「じゃ、ななこさん。マスターさんのところに案内してください」
「え、いや、二人で協力してさっさとネロ倒しちゃいません?」
「雑魚だからいつでも倒せますよっ! いいからさっさと案内すればいいんですっ」
「こ、琥珀さん怖いです……」

ふ、わたしは自分より地位の低い人間には容赦しないのですよ。

「止めなさい琥珀。ね、精霊さん。構わないでしょう?」
「うう、わたし琥珀さんじゃなくて秋葉さんを魔法少女にするべきでしたかね……」

ふんだ、ななこさんは秋葉さまの本性を知らないからそんな事が言えるんですよっ。
 

「ではではご案内いたしますので。こちらですー」
 

わたしと秋葉さまはななこさんに案内されマスターさんのところへと向かうのでありました。
 
 



「君も今日から魔法少女!」
その8











「……あれ?」
「どうなさいました?」

しばらく進んだところで止まるななこさん。

「いや、ちょっとマスターとの通信が混雑してて……」

通信ってあなたロボットじゃないんですから。

「おかしいなぁなんでだろう」
「そんなことわたしたちに聞かれましても」
「そのマスターさんとやらが移動してるのでは?」
「えと……ちょっと集中します。すいません」

ななこさんは一歩わたしたちから離れ、なにやら怪しげな光を放ち始めました。

「……マスター……マスター。聞こえましたら連絡ください。どうぞ……」
「はぁー。精霊さんは何かと幻想的で羨ましいですねえ」

わたしなんかひいき目に見たって悪の手先みたいな格好なのにっ。

「貴方の格好は無様よね。私はこんなに魔法少女らしいというのに」
「ぶ、無様ではありませんっ! 古来からの魔法スタイルなんですよっ!」

そりゃまあ誰がどう見ても秋葉さまのほうが魔法少女っていうかフリフリしてますがっ。

「あ? え? そ、そうなんですか? す、すいませんっ。はい……はい」

誰もいない空間に向かって頭を下げているななこさん。

「……電話してる時によくやっちゃうんですよね、あれ」

わたしは思わずそんな事を呟きました。

「そうなの?」
「ええ。秋葉さまはあんまり電話をしないからわからないかもしれませんが」

特に相手が偉い人だとやってしまうものなのです。

マスターさんという人はやはりななこさんより滅茶苦茶偉いようですね。

「え、えと……琥珀さん、秋葉さん、宜しいですか?」
「あ、はい?」

ななこさんはやたらと青ざめた顔をしていました。

「どうかなさったんですか?」
「実はその……とてもよくない情報が」
「え? ど、どういうことですか?」

まさかマスターさんとやらがやられてしまったとか?

「あの……ですね。マスターもマスターで独自に行動してたらしいんですが……」
「ですが?」
「マスターが……魔法少女を……スカウトしたと」
「え?」

つまり三人目の魔法少女がいるってことですか?

「しかも今その魔法少女さんがネロを追い詰めているそうで」
「えええええええっ!」
「な、どうしたのよ琥珀? そんなに驚いて」
「秋葉さまっ。これがどういうことなのかわからないんですかっ?」

これはマスターさんがやられたなんてよりもまずいですよっ?

「どういうことなの?」
「だって秋葉さま。ネロはもう最後の一匹だったんですよ」
「え……そうなの?」
「そうなんですっ!」

そんな事も知らないで魔法少女になったんですか秋葉さまはっ。

「最後のネロを倒せばわたしの魔法少女としての仕事は終わりだったんです。ね? ななこさんっ?」
「あ、はい。一応そういうことになりますね」

そうすればわたしが真の魔法少女として悪を倒しました、めでたしめでたしだったんです。

ですが。

「もしここでその得体の知れない魔法少女が最後のネロを倒したらどうなりますかっ?」
「……どうなるの?」

ああもう鈍いですね秋葉さまはっ。

そんなんだからいつもわたしに利用されちゃうんですよっ。

「その魔法少女がネロを倒したら、わたしも秋葉さまも本物だという証明が出来なくなるんですっ。むしろその魔法少女の引き立て役みたいな感じにっ!」
「な、なんですって?」

そう、途中の活躍は端役でも出来る事。

最後にいいところを持っていくのが主役。

「もしネロをその魔法少女が倒したら……わたしたちは……」
「……ただの道化になるってこと……?」
「そうですっ! 大ピンチなんですよっ」

ほんと何やってたんだおまえらくらいのレベルになってしまいます。

脇っちょでなんか雑魚を倒してたけど結局他の人がラスボス倒しちゃいました、みたいな。

「ななこさんっ! どないしてくれるんですかっ!」

こんな展開わたしは断じて認めませんよっ?

「だ、だからとてもよくない情報と言ったじゃないですかっ。マスターの行動までわたしは保障出来ませんよ〜」
「……っ!」

ああもうこんなところでななこさんと口論している暇はありません。

「今すぐマスターさんのところに案内してくださいっ! いや、むしろわたしを連れて飛んでくださいっ!」
「ちょ、琥珀っ! 抜け駆けする気っ? させないわよっ?」

秋葉さまがわたしの腕を掴みます。

「わたしたちで争っている場合ではないですよっ! 協力してでもその第三の魔法少女を止めなくてはっ!」

でなければわたしたちは端役確定。

そんな面白くない展開にさせてなるものですかっ!

「そそそ……そう」

わたしの必死の訴えでやっと秋葉さまも状況の深刻さを悟ったようです。

「さあちゃっちゃと連れてってくださいっ!」
「え、だ、だから通信が混雑してて……正確な場所はちょっと……」
「ああもうほんと使えない精霊ですねっ!」
「わ、ひ、酷いですよぅ……」
「はっ!」

普段なら本音をひた隠しにしているわたしがこんな悪感情を露にしてしまうだなんてっ。

これじゃあわたしのイメージが大幅にダウンしてしまいます。

あくまで可憐な魔法少女として発言しなくてはっ。

「ご、ごめんなさいね? ついうっかりキツイ事を言ってしまいました。けれどそれほどのピンチということなんですよ」

見てくださいこの慈愛溢れるわたしのセリフ。

「うう……」

わたしのセリフの甲斐あってななこさんは少し表情を緩めてくれました。

最初から変なこと言わなきゃこんな苦労なかったんじゃとかいうツッコミは却下です。却下。

「でも使えないってのは本当の事よね」

が、後に続いた秋葉さまの言葉が最悪でした。

「ぐ、ぐすっ……酷いです……」

ついに泣き出してしまうななこさん。

「あああ秋葉さまっ! 何て事をっ!」
「じ、事実を述べただけじゃない」
「だからそんな事言ってる場合ですかっ! ネロ死んだら秋葉さまもう魔法使えないんですからねっ?」

ほんと空気読んでくださらないと困るんですがっ。

「……し、しまった?」
「漫才やってるんじゃないんですよ秋葉さま――――っ!」
 

満月の夜に悲痛なわたしの叫びが響くのでした。
 

続く



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