その帽子は、ある人物を語るには欠かせないものであった。
「そう、あいつのなんだよ」
キャプ翼界で最高峰の能力を持ったキーパー。
「まさか……弓塚さんが」
「そのまさかだよ」
俺はその人物の名を叫んだ。
「スーパーグレートゴールキーパー……若林源三!」
キャプテン琥珀
〜スーパーストライカー〜
その16
「そ、そんな……卑怯ですよっ!」
琥珀さんが叫ぶ。
「キャプ翼サッカーに卑怯なんて言葉はないさ」
どんなに行動をしても退場にはならない。
それがキャプ翼サッカー。
「っていうかそっちのメンバーのほうがよっぽど卑怯だって」
翼に岬、ピエールとナポレオン、カルロス、松山に若島津と。
「むむむ……仕方ありません、どうせペナルティエリア外からシュートが決まるとは思ってませんでしたし」
びしっと弓塚を指す琥珀さん。
「貴方から必ずゴールを奪って差し上げますっ」
「遠野くん、ゴールは絶対守るからね」
「おうっ」
弓塚のおかげでゴールはほぼ鉄壁だろう。
だが既に二点差。
問題はどうやってイチゴさんから点を取るかだ。
若島津もかなり厄介なキーパーだからな。
「おーいさっちーん、こっちによこせー」
ネコアルクがぶんぶん手を振っていた。
「……あいつか」
今まで結構活躍しているからな。
「よし、頼む弓塚」
「わかったっ」
ボールを蹴り上げる弓塚。
「ナイスパース」
それを受け取るネコアルク。
ネコアルクの立っている位置はハーフラインよりもややこちらのゴールに近い位置だった。
「チャイナ娘にさっちんと……。それぞれ力を発揮してきたニャ」
どこかいつもと違ってシリアスな感じのネコアルク。
「あせらなくたってアチキの後ろにはみんながついている……」
これはもしかして。
「よし、いくぞー!」
ネコアルクがてこてこドリブルを始めた。
「やらせませんっ!」
琥珀さんが向かっていく。
「行くぜハラグロー!」
「そ、そんな呼び方しないでくださいっ!」
しゅばっ!
華麗に琥珀さんをかわす。
「ふふん、ちょろいぜー!」
「おおっ」
やるじゃないか、あいつ。
「そんなドリブル止めてみせますっ!」
今度はななこさんが向かっていく。
「貴様のような小娘がアチキを止めようなどと。千年早いわー!」
しゅばっ!
「ああっ?」
「……ナポレオンを抜くとは」
あいつ一体何者だ?
「調子に乗らせてはいけません! なんとしてでも、止めますよ!」
「やれやれ、仕方ないな」
シエル先輩と七夜がネコアルクを囲う。
「貴方をディフェンスです」
さらに翡翠が向かってきた。
「甘いぜー! アチキを止められると思うなー!」
しゅばっ!
「何っ……!」
しゅばっ!
「あ、あれっ?」
しゅばっ!
「し……しまった!」
なんと三人抜き。
「一体どうなってるんですかっ!」
シオンが珍しく焦りの表情を浮かべている。
「行くぜーっ!」
そのシオンさえも抜き去り。
「くそっ!」
早くもキーパーと一対一。
一子さんは迷わず飛び出してきた。
「てりゃー!」
その一子さんすらかわすネコアルク。
ずしゃあっ!
そして無人のゴールにシュートが突き刺さった。
「そ……そんな……!」
唖然としている琥珀さん。
「ドリブルで八人抜き……」
白レンですら驚いていた。
「見たかぁ! これがネコアルクだー!」
ネコアルクは全身で喜びを表現していた。
「……! ディアスですかっ……!」
琥珀さんが叫ぶ。
「ふふふ。これぞ天才の証明。サッカー界を担うスーパースター!」
「やった……やったぞ!」
みんなでネコアルクのもとに駆け寄る。
「やるじゃねえかこのチビ!」
「誰がチビだ! 燃やすぞオレンジ!」
「これで一点差……!」
「いける! いけるぞ!」
ここにきて大幅な戦力アップだ。
これなら琥珀さんチームとだって互角、いやそれ以上に戦える!
「ちょっと……蹴るわよ? いい?」
「……わたしのチームが……こんな……」
キックオフになっても琥珀さんはうなだれたままであった。
「ここで一気に畳みかけるべきだな」
「おう!」
琥珀さんがショックを受けている今がチャンスだ。
追いつき、追い抜いてみせる!
「いっくよー!」
「うあっ」
都古ちゃんがスカイラブタックルで琥珀さんからボールを奪う。
「ちょ……何やってるのよ!」
非難の声をあげるアルクェイド。
「お嬢ちゃん、一気にいくかい?」
「うん!」
ここは一気に必殺ワンツーで攻めていくべきだ。
蒼香ちゃんへパスを出す都古ちゃん。
「させませんっ!」
「な!」
シエル先輩がボールを弾いた。
「琥珀さんが動けない今、わたしたち全員で守りきるんです!」
「し、シエル先輩……」
「甘いですよ!」
こぼれ玉を拾ったのは秋葉だった。
「私たちの攻めはまだ続きます!」
「や、やらせませんっ!」
アキラちゃんが向かっていく。
「やる気なのっ!」
睨みをきかせる秋葉。
「……い、今がやらなきゃいけない時なんですっ!」
なんと秋葉の威圧に耐えて、アキラちゃんが向かっていった。
「こ、このっ!」
かろうじてアキラちゃんをかわす秋葉。
アキラちゃんは向かっていっただけでも良く頑張ったほうだろう。
「油断大敵です」
「っあっ!」
秋葉は続いて現れた翡翠のタックルにボールを奪われてしまった。
「姉さん!」
琥珀さんへパスを出す翡翠。
「カット!」
「!」
ここで値千金のワラキアのパスカットが発動。
「さあ、攻めようではないか!」
ボールを勢いよく蹴り上げるワラキア。
「……」
ボールを受け取ったのはレンだった。
ライン際をドリブルしていくレン。
地味だけど意外と効果的な戦法である。
「やらせん……」
軋間がゆっくりとレンに向かっていった。
「!」
それに気付いて慌ててパスを出す。
「ムン!」
パスに反応して飛ぶ軋間。
ばしっ。
ボールは弾かれ、ラインを割った。
「志貴チームのコーナーキックだー!」
「……願ってもないチャンスだけど……」
琥珀さんのほうを見る。
「わたしのチームは……」
まだ復活はしていないようだった。
「今のうちに!」
最悪でも同点にしなくては。
「問題は誰にコーナーキックをやらせるかだけど……」
「クックックックックック」
「うわっ」
気付くと背後にワラキアが立っていた。
「な、なんだよ」
「ここは私にやらせて貰おうか」
「……おまえが?」
妙にワラキアはやる気満点だった。
「もしかしてコーナーキックがすごい上手いとか?」
そんなキャラいたっけ?
「クックックックックック」
不気味に笑うワラキア。
「まあ……うん、そこまで言うなら」
チームメイトを信頼するのもキャプテンの役目だからな。
「頼むぞ!」
「任せて起きたまえ」
同点への期待を賭けたコーナーキック。
果たして上手く行くのであろうか。
続く