そのボールに最初に追いついたのは白レン。
「さあ、決めてもらうわよ……キャプテン琥珀っ!」
白レンから琥珀さんへ向けての、ラストパスが放たれた。
キャプテン琥珀 〜スーパーストライカー〜 その21
「おっまかせー!」
ボールを受け取ろうとする琥珀さん。
だが。
「わ」 「え?」 「は、羽居っ!」
偶然なのか意図的なのか、ボールの軌道に羽居ちゃんが割り込んできた。
ぽよん。
胸に当たってボールが跳ね返る。
「なんて不愉快な……っ!」 「いや、カットしてくれたんだから喜ぶべきだろ」
ここで琥珀さんへのパスを阻止できたのは非常に大きい。
「クリアするんだ!」 「さ、させませんっ!」 「フフ……フハハハハハ!」
ボールが転がっていく先には、ワラキアがいた。
「さらばだ割烹着の悪魔よ!」
大きくボールを蹴り上げる。
「よしっ!」
これで危機は脱した!
「カウンターだっ!」 「……」
ボールを受け取ったのはレン。
選手のいない絶妙なラインを狙ってドリブルで進んでいく。
「こっちだ!」
ペナルティエリア内にいた蒼香ちゃんがレンにパスを求めた。
ぱしっ。
低くボールが蹴りあげられる。
「させるかっ!」
七夜がパスカットへ向かう。
「だが届かない!」 「……っ!」
ボールは蒼香ちゃんの元へ。
「シュートだ!」 「させん!」
軋間がブロックに向かう。
「これだ!」
蒼香ちゃんは足をあげ、ボールをスルーした。
「なにィ!」
ボールはそのまま蒼香ちゃんの後ろへ。
「ここでアチキの出番だー!」
そこにはネコアルクがいた。
「うりゃー!」
ボールに向かって一回転し、カカトでボールを蹴りあげた。
「ネコアルクくんの前転シュート!」 「いけっ!」
さっきのスルーでイチゴさんはバランスを崩しているはずだっ!
「甘いんだよ!」 「げ!」
バランスを崩すどころか、イチゴさんはネコアルクのシュートに完璧に動きを合わせていた。
「キエエエエーッ!」
ばしっ。
片手でシュートを止めるイチゴさん。
「おまえ達にはもう一点もやらんさ!」 「くそっ」
大きく振りかぶってボールを投げる。
「ありがとうございますっ!」
翡翠がボールを受け取った。
「行きますっ!」
パスを使わずドリブルで進んでくる翡翠。
「くそっ!」
俺は翡翠に向けてタックルを仕掛けた。
「無駄ですっ」
しかしあっさりと避けられてしまう。
「姉さん!」
そしてパスが放たれた。
「さあ、覚悟してくださいましっ!」
琥珀さんは既にペナルティエリアの中。
「まずいっ!」
空中へ大きくボールを蹴り上げる琥珀さん。
「いっけー! サイクロンっ!」
完全にフリーの状態でシュートを撃たれてしまった。
「やらせんっ!」
ネロのおっさんがボールへ向かって飛ぶ。
「うおおおおっ!」
どごっ!
「ネロくん吹っ飛んだー!」
あのおっさんを吹っ飛ばすとは、なんつー威力だ。
ボールはなおもゴールへ向かって突き進む。
「ま、負けないんだからぁっ!」
最後の砦、弓塚が気合の入った叫びと共にボールへと飛ぶ。
ばしいいっ!
「弓塚くんゴールを守ったー!」 「や、やった!」
間におっさんが入ってくれたのも幸いしたんだろう。
あのサイクロンを防げるなんて。
「反撃だ!」
弓塚は三度も連続で必殺シュートを防いでくれた。
しかも最強のシュートを防がれた事で向こうはショックを受けたはず。
カウンターのチャンス!
