ちょっとそういう変な世界を体験してみたいっていう好奇心もあるし。
「オッケーですね? ではさっそく」
「いや、ちょっと待って。なにその鈍……」
有無を言わさず俺は気を失わされてしまったのであった。
キャプテン琥珀
〜スーパーストライカー〜
その2
「志貴さん起きてくださいなー。あ、いや、寝てるんだから起きてという表現はおかしいんですかね?」
「……ん」
目を開けるとそこはもうサッカーグラウンドだった。
「既に夢の中……か」
「はい。ここはもうキャプ翼の世界ですよー」
「……うーん」
と言ってもサッカーグラウンドにいるだけじゃイマイチ実感が沸かない。
「ほらほら、あそこを見てくださいな」
「ん」
琥珀さんの指差した先には実況席が。
「ボ〜タ〜ン〜お〜し〜て〜よ〜 い〜ま〜す〜ぐ〜あ〜な〜た〜」
「……うわ、すげえ」
ボタンを押さない事によって発動する実況・チャーリーの勝手なセリフが発動していた。
「1〜4までの全ての実況を担当した影の主役ともいえるチャーリーさんです。彼無しではキャプ翼ゲーは語れません」
「5はいなかったけどね」
「……っていうかあれはもはや別のゲームですし」
はふぅと息を吐く琥珀さん。
「新田くんは中途半端な能力が魅力だったのに」
「確かに4までの新田は微妙なんだよね」
必殺シュートもあんまり強くないし。
「ある意味原作を再現しているといえますが」
「確かに」
原作でも井沢や佐野に出番取られてたくらいだからなあ。
「キャプ翼2の原作再現っぷりは凄かったですよ。森崎くんのステータスとか」
「イジメだよね、あれ」
終盤、全日本チームには三人のキーパーがいるのだが。
SGGK若林は三人の中で最高のステータス。
若島津はステータスはやや劣るものの、必殺技の三角飛びを使えば若林以上の力をも期待できる。
けど、森崎くんは。
「ステータスが倍以上差があるんですよねぇ……」
そう。パンチもキャッチも若林の半分以下なのである。
ゴールポストのほうがシュートを防いでくれるんじゃないかってくらいだ。
「仮にもタイガーショットを防いだ事のあるキーパーなのに」
「けど、そのステータスのあまりの低さで愛されてるよね」
キーパーを森崎にするだけで通常の何倍もの難易度でのプレイが可能となるのだ。
「はい。わたしはもうキーパーは森崎くんじゃないとプレイできません」
こういう変なプレイをしたがる人にとっては最高のキャラとなっているわけだ。
「他にも井沢くんが高いボール得意だったり、石崎くんはブロックが得意だったり……」
原作を知っているとにやりとしてしまうステータスのつけかたなのだ。
「三杉くんも最高でしたね」
「ステータス翼より高いんだよね」
ガラスの貴公子三杉くん。
ステータスは高いのだが、心臓病のせいで前半か後半のみにしか試合に出れないのだ。
無理に出してもガッツが0になってしまうという、まさに原作完全再現キャラであった。
「ハイパーオーバーヘッドはオリジナル技ですが……全然問題無しです」
「うん」
むしろその技のおかげで翼以上のゴール率を誇ってたり。
「っていうかさ。チャーリーは放置でいいの?」
さっきからチャーリーはずっと例の歌を歌い続けだった。
「取りあえずお休みしててもらいましょうか。レンちゃーん」
「……」
ひょこりと琥珀さんの後ろからレンが現れる。
レンがぱちんと指を弾くとチャーリーは消えてしまった。
「なんでもありなんだな、ほんと」
さすがは夢魔。
「こんなことも可能ですよー」
琥珀さんがサッカーボールを上に蹴り上げた。
「てやーっ」
そしてジャンプ。
「……うおっ」
あり得ないほどの高さへ飛んでいくボールと琥珀さん。
ひょーん。
琥珀さんはボールを受け止め華麗に着地した。
「これぞキャプ翼パスカットですっ」
「……確かにゲーム内でも無駄にジャンプしてたな」
10メートルどころのレベルじゃないんじゃないだろうか。
「志貴さんが起きるまでに色々実験してみました。必殺シュートをポストにぶつけると割れます」
「割れちゃうんだ」
「はい。ぱーんと」
ちなみに現実世界で人間がそれをやるのはまず無理らしい。
「……当たったら死ぬんじゃない? そんなシュート」
「大丈夫ですよー。夢の中なんですし。それに、人間もキャプ翼補正かかってますから」
「なるほど」
それであのジャンプ力なわけか。
「俺も何かやってみたいな」
せっかくだからインパクトのある技を。
「さのとのコンビプレイとかどうです?」
「……いや、そんな恐ろしく地味なところ出されても」
「サイドワインダーとかー」
「もうちょっとメジャーなのにしようよ」
カペロマンの必殺シュートだったけかな? それ。
「ヤマザルバスター」
「……それはちょっと」
多分俺のバックにサルとバナナが出てくるんだろうなあ。
ちなみに石崎のゲームオリジナル必殺シュートである。
「では無難にドライブシュートでも」
「そのへんかな」
どう無難なのかはよくわからないが。
「……どう撃てばいいのかな」
なんかコツでもあるんだろうか。
「あー。適当に叫んでボールを蹴ればオッケーです」
恐ろしくアバウトだった。
「えっとじゃあ……」
普段じゃあり得ないくらいに足が上まであがるのを感じた。
「いっけー! ドライブシュートだ!」
ばごん。
ボールを蹴る。
きょきょんっ。 きょきょきょきょきょ。
「うおっ」
現実じゃあり得ないような音を立て、曲がりながら飛んでいくボール。
ずばんっ!
そしてシュートはゴールネットへと突き刺さった。
「……すげえ」
これはやばい。はまる。
ゲームの世界の必殺技を自分で出来るのがこんなに面白いだなんて。
「すごいでしょう?」
「ああ。さすがはレンだな」
「……」
はにかんでいるレン。
「わたしのアイディアもあった事もお忘れなく」
「ああ、うん、わかってる」
最初は何を言い出すんだと思ったけど。
「……で、この世界で何をやるの?」
凄い事が出来るのはわかったが、サッカーするには人数が足りなさ過ぎるし。
「そりゃもちろんサッカーですよ。夢の中なんですからどんな人だって呼べちゃいます」
「あ、そうか」
「といってもキャプ翼世界の人を呼ぶのは止めておいたほうがいいでしょうね。本家に勝てるわけないですし」
「確かに」
身内を呼んで遊ぶくらいが丁度いいのかもな。
「というわけでチーム編成しましょう。知り合いの強そうな人の名前を上げていって、ある程度揃ったらまとめて呼ぶって事でどうでしょうか」
「いいね」
元々俺の知り合いはとんでもない連中ばっかりだし。
トンデモサッカーの世界に簡単に馴染んでくれるに違いない。
「楽しくなってきたでしょう?」
琥珀さんが尋ねてくる。
「……うん」
策にはまってしまったようで癪だったけれど、頷くしかない俺であった。
続く