「……!」
雪崩攻撃を始めたシオンへとボールが戻った。
その立っている場所は、ペナルティエリアのすぐ手前である。
ペナルティエリア内へと切れ込み、シオンが大きく足をあげた。
「ここだ! ここで決めるんです!」
キャプテン琥珀
〜スーパーストライカー〜
その10
「シオンくんのイーグルショットっ!」
シュートが放たれる。
それは雪崩攻撃を得意とする松山の必殺シュートであった。
「おっさん! ボールは地面を這うように飛んでくるはずだ! 下に警戒してくれ!」
俺は大声で叫んだ。
「止めてくれる!」
松山の必殺シュートは日向や翼には劣るものの、油断出来ない威力を持っている。
ボールはゴールの右隅めがけて勢いよく転がっていった。
「ネロくんパンチング!」
おっさんが腕を伸ばす。
ばしっ!
「お!」
「こぼれだまになったー!」
よかった、なんとかピンチは免れたみたいだ。
ぼんっ。
「……え」
だがボールの飛んだ先が悪かった。
「琥珀チームのコーナーキックだ〜〜!」
ボールはラインの外へと転がっていってしまったのだ。
「まずいぞ……」
キャプ翼ゲーのコーナーキックはかなり得点しやすいからな。
「計算通りですね」
シオンがそんな事を言っていた。
「ま、まさか弾かれる事を前提にシュートを……」
「ふん! ただの負け惜しみですよっ!」
「秋葉」
フォワードの秋葉がゴール前まで戻って来ていた。
「兄さん、私たちは攻められっぱなしです。ここで点を決められると精神的にきついものがあります」
「確かに……」
敵チームにシュートを撃たれまくってはいるが、こっちはまだシュートを撃っていないのである。
「ここはチーム全員で防御だねっ」
弓塚がそんな事を言った。
「……いや。ここはひとつ賭けをしよう」
確かにピンチではあるが、チャンスもあるのだ。
「究極の配置を使わせてもらう……!」
俺は秋葉と弓塚に作戦を説明した。
「……いいんですか? それで」
「ああ」
「わ、わかった。わたし頑張るよ」
弓塚がガッツポーズを取る。
「頼むぞ」
それぞれ配置について貰った。
「ふふふ、志貴さん大ピンチですねー。ここは一気に点を取らせて貰いますよ」
コーナーキックを蹴るのは琥珀さんだった。
「そう簡単にはいかないさ」
取りあえずアルクェイドのマークをしておく俺。
ゴール前には先輩、アルクェイド他、琥珀チームの面々が集まってきていた。
ピンチではあるけれど、その分相手のディフェンスも薄くなっている。
「なんとしてでも守るんだ!」
「おう」
「わかったっ!」
緊張の一瞬。
「ではいきますよー」
琥珀さんが足を振り上げた。
「ドライブパスです!」
琥珀さんはペナルティエリア内の誰かにパスを出してダイレクトにシュートを撃たせるつもりのようだ。
「キツイな……」
はっきり言って必殺パスはまず止める事が出来ないのだ。
シュートを撃つ前にパスを出された相手を囲んでしまうしかないか。
「シエルくん高いボールに動きを合わせる!」
「先輩か!」
俺、有彦、レンに都古ちゃんで先輩を囲う。
「四人ですか……上等です」
「俺はパスカット。有彦はブロック。レンと都古ちゃんはクリアを狙ってくれっ!」
「何気に楽なとこ持っていきやがって」
「そんな事言ってる場合じゃないっ」
全員でボールへと向かっていく。
「ああっとこれはー!」
ばしっ。
「シエルくんパス!」
「……普通にみんな届いてないし!」
「琥珀くん高いボールに動きを合わせる!」
ボールは琥珀さんへと戻ってしまった。
「まずい……!」
しかも今ので四人も動いてしまったのでディフェンスがほとんどいなくなってしまった。
「行くよ翡翠ちゃん!」
「姉さん!」
琥珀さんと翡翠、二人が同時に宙を舞う。
「まずいっ……」
あの体勢はツインシュートだ。
「止めさせてもらう!」
ワラキアがそれを阻止すべく飛んだ。
「開幕直後より鮮血乱舞、烏合迎合の果て名優の奮戦は荼毘に伏す! 回せ回せ回せ回せ回せ回せ!」
ツインシュートよりもさらに不可思議な動きをするワラキア。
「こぼれだまになったー!」
「おおっ!」
なんとツインシュートを防いでくれた。
「やるなワラキア!」
「当然だ」
「くっ……なんなんですかあの動きはっ……!」
さすがに琥珀さんも渋い顔をしている。
「蒼香くんボールを取った!」
そしてそのボールは蒼香ちゃんへ。
「蒼香ちゃん!」
「わかってるさ!」
思いっきりボールを蹴り飛ばす蒼香ちゃん。
「あっ……!」
琥珀さんが叫び声をあげた。
ゴール前に琥珀チームの各々が集まっている今、ディフェンスはがら空き状態。
「待っていましたよ!」
「か、カウンターっ!」
そう。秋葉を琥珀チームのゴール付近に待機させておいたのだ。
現実のサッカーならオフサイドになるが、このゲームではそうはならない。
これこそが窮地をチャンスに変える究極のポジション!