「まだですっ!」 「え」
ところが琥珀さんの目はまだ生きていた。
あんなに必殺シュートを防がれたのに。
「わたしは諦めませんよっ! ゴールを奪えないキーパーなんてこの世にいるわけないんです!」 「……っ!」
そのセリフを聞いた瞬間、俺は恐ろしい事に気付いてしまった。
やはり琥珀さんはただ闇雲に必殺シュートを撃たせていたわけじゃなかったんだ。
「ボールを取るんだ! なんとしてでも!」
琥珀さんにボールが渡ってしまったら、今度こそ間違いなく得点されてしまう。
「遠野っ、まさか……」 「そのまさかだよっ!」
琥珀さんの狙いは、間違いなくあのシュートだ。
「飛べっ!」
ワラキアが大きくボールを蹴り上げた。
「やった!」 「まだですっ!」 「げっ!」
しかしそのボールをシオンがカット。
「オーバーラップかっ!」 「この好機、なんとしてでも決めて貰いますっ!」 「させるかっ!」
ボールをトラップしたシオンへ有彦が向かう。
「行くぜシオンさんっ!」 「来なさい有彦っ!」 「吹っ飛ばしてやるタイ!」
有彦のパワータックル。
「抜くっ!」
シオンは華麗にそれをかわしていた。
「い、いかんタイ!」 「……次藤語聞いてると力抜けるな」
緊迫してなきゃいけない場面だと思うんだけど。
「仕方ねえだろ! オレの意思じゃねえっ!」 「頼みますよ琥珀っ!」 「しまっ……」
ボールが琥珀さんへ向かって飛んでいく。
「させん!」
オッサンが飛んだ。
「フン!」
ヘディング気味にボールを飛ばす。
「ああっ?」 「いいぞ!」
ボールは再びこぼれ玉に。
「待ってたわよーっ!」
そこにアルクェイドが駆け込んでくる。
「……しまった!」
琥珀さんのほうにばかり注意してしまい、アルクェイドの動きを見る事を完全に失念してしまっていた。
「誰か止めるんだ!」
アルクェイドにボールが渡ってもまずいのだ。
「もらいっ」
ボールをトラップするアルクェイド。
「行くわよ〜!」
シュートを撃たず、ドリブルで切れ込んでくる。
「絶対に止めろっ!」
ペナルティエリア内に入られたらその時点で終わりだ。
だが無情にも。
「邪魔よっ!」
ウチのチームのディフェンスは、アルクェイドの強引なドリブルで吹っ飛ばされていった。
「まずい……」
そしてペナルティエリア内。
「琥珀っ!」 「行きますよアルクェイドさんっ!」
ひとつのボールに向かってアルクェイドと琥珀さんが向かっていった。
そしてそれぞれが全く同時にシュート体勢に入る。
「ドライブ!」 「アルクショットォッ!」
琥珀さんの狙っていたSGGKを破る手段。
それがこのコンビ技だったのだ。
日向と翼のドライブタイガー。
シュートの発動条件は、味方のシュートが三度防がれる事。
そしてゲーム版でのこのシュートは、サイクロンをも凌ぐ最強技なのである。
「これなら絶対に決まりますっ!」
ボールはものすごいスピードとぶれを起こしながらゴールへ向かっていく。
「弓塚ぁっ!」
いくら弓塚でも、このシュートは……
ピイイイイイイイッ!
「え?」 「……え?」
ボールがゴールに寸前で何故かホイッスルが鳴った。
なんだ? 何があった?
「試合は同点のまま後半戦を向かえます」
チャーリーの実況が聞こえた。
「前半終了……ってことか?」 「そんな! 今シュートが飛んでる最中だったんですよっ?」
普通のサッカーだったらそんなところでホイッスルは鳴らない。
だが、これはキャプ翼ゲーのサッカーなのだ。
「シュートが飛んでても時間切れになるんだ……」
そのせいでゲーム中、何度苦渋を舐めた事か。
「……ありえないですよ」
これにはさすがの琥珀さんもうなだれていた。
「た、助かったぁ……」
弓塚が地面に力なく座っている。
ボールはゴールネットを突き破っていた。
ホイッスルが鳴らなければ得点されていたということである。
「……よかった」
勝ち越しは出来なかったけれど、まあ上出来だろう。
俺もへなへなと地面へ座りこんでしまった。
前半終了 志貴チーム 4 琥珀チーム 4
続く
戻る