「でも使えないってのは本当の事よね」

が、後に続いた秋葉さまの言葉が最悪でした。

「ぐ、ぐすっ……酷いです……」

ついに泣き出してしまうななこさん。

「あああ秋葉さまっ! 何て事をっ!」
「じ、事実を述べただけじゃない」
「だからそんな事言ってる場合ですかっ! ネロ死んだら秋葉さまもう魔法使えないんですからねっ?」

ほんと空気読んでくださらないと困るんですがっ。

「……し、しまった?」
「漫才やってるんじゃないんですよ秋葉さま――――っ!」
 

満月の夜に悲痛なわたしの叫びが響くのでした。
 
 



「君も今日から魔法少女!」
その9



「つ、ついうっかり……ね、わ、悪かったわよ」
「うっかりのタイミングが最悪なんですって!」

秋葉さまらしいといえばらしいですけれども。

魔法少女としてはもう完全に失格です。

「とにかくっ、泣いている場合ではありませんよななこさんっ!」

非常に頼りないですが、ななこさんしかマスターの居場所を知らない以上は彼女に立ち直ってもらうしかないのです。

「ぐす……」
「今ここでわたしたちが戦わなければ! わたしたちの……ななこさんのしてきた事全てが無駄になってしまうんです!」

これぞ必殺熱血路線。

少年漫画でありがちなパターンではありますが、魔法少女でもこういう熱いセリフはアリなのです。

「無駄に……」
「無駄にさせてはいけないでしょうっ? 立ってくださいななこさんっ! 正義の為に!」
「せ、正義」

だんだんとななこさんの目が輝いてきました。

「愛、友情!」
「愛……友情」
「恐ろしいほど似合わないセリフね……」
「秋葉さま、余計な事言わないっ!」
「……もう大丈夫です琥珀さんっ! わたし立ち直りましたっ!」
「え、あ、そ、そうですか?」

秋葉さまの邪魔が入ったもののななこさんはちゃんと立ち直ってくれたようです。

「悪の魔法少女の言葉にたぶらかされるわたしではありませんっ!」
「だ、誰が悪の魔法少女よっ!」

ああ、そういえばそういう設定でしたっけねえ。

なんか途中からどうでもよくなってましたけどそのへん。

いや、策士がそんなセリフ言っちゃまずいんですけれども。

「マスターさんのところへ連れて行って下さいますね?」
「さあわたしに捕まって!」
「はいっ!」

ななこさんの手を握り締めるわたし。

「れっつごー!」

そしてななこさんはとんでもないスピードで飛行を始めました。

「って!」

い、息がっ? 息が苦し……

意識が……意識がっ!

「頑張ってくださいね琥珀さんっ! ちょっと生身の人間だと呼吸とか出来なくなるでしょうけどっ!」

い、いやそこまでスピード出さなくてもいいでしょうにっ?

といいますかその状況でなんで喋れてるんですかあなたっ?

「わたしはまあ精霊だから平気ですけどっ」

ああそうですかコンチクショーっ!

こうなることくらいわかってましたよっ!

魔法少女を目指すわたしがこのくらいでくじけてなるものですかっ!

この地獄を乗り越えれば真の魔法少女への道が……

「……あそこですっ!」

しばらく飛行した後ななこさんは地面へ向かって急降下を始めました。

もしかしなくても、このままのスピードで地上に降りるっていうのはわたしの体に優しくないのでは?

「……」

うわ、すごい嫌な想像しちゃいましたよ。

なんとしてでもスピードを落としてもらわなくちゃ。

つん。

わたしはななこさんの脇腹を突っつきました。

「ひゃあああああっ?」

途端にバランスを崩すななこさん。

「わわわわわわ」

そのせいでものすごく揺さぶられまてしまうわたし。

く、くすぐるのは駄目でしたかねっ?

