イチゴさんがボールを蹴り上げた。
「とにかく攻撃を防がないと……!」
速攻で攻めていったのは二人だけだから選手はまだ残っている。
「ふふふ、そう来ましたか。ならばこちらもそろそろ……」
琥珀さんが再び怪しい笑みを浮かべていた。
キャプテン琥珀
〜スーパーストライカー〜
その13
「アキラくんパスキャッチ!」
イチゴさんからのパスを受け取ったのはアキラちゃんだった。
「瀬尾さーん。よろしくお願いしますねー!」
琥珀さんがそんな事を叫ぶ。
「あ、は、はいっ」
アキラちゃんはぺこりと頭を下げて、ドリブルを始めた。
「そう簡単には進ませないぜー! うおりゃー!」
ネコアルクのスライディング。
「右っ!」
あっさりかわすアキラちゃん。
「にょ、にょわっ!」
ネコアルクがびっくりしていた。
「ワンツーリターン成功だ!」
ドリブル、パス、ワンツー、あらゆるワザを駆使して進んでいくアキラちゃん。
今のアキラちゃんはドリブルもパスも、全てのプレイが超一流なんだろう。
「くそっ!」
有彦のタックルもアキラちゃんには届かなかった。
「……ふん」
そんなアキラちゃんを後ろから追っていく謎の人物。
「ここはパスを……」
アキラちゃんがパスを出そうと周囲を見回した。
そしてその人物が視界に入ったらしい。
「……あ……わ」
みるみるうちに顔が青ざめ、動きに精彩がなくなってしまった。
「瀬尾っ! 瀬尾のくせに超高度プレイなんて……生意気なのよっ!」
その人物とは他でもない、秋葉だ。
ばしっ。
アキラちゃんは身動き一つとれずに秋葉へボールを取られてしまった。
「う……そんな弱点をついてくるとはっ」
琥珀さんが慌てた顔をしている。
アキラちゃんにとって秋葉は絶対恐怖の存在だからなあ。
蛇に睨まれたカエル状態である。
「せいっ」
パスを出す秋葉。
「まあ、仲良くやりましょう? 瀬尾」
ボールは飛んでいったのに秋葉は動かない。
「そ、そんなっ! ゆ、許してくださいそれだけはっ!」
どうやら秋葉は徹底的にアキラちゃんをマークするつもりのようである。
「悪いけど……」
これでアキラちゃんの動きはほぼ完璧に封じられたと言える。
三杉をマトモに止めるのはまず無理だからな。
ウチのチームに秋葉がいてよかった。
「とはいえ」
これでフォワードが一人減ってしまった事になる。
蒼香ちゃんは都古ちゃんはまだ戻ってきていない。
「……」
レンが秋葉からのパスを受け取っていた。
「レン、いけるか?」
こくり。
「頼むぞ!」
中央から切れ込んで行くレン。
「ここは通しませんっ!」
第七聖典さんがレンに立ちはだかる。
彼女もあんまり見た事ないんだけど、誰の知り合いなんだろう。
「セブン! 失敗したら容赦しませんからねっ!」
「そ、そんなっ」
どうやらシエル先輩の知り合いのようだ。
セブンってのがちゃんとした名前なのかな?
「あいつはななこだ。突撃力は侮れんぞ」
「有彦」
いつの間にやら有彦があがってきている。
「秋葉ちゃんが後ろに回ったからオレが攻める」
「大丈夫かよ」
「任せとけっ」
「……」
レンが後ろに気付いてパスを出してきた。
「あっ」
ななこさんのタックルは当然ミス。
「よし、行くぜ遠野。ワンツーだ」
「おう」
ワンツーを駆使して切れ込んでいく。
「調子に乗りすぎじゃないか?」
七夜が向かってきた。
「どうする?」
「吹っ飛ばしてやるぜ!」
勢いよく突っ込んでいく有彦。
「むっ……」
ずごっ!
「七夜くん吹っ飛んだー!」
強引なドリブルに突っ込んだ人間の末路は大抵こんなもんである。
「へ、ざまあねえな」
「……」
オレと同じ顔の七夜が吹っ飛んでいくのを見るのはなんだか複雑な心境であった。
「あのドリブル……ディフェンス……オーバーラップ……もしや」
琥珀さんがそんな事を呟いていた。
「……あ」
それを聞いてはっとした。
「有彦! 都古ちゃんにパスだ!」
「ん? ああ」
ペナルティエリア内に待機していた都古ちゃんへとパスを出す。
「やらせん!」
軋間が飛んだ。
あいつがしゃべるの見たの始めてかもしれない。
ばしっ!
「ああっ!」
パスは弾かれこぼれ玉になってしまった。
「チャンスです」
翡翠がそれを取りに向かう。
「おおっとそうは問屋が棚卸しだぜー!」
謎の言葉を発しながら向かっていくネコアルク。
「……っ!」
ネコアルクの小さい体が翡翠の視界を遮った。
「ゲッツ!」
そうしてボールを確保したのはネコアルク。
「よくやった!」
「よし、ワンツーっ!」
蒼香ちゃんへパスを出し、戻ってきた低いボールに動きを合わせた。
「にゃにゃにゃにゃにゃ。食らえ!」
ネコアルクは一回転してボールを蹴った。
「……む!」
即座に反応するイチゴさん。
「キエエエエエエ〜ッ!」
再び伝家の宝刀三角飛びでボールを取りに向かう。
「くっ」
ばしっ!
流石にこれはキャッチ出来なかったのか、ボールはこぼれ玉になった。
「よーしっ!」
都古ちゃんが向かっていく。
イチゴさんが体勢を立て直してない今がチャンスだ。
「やらせませんっ!」
シオンも向かっていった。
「お穣ちゃん、スカイラブハリケーンじゃ……」
蒼香ちゃんが叫ぶ。
さっきスカイラブハリケーンはあっさり弾かれてしまったからな。
バランスを崩しているとはいえ、同じシュートで点を入れるのは難しいだろう。
「わかってる! だから……」
都古ちゃんは俺のほうを見た。
いや、正確には。
「オレかっ?」
俺のそばにいる有彦を見ていたのだ。
「行ってこい!」
「お、おう」
まだ事情のよくわかっていないような有彦。
「そうか……そういうことかっ!」
蒼香ちゃんが都古ちゃんのところへ走っていく。
「行くよ!」
「頼むぞアンタ!」
二人のセリフを聞いた瞬間、有彦の目つきが変わった。
背中を地面につけ、両膝を曲げてつま先を空へ向ける。
「任せろタイ!」
有彦の言葉と同時に蒼香ちゃんと都古ちゃんがその足へ乗った。
「よし!」
「いけ〜!」
「タイ!」
手を繋いだ二人がスカイラブで飛ぶ。
「で、出た〜! 乾くんと都古くんたちのスカイラブツインシュートだ!」
そして息の合ったツインシュートが放たれた。
「く、くそ! 間に合ってくれ!」
それでも諦めずに三角飛びを出すイチゴさん。
「だが届かない!」
ぶれながら進んでいくボールが、ゴールネットへと突き刺さった。
志貴チーム 2
琥珀チーム 1
続く