「き、軋間さん止めてくださいっ!」
ディフェンスは軋間ただ一人が残っていた。
「……!」
秋葉へ向かっていく軋間。
「ふっ」
秋葉は軋間とぶつかり合う直前にボールを蹴った。
「シュートっ?」
「いえ、違います! あれは……」
ゴールではない別の方向へ飛んでいくボール。
「来たっ!」
「さ、さつきっ?」
そう、秋葉と共に弓塚もゴール前にいたのだ。
秋葉は軋間を引き寄せるオトリ。
「行っくよー!」
高いボールに動きを合わせる弓塚。
そしてそこから放たれる必殺シュート!
「弓塚くんのヘディング!」
「ってただのヘディングかよっ!」
おかしい。弓塚だったらブラストヘッドとかダイナマイトヘッドとか使えると思ったのに。
「あはっ、せっかくのチャンスに……人選ミスですねっ」
「ぐっ……」
これだったら秋葉にシュートを撃たせたほうがまだよかったか。
「こちらのGKは完璧ですっ!」
「……アキラちゃんだよな」
一体どんな能力があるっていうんだ。
「アキラくんの未来予知セービング!」
チャーリの実況。
「いや、そんな技ないし!」
確かにアキラちゃんは未来予知とか出来るらしいけどさ。
「説明しましょう! アキラさんはその未来予知能力によってシュートのコースが全て読めるんです!」
「な、なんだってー!」
「つまり完璧にボールに反応できるって事ですよ!」
それはヤバイ。
どんなボールにも反応できるって、それじゃ若林並の性能じゃないか。
「いや……おまえら、大事な事を忘れてないかニャ?」
ネコアルクがそんな事を言った。
「なんです?」
「なんだよ」
ずばっ。
「……え?」
「え?」
今なんかゴールミットが揺れる音がしなかったか?
「決まったゴ〜〜〜〜ル! 弓塚くんのへディング! 琥珀チームのゴールに突き刺さりましたァ〜〜!」
「えええええっ!」
「ええええっ!」
周囲の全員が叫び声を上げた。
「そ、そんなっ! スーパーグレートゴールキーパーがどうしてっ!」
そうだ、コースが全て読めるはずのアキラちゃんがどうしてただのヘディングで点を入れられたんだ?
「例えシュートコースがわかっても運動神経が伴ってなきゃ意味ないニャー」
にゅふふと笑うネコアルク。
「……し、しまった!」
琥珀さんが顔を真っ青にしていた。
「そ、そうか……」
確かに言われてみればそうだよな。
「ポ、ポジションチェンジです! 全員集合!」
慌ててチームのメンバーを呼び寄せる琥珀さん。
「うーむ」
策士策に溺れるというかなんというか。
「……先取点、取っちゃった」
点を入れたはずの弓塚が呆然としていた。
志貴チーム 1
琥珀チーム 0
続く