葉さま。ここでわたしたちが戦うのは不毛ですよ。大人しくそのステッキをわたしに下さいませんか?」

とりあえずこのままではわたしが不利っぽいので停戦を呼びかけてみました。

「冗談ではありません。これは渡せませんよ」
「……そう、ですか」

なるほどそういうことですか。

今の秋葉さまの言葉で確信しましたよ、わたしは。

「わかりました秋葉さま。秋葉さまも魔法少女をやってみたかったんですよね?」
「……さすがは琥珀ね。よくわかってるじゃない」

そう、女の子の憧れ魔法少女。

それは秋葉さまといえども例外ではありません。

「つまりこれはお互いの意地をかけた勝負なんですね……」

お互いがお互いを真の魔法少女だと主張しあう限りわかりあうことはあり得ません。

「や、止めてください二人ともっ! どうして戦いあわなきゃいけないんですかっ!」

偽善者みたいな事を叫んでいるななこさん。

まだまだ青いですねえ。

「ななこさん、わたしたちはお互いの正義のために戦っているんです。止める事は不可能ですよ」
「そ、そんな」
「同じ街に魔法少女は二人もいらないんですっ」

わたしはほうきを思いっきり振り回しました。

「な……琥珀っ! 魔法少女なら正々堂々魔法で勝負なさいっ!」
「うぐ……」

滅茶苦茶痛いところをついてくる秋葉さま。

「こ、このほうきは魔法で強化されてるんですっ! つまり魔法武器というやつですよっ! 問題ありませんっ!」
「……はっ」
「は、鼻で笑いましたねえっ!」

そりゃこの武器が魔法少女っぽくないことはわかってますがっ!

「ほうきを笑うものはほうきに泣くんですよっ!」

ちっとも飛べませんけどこのほうきにかけられた攻撃魔法だけは完璧でした。

ひゅんっ!

薙いだだけで吹く一陣の風。

「えっ」

秋葉さまの頬をうっすらと血が流れていました。

「……どうですか?」
「よ、よくもやったわねえ! ボルテックシュ……」
「遅いですよっ!」

呪文詠唱のぶんだけ秋葉さまのほうがスピードは遅いです。

わたしはアッパー気味にほうきをかちあげ、秋葉さまをふっ飛ばしました。

「きゃあああああっ!」
「……ふっ」

正義の戦いとはいえ秋葉さまを傷付け無くてはいけないだなんて。

ああ、魔法少女サイコー!

「さあチャンスですっ! じゃんじゃんいきますよっ」

ここを狙って一気に秋葉さまにトドメをっ。

「甘いわ琥珀っ! 魔法少女は空を支配するっ!」

ところが秋葉さまときやがりましたら空中で華麗なポーズを取って静止していました。

「な! ひ、卑怯ですよ秋葉さまっ! 空を飛ぶだなんて!」
「何を言ってるのよ琥珀。魔法少女は飛ぶものでしょう。それともあなた、まさか飛べないの?」
「と、飛べますよっ!」

恐ろしく低い高度ですけどっ。

「なら追ってくればいいじゃないの。ふふふ」
「ううううう……」

ああ、なんで秋葉さまばっかりあんなに優遇されてるんでしょうっ。

魔法少女としての完成度はどう考えてもあっちのほうが全然上じゃないですかっ。

「食らいなさい! ボルテックシューター!」
「わ、わ」

ちゅどーん! ちゅどーん!

「ふふふ、逃げ惑うがいいわ!」

空中から爆撃機のようにわたしを狙ってくる秋葉さま。

っていうかそのセリフはかなり悪役チックだと思うんですが。

「な、ななこさんっ!」

とにかくこのままではやられてしまいます。

なんとか反撃を考えなくては。

「な、なんですかっ?」
「わたしを秋葉さまのところまで飛ばしてくださいっ!」
「え、あ、はい、わかりました」

ななこさんはわたしに向かって大きく振りかぶって……

「ってちょっとあなた? 何される気ですか?」

答えの代わりに。

ばきいいっ!

右ストレートが飛んで来ました。

「あ、あはははは……」

ものすごいスピードで吹っ飛んでいくわたし。

さすがは魔法のブラックコート、あの衝撃を受けても宙を舞うだけですか。

「……後で絶対ななこさんヤってやります」

顔に傷が残ったらどうしてくれるんですかコンチクショー。

「ふっ。飛んで火に入る夏の虫というやつね琥珀」

秋葉さまは余裕の笑みを浮かべながらわたしにステッキを向けました。

「……まあ確かに狙いはつけやすいでしょうけど」

そんなことは百も承知なんです。

「ですが秋葉さまっ! 秋葉さまは重大な事を見落としていますっ!」
「な……何よ」
「その格好で空を飛んでたらパンツ丸見えっ!」
「えっ……はっ!」

慌ててスカートを支える秋葉さま。

そしてその動きが命取りでした。

「アウトです……」

わたしは秋葉さまの顔面向けてそのほうきを。

「ちょ、ちょ……!」

秋葉さまは目を閉じ、そして。
 

「魔法のステッキ……ゲットです!」
 

ついにわたしは念願の魔法ステッキを手に入れました!
 
 

続く



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