むしろぶつかってこその仕事なのである。
「遠野くん、大丈夫?」
弓塚が声を掛けてきた。
「あ、ああ。次こそ止めてみせるさ!」
……多分。
志貴チーム 2
琥珀チーム 3
キャプテン琥珀
〜スーパーストライカー〜
その16
「志貴くん吹っ飛ばされたー!」
空がいやに高く見えた。
べしゃ。
地面に叩きつけられる俺。
「レンくんのミラージュシュートが志貴チームのゴールに突き刺さったぁ〜!」
「……ぬう」
また得点されてしまった。
これで琥珀さんチームは4点目。
おっさんはよくこんなシュートを止めてたもんだ。
「さっきのおじさまのほうが手ごたえあったわ。つまらないわね、志貴」
白レンがくすくす笑っていた。
「くそう」
なんていう屈辱だろう。
「誰かとキーパー交代したほうがいいんじゃないのか?」
「……それはわかってるさ」
だがおっさんにはダイレクトシュートに弱いという弱点があるのだ。
まあ、普通の必殺シュートすら止められてない俺のほうがまずいんだけど。
「次こそは止めてみせる。まだキーパーになったばかりで調子が出ないだけだ」
「……頼むぜ? ホントに」
渋い顔をしている有彦。
「うーむ」
このままじゃまずい。
とにかく一度でもシュートを防がなくては。
「志貴チームのキックオフから試合再開です」
みんなはなんとか点を取り返そうと奮戦していた。
しかし。
「頂きますよ!」
シエル先輩の華麗なタックルや。
「……ムン!」
軋間のブロックによって攻撃は阻まれてしまっていた。
「一子くんの三角飛び!」
仮にシュートを撃てたとしても、イチゴさんに阻まれる。
そして逆に点を取られてしまう。
「……悪循環だな」
この状況をなんとかしなくては。
その為には何より相手のシュートを防ぐ事だ。
「さあ志貴さん、覚悟してくださいましっ」
ペナルティエリア手前の琥珀さんにボールが渡った。
「今度こそ……」
絶対に止めてみせる!
「行っけー! ドライブシュートっ!」
何故か最強技のサイクロンではなくドライブシュートを放ってきた琥珀さん。
明らかに舐められている。
「そう何度も抜かれてたまるか〜!」
俺は叫びながらボールへと向かった。
「!」
そして気付いてしまった。
その言葉は、彼の言葉だった。
「だが届かない!」
ボールは無常にも俺の手の届かない場所を飛んでいく。
ごんっ!
「ゴールポストに当たってこぼれ玉になったー!」
地面に倒れる俺。
「……なんて……こった」
俺はとんでもないミスをしてしまった。
「遠野くんっ」
弓塚が駆け寄ってくる。
「ボールは?」
「ラインを割ってコーナーキック」
「……そうか」
まだピンチは続いているようだ。
「弓塚……許してくれ」
「え?」
俺はもしかしたら彼女がそうなんじゃないかと思ってしまっていた。
そして、彼にも謝らなくてはいけなかった。
「森崎は……」
どんなに駄目だと罵らせようが、酷い扱いを受けようがキーパーとして頑張り続けた。
その努力の結果得た、憧れの人からの称号スーパー頑張りゴールキーパー。
その称号を笑う俺に、森崎以上の仕事が出来るはずがなかった。
「森崎は……俺だったんだ」
どんなに頑張ってもボールには手が届かない。
届いても待っているのは自分が吹っ飛ぶという結末。
「いや……もっともっと駄目キーパーだな」
森崎はそれでも必死で頑張り続けていた。
彼は凄い男だったんだ。
「遠野くん、しょうがないよ。誰が誰なのかなんて、わからないんだし」
「弓塚」
「でもね遠野くん。ピンチの時には救世主が現れるんだ」
「え?」
弓塚は俺にあるものを手渡してきた。
「……これは!」
「わたしがキーパーをやるよ。いいよね」
「あ……ああっ!」
俺は即座に頷いた。
「ありがとう」
弓塚とポジションを変わる。
「おいおい、弓塚でいいのか?」
有彦がいぶかしげな顔をしていた。
「いいんだ」
全てを彼女に託す事にした。
「このコーナーキックという大事な場面で弓塚さんを起用するとは……志貴さん試合を投げましたか?」
コーナーキックを蹴るのはまたしても琥珀さん。
「そう見るのは勝手だけどさ」
俺は試合を諦めたわけじゃない。
むしろあのまま俺がキーパーをやっていたほうが危険だったからな。
「弓塚さんにわたしのシュートが止められるはずがありません!」
今まではドライブパスで待機する味方にパスを出してきた琥珀さんが、コーナーからそのままドライブシュートを放った。
ボールは絶妙にディフェンダーをすり抜けゴールへと向かっていく。
「……」
弓塚が手を伸ばす。
ぱし。
「あ……あれ?」
ドライブシュートは片手であっさり止められていた。
「さあ反撃行っくよー!」
弓塚がボールを蹴り上げる。
「任せなさい!」
秋葉がボールへと向かっていく。
「おっと」
七夜も向かっていった。
「……?」
だが何故か七夜は動かず、秋葉がトラップするのをそのまま待っていた。
「一体何を考えて……」
秋葉が油断したその瞬間。
「食らえアルクタックル!」
「な!」
アルクェイドの高速タックルが秋葉を襲った。
「秋葉っ!」
かろうじてそれをかわす秋葉。
「残念」
だがそこに七夜が待っていた。
「しまっ……」
「頂く」
すれ違いざまにボールを奪われてしまう。
「短い反撃だったな」
そしてパス。
「来ましたねっ」
ついさっきスライダーキャノンで得点したシエル先輩だ。
「行きますよ! エッフェル攻撃に敵はいませんっ!」
ボールを手にした瞬間必殺ワンツーで一気に進んでいく先輩。
「くっそおおっ!」
高いボールに動きを合わせた先輩に有彦が向かっていった。
「……ふっ」
「何ィ!」
なんとここでスルー。
「このボールで決めてみせます!」
後ろには琥珀さんが待機していた。
「いっけえーっ! ドライブオーバーヘッド!」
今度はサイクロンには劣るもののかなりの威力があるドライブオーバーヘッドだった。
「それっ!」
手を伸ばす弓塚。
ばしっ。
またしても弾く。
「調子に乗っちゃって! これならどうっ!」
こぼれ玉を拾ったアルクェイド。
ペナルティエリア外だというのにいきなりシュート体勢に入る。
「食らえ志貴チーム! これがわたしのネオアルクショットー!」
弾丸のような速度でボールがすっ飛んでいった。
「ペナルティエリアの外からは絶対に決めさせない!」
弓塚が飛んだ。
「止めるっ!」
ばしいっ!
「ちょ……嘘でしょっ!」
弓塚は片手でアルクェイドのシュートを受け止めていた。
「おいおいどうなってるんだ? あれ」
目を丸くしている有彦。
「これだよ」
俺は弓塚から受け取ったそれを見せてやった。
「そ、その帽子は……!」
その帽子は、ある人物を語るには欠かせないものであった。
「そう、あいつのなんだよ」
キャプ翼界で最高峰の能力を持ったキーパー。
「まさか……弓塚さんが」
「そのまさかだよ」
俺はその人物の名を叫んだ。
「スーパーグレートゴールキーパー……若林源三!」
続く