「アウトです……」

わたしは秋葉さまの顔面向けてそのほうきを。

「ちょ、ちょ……!」

秋葉さまは目を閉じ、そして。
 

「魔法のステッキ……ゲットです!」
 

ついにわたしは念願の魔法ステッキを手に入れました!
 
 



「君も今日から魔法少女!」
その7







「ふふふ、ふふふふふふ……」

ステッキを持って落下していくわたし。

「ちょ! 琥珀! それを返しなさい!」
「イヤですよっ。これはわたしのものですっ」

殺してでも奪い取るを選ばなかっただけマシだと思ってくださらないとっ。

「……しかし」

落下して行くわたしの頭の中にひとつの疑問がありました。

「何故わたしが落下しているんでしょう……」

しかもステッキが無くなったはずの秋葉さまは浮かび続けているという。

しゅたっ。

華麗に着地するわたし。

「琥珀っ! ステッキを返しなさい! 今すぐに!」

秋葉さまはスカートの裾を押さえたままキーキー叫んでいました。

「まさか……」

猛烈に嫌な予感がします、わたし。

「ボ、ボルテックシューターっ!」

秋葉さまが使っていた技を叫んでみても。

しーん……

「で、出ない」
「琥珀さんっ。ステッキの先をわたしに向けるの止めてくださいよっ!」
「……ああ、いけません、ついうっかり」

出来ればここで始末しておきたかったんですけどね。

「秋葉さまー。あの、つかぬことを伺うんですがー」
「ふっ、そのステッキは私しか使えないのよっ。残念だったわねっ!」
「……やはりそういうカラクリですか」

モノによっては本人で無くても使えちゃったりするんですがこれはどうやら駄目のようです。

「とりあえず秋葉さま。この状況でわたしに向かってそんな口を聞いていいんですかねー?」

どうも秋葉さまはステッキがなくなったせいで降りられない様子。

「そ、それは……その」
「あー。わたしそろそろボーナスが欲しいんですよねー。ちょっとばかり考えていただけないでしょうか?」
「くっ……この、調子に乗らないでっ!」
「や、別にいいんですよ。秋葉さまが永久にそこにいられるというならそれはそれで」
「ひ、卑怯よっ!」
「卑怯ではありませんよー。策と言ってください」

相手の欲しいモノを懐に持っておいて最大限出せるものを出してもらう。

これぞ策士の本業ですっ。

「琥珀さん……やってることが悪役そのものなんですけどいいんですか? 魔法少女とはとても思えないんですが……」
「う」

それを言われちゃうとちょっと痛いかも。

「正義の魔法少女ならそんなあくどい真似しないで助けてあげるべきでしょうっ?」
「あー、わかりました、わかりましたよっ」

まったく魔法少女も楽ではありませんねえ。

「んじゃ、ななこさん助けてあげてください」
「……え? わたしがですか?」
「ええ。わたしは誰かさんのせいで飛べませんから」
「わたしのせいじゃないですよぅ……」
「四の五の言ってないでささっと。鈍器で殴っちゃいますよ?」
「さらりと怖い事言わないで下さい〜」

ななこさんは悲鳴をあげながら空を飛んでいきました。

「はぁ。杖を手に入れても魔法が使えないなんて悲しすぎますね……」

職業は戦士なのに最強の杖を手に入れてしまったって感じです。

「ふぁいやー」

しーん。

「……魔法……まほうぅぅぅ……」

なんだか悲しくなってきましたよわたしっ。

「はぁはぁ……ちゃ、着地です」
「……」
「琥珀。覚悟は出来てるでしょうね?」
「う」

顔を挙げるとこれでもかってくらいサワヤカな笑みを浮かべている秋葉さまがいました。

「やだなぁ秋葉さま。降りられなくなったところを助けてあげたのにそんな言い草はないでしょう」
「……元はと言えばあなたが私のステッキを奪ったからじゃない」
「いやまあそれは魔がさしたってことでひとつ」

わたしが持ってても魔法が使えないんじゃこのステッキはゴミクズ同然です。

「ちゃんとお返ししますから」

わたしはステッキを秋葉さまに手渡しました。

「フン」

奪い取るような形でステッキを取りわたしを睨み付ける秋葉さま。

「秋葉さま。これは普段仲むつまじいわたしたちを引き裂こうとするネロの陰謀だったんですよっ」
「何も聞いて無いのに言い訳を始めないでくれる?」
「あ、あは……それはまあそうですが」

わたしは一歩後ずさりました。

この琥珀、魔法は使えないけど策ならいくらでも使えます。

秋葉さまに渡したステッキは一見何の変化もありませんが実は遠野家の科学を結集して作られた超小型爆弾が仕掛けられているんですっ。

これを爆発させればいくら魔法少女となった秋葉さまでもオダブツっ!

「……魔法少女の道はかくも厳しいものなのですよ」
「何か言った?」
「いえいえ。それでどうなさいます? まだ戦いますか?」

戦うと言った瞬間わたしは爆弾のスイッチを押しちゃいますけど。

「とりあえず貴方と戦うのはやめるわ」
「え? あ、はい。やめちゃいますか」

これはちょっと拍子抜けですね。

遠野の科学の結晶がどれくらいの威力があるかちょっと試してみたかったんですけれども。

「貴方は信用出来ないけどこっちの頭の悪そうな精霊はどうも悪っぽくないんだもの」
「……あ、頭の悪い精霊」
「うわ。久しぶりに秋葉さまと意見があった気がしますよ」
「そんなぁ酷いですよ琥珀さーん」
「聞こえません」

まったくもうこの駄目精霊ときたらっ。

「かといってネロが悪だと言い切れるわけでもないのよ」
「まあ秋葉さまはそうでしょうねえ」

それだけいい待遇を受けていて悪だとは思えないでしょう。

「琥珀。あなたの味方ってその精霊だけなの? 他には?」
「あ、えーと、確かマスターとかいう人が別に戦っているはずです」

もしくはノイローゼで寝込んでいるはずです。

「ならその人に会わせてくれるかしら。その人と話して善悪を判断します」
「さようでございますか」

わたしもこの使えない精霊のマスターさんにちょっと文句言いたいですしね。

「じゃ、ななこさん。マスターさんのところに案内してください」
「え、いや、二人で協力してさっさとネロ倒しちゃいません?」
「雑魚だからいつでも倒せますよっ! いいからさっさと案内すればいいんですっ」
「こ、琥珀さん怖いです……」

ふ、わたしは自分より地位の低い人間には容赦しないのですよ。

「止めなさい琥珀。ね、精霊さん。構わないでしょう?」
「うう、わたし琥珀さんじゃなくて秋葉さんを魔法少女にするべきでしたかね……」

ふんだ、ななこさんは秋葉さまの本性を知らないからそんな事が言えるんですよっ。
 

「ではではご案内いたしますので。こちらですー」
 

わたしと秋葉さまはななこさんに案内されマスターさんのところへと向かうのでありました。
 

続く



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