「……何をやってるの琥珀」
「え」

横を見るとため息をついた秋葉さまがいました。

「なななな何故秋葉さまがここに?」

揺れながらもスピードはさっきよりダウンしているのでなんとかしゃべることができます。

「普通に尾行してきたのよ。私は飛べるんだからそれくらい簡単だわ」

ああもう、秋葉さまはハイテクで羨ましいですねえ。

「あああ、あのあのあの、助けてくださるとありがたいんですが」
「……誰が好んでライバルを助けるのよ」
「ままま、魔法少女は悪にも優しいんですよ」
「仕方ないわね……」

がしっとわたしを掴む秋葉さま。

「止まりなさい」

ぴた。

秋葉さまの言葉でわたしたちは空中に静止しました。

「す、凄い」

秋葉さまの魔法はなんてハイテクなんでしょう。

「さっさとこっちに来なさい」
「は、はい」

秋葉さまの手を取り移動。

「そして時は動き出す」
「いやそれ魔法少女違いますから」
「え? わ、わーっ!」

ちゅどーん!

「……ななこさんは星になってしまいました」
「精霊だから死なないでしょ」
「ですね」

ななこさんの落下したところへ降りていくわたしたち。
 
 
 
 

「い、いたた……一体何が……」

さすがに精霊だけあってななこさんはぴんぴんしてました。

「敵の攻撃です」
「な、なるほど」

ななこさんは適当な嘘で納得させて、わたしは周囲の気配を探りました。

「だ、第三の魔法少女はどこにっ?」

わたしたちにとってはマスターの生存よりそっちのほうが大事です。

「出てきなさい! この私が相手よっ!」

まだ秋葉さまは魔法を使えているので多分ネロさんはまだやられていないとは思うのですが。

ヒュオオオオオ……

路地裏に吹く冷たい風。

「あの、誰もいないんですけれど」
「え、で、でもマスターからの信号はここから……おかしいなぁ」

そう言って地面を撫でるななこさん。

「いや、いくらなんでも地中に隠れてはいないでしょう」
「ウチのマスターはよく電柱の上とかにいたりするんで……」
「……」

ちょっとななこさんのマスターを信用する気がなくなってしまったんですが、わたし。

「そんな怪しい人は明らかに悪ね。琥珀。今からでも遅くはないわ。私と協力しない?」
「そうしたいのは山々なんですが」

既にネロさんを何匹も倒しちゃってますしねえ、わたし。

「もうちょっと待ってくれます? 第三の魔法少女さんの意見を聞いてからでも遅くはないと思うんですよ」

いざとなったら仕掛けた爆弾で秋葉さまはやっつけられるのであせることはありません。

「こ、琥珀さん。わたしを裏切るつもりですかっ?」
「今は味方ですよー。今は……ですけど」
「うわーっ! 裏切る気満々ですよこの人ーっ!」
「……マスターでも第三の魔法少女でもいいから出てきてくれないかしら……」

わたしたちの意識は完全に第三の魔法少女に向いていました。

「こうなったらアレしかないですよ秋葉さま」
「あれ?」
「例えばここでななこさんがピンチとなれば……どうなると思います?」
「……再起不能?」
「違いますよ。第三の魔法少女がきっと……」
「ああ、なるほど。そういうことね」

秋葉さまはにっこりと笑ってななこさんを見ました。

「そんなわけで……ちょっと死んでもらえるかしら?」
「さ、さわやかに恐ろしい事言わないで下さいっ!」
「きゃ、きゃーっ。どうしよう、わたしの力だけじゃ勝てないわっ」

思いっきり胡散臭いセリフを叫ぶわたし。

しかしこの状況で助けにこない魔法少女がいるはずがありませんっ。

もし助けに来なかったらその方は確実に偽者だということにっ。

「待ちなさいっ!」
「……ちっ、来てしまいましたか」

その第三の魔法少女はバカ正直な方だったようでななこさんを助けに来るようでした。

「何者っ!」

悪役そのもののセリフを吐く秋葉さま。

「闇あるところ光あり……悪あるところ正義あり!」
「なっ……前口上がっ?」

そういえばそんなものも魔法少女には必要でしたね。

わたしも何か考えておかないと。

「月の光の名の元に、このわたしがあなたを断罪しますっ!」
「……ちょ、ちょこざいなっ! 姿を見せなさい!」

だから秋葉さまセリフが完全に悪者ですって。

「とうっ!」

しゅたっ。

「……!」
「なっ……?」

ついにわたしたちの前に姿を現した第三の魔法少女。

ですがその姿にわたしたちは驚きを隠せませんでした。
 

「天空よりの使者……マジカル☆ヒスイ推参っ!」
 

続く



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