にこりと笑う琥珀さん。
「いきなりそんな初代のカナダ戦のパスワード言われても誰もわからないと思うんだけど」
「志貴さんはわかってるじゃないですかー」
いや、まあそうなんだけどさ。
「今日、志貴さんをお呼びした理由は他でもありません」
「つまり、キャプテン翼の話がしたいと?」
「そうです。ゲーム版のキャプテン翼の話ですねー」
キャプテン琥珀
〜スーパーストライカー〜
「結構シリーズ出てたんだよな。5くらいまであった気がする」
FC、SFCとシリーズで出ていたものである。
原作の雰囲気を再現していてなおかつオリジナル要素も素晴らしいという非常に出来のいいゲームであった。
「これもやはり最高傑作は2ですかねー」
「基本要素が全部完成していたからね」
サッカーシミュレーションという、新しいジャンルを開拓したと言ってもいいかもしれない。
「キャプ翼ゲーのオリジナルキャラが大好きです」
「カペロマンとか?」
「そうですそうです。マッハーくんとかサトルステギくんとか」
また微妙なとこ突いてくるなあ。
「レナートも忘れちゃ駄目だろう」
別名ブラジルの森崎。
「っていうかサンパウロはまともな選手がほとんどいないですよね」
「……確かに」
ラストのブラジルチームは無茶苦茶強いのに、最初に翼が所属されるサンパウロは無茶苦茶弱い。
「まともなのはバビントンくんとアマラウくんくらいです」
ちなみにこの二人は後で敵チームのプレイヤーとして出てきたりする。
「ジウは駄目なんだ」
「だってシュート弱いんですもん」
「……はっはっは」
最初は主人公の翼の能力だけが滅茶苦茶突出していて、他のキャラはそんなに強くないのだ。
「まあ翼くんだけ動かしてるとすぐにガッツ不足になっちゃいますが」
その通り。
翼一人で頑張っても勝てないので、上手く他のキャラを動かして頑張らないと勝てない。
そのへんは原作とはひと味違うのである。
「っていうかガッツって表現が凄いよね」
「くっ! ガッツがたりない! は最高の名言だと思います」
このゲームはキャラの体力は「ガッツ」で表示される。
何をするにも必要なものであり、必殺シュートではかなりの量を使ってしまうのでうまく采配を考えないといけない。
「ガッツが0になるとほとんど何も出来なくなるんですよね。あれは面白かったです」
「まさに根性なしって感じだよね」
ちなみに余程必殺技を乱発しなきゃ0にはならない。
「コンピューターはガッツ無限だからずるいですよねー。日向くんなんてネオタイガー連発ですもん」
この必殺技も、オリジナル技が結構ある。
「ザガロのダブルイールは楽に取れるんだよな」
「ちなみにイールとはウナギのことだ。蒲焼きにするとうまいぞ」
「そうそう。ロベルトの迷言」
試合前には監督が助言をくれるのだが、これがまったく役に立たないものばかりなのである。
「ポーランド戦のマッハーくんとジャイッチくんなんてまるで情報なしですもんね。すんごい強いのに」
「そうそう」
どっちもゲームオリジナルキャラなのだが、インパクトがすごい。
マッハーくんはドリブル速度が二倍というとんでもないキャラだ。
ボールを取られると阻止する間もなくあっという間にゴール前まで運ばれてしまう。
そしてジャイッチくんは、見た目が原作の中西くんなので、一見大した事なさそうに見えるのだが。
「シュート撃ったらいきなり回転されたからな。あれはびっくりした」
ジャイッチくんの必殺技、ローリングセーブ。
名前の通り回転してボールを取りにいくという、回る意味がまるでわからない凄い必殺技である。
「オリジナル技はとんでもないのが多いよね」
「ですねー。消えるフェイントとか」
消えるフェイントはネイ君の必殺技で、文字通り姿を消してしまうという技だ。
「もはやサッカーじゃありません」
「それは言わないお約束」
みんな超人ばっかりなんだから。
「しょうりゅうきゃくとか、かなり無理ありますよね」
「まあ、スカイラブもそうだから」
良い子のみんなが真似をしようとしてどれだけ怪我をしたことか。
「原作のキャラのほうが普通に見えるところがこのゲームの凄さだと思います」
「確かに……」
色んな意味で濃いキャラが多いからな。
「それでいて原作のマイナーなキャラをしっかり出してるところがさらに最高です」
「……ガルバンくんとか?」
「はい。マーガスくんもですね。あのへん滅茶苦茶影の薄い人たちですよ?」
わかる琥珀さんも琥珀さんだと思うけど。
「ファンの心をがしっと鷲づかみです」
ガルバンくんが出てきて喜ぶ人はどれくらいいるんだろうなぁ。
「後半は原作キャラ多くて素敵でした。アルゼンチンとかドイツとか」
「ディアスとシュナイダーが強いんだよな」
ディアスは「よし!」という掛け声と共に能力アップ。
シュナイダーは点を取られると能力が大幅に上がるという恐ろしい補正があるので無茶苦茶強いのである。
「パスカルくんとかカルツくんとかシェスターくんとかいるだけでもう満足ですよ」
「そこも地味に強いんだよなあ」
下手すると必殺シュートよりも強いシュートを撃ってきたりするし。
「逆にオリジナルキャラの集大成がブラジルでしょうね」
「……あそこ確か全員名前ありだったよな」
大抵のチームは「てきの8ばん」とかの適当なキャラが入っているのに、ブラジルだけはそれがない。
カーソルを合わせるとそれこそ全員名前があるのだ。
つまり11人全部がオリジナル。
「でも、印象強いでしょう? サンタマリアくんにジェートリオくん、リベリオくん……」
「……いや、そのへんは影薄い部類でしょ」
そしてそのほとんどが必殺技持ちである。
「キーパーのゲルティスくんはインパクトありますよね」
「ダークイリュージョンね……」
これもまたどんな原理なのかさっぱりわからないけど、とにかく凄いキャッチ技なのだ。
新田とか早田で必殺シュートを撃ってもまず入らない。
「そして極め付けがスーパーストライカーのコインブラくんです」
2のタイトルにもなっているスーパーストライカー。
その能力は言わずもがな、とんでもないものである。
二倍速度のドリブル、ボールの消えるマッハシュート。
「カルロスくんの影が薄くなっちゃうくらいの強さでしたからねー」
カルロスは序盤にライバルとして出てきてしまったのが気の毒である。
「サッカーサイボーグなのにな」
ちなみにカルロスはオリジナルではなく映画版が初登場だったはず。
「ああっ、キャプ翼を語りだすといくら時間があっても足りません」
琥珀さんはごろごろと悶えていた。
「というわけで志貴さん、ひとつお願いがあるんですが?」
「……ん? なに?」
「レンちゃん貸して貰えません? ちょっとキャプ翼の世界に乱入して来ようかと思うんで」
「そういう夢を見せろってこと?」
出来るのかな、そんな事。
「ふ。既にケーキで買収済みです」
琥珀さんがぱんぱんと手を叩くと部屋の隅からレンが現われた。
確かに口の周りにケーキのホイップがついている。
「あとは志貴さんが一緒に来ればいいだけなのですよ」
「……いや、なんで俺まで」
「だって、わかる仲間は多いほうがいいじゃないですかー」
「まあそりゃそうだけどさ」
ちょっとそういう変な世界を体験してみたいっていう好奇心もあるし。
「オッケーですね? ではさっそく」
「いや、ちょっと待って。なにその鈍……」
有無を言わさず俺は気を失わされてしまったのであった。
続く