「……よかった」

勝ち越しは出来なかったけれど、まあ上出来だろう。

俺もへなへなと地面へ座りこんでしまった。
 

前半終了
志貴チーム 4
琥珀チーム 4
 
 

キャプテン琥珀 
〜スーパーストライカー〜
その22



「みんなお疲れさま。この後も頑張ってね」
「す……朱鷺恵さんっ?」

控え室へ戻った俺たちを待っていたのは朱鷺恵さんだった。

「志貴くん、頑張ったわね。さすがは男の子」
「い、いやあ、それほどでも」
「兄さんはむしろ失点を増やしただけですが」

秋葉がちくりと痛いところを突いてきた。

「……悪かったな」

ほんと、弓塚がいなかったらどうなってた事やら。

「いい試合じゃったぞ小僧!」
「ヤ……時南先生まで……」
「怪我のあるヤツはワシが治してやるぞ! 誰かおらんか?」

まさに知り合い大集合って感じである。

「頭部に軽い損傷がある。だが治せるのか?」
「任せておけい! ワシに治せぬ傷などないわ!」
「……無茶苦茶言ってるな、あのヤブ」

ネロのおっさんの何をどうやって治すっていうんだ?

「とりあえず全員集合ー! 作戦会議するぞー!」

みんなてんでばらばらで行動しているのでひとまず集合させる事にした。

「作戦会議といってもどうせ大した事は話さないんでしょう?」

いや、まあ確かにその通りなんだけどさ。

「みんな前半はよくやってくれた。攻めも素晴らしかったし、防御も凄かった」
「当然だろう。この私がいるのだ。フフフフ、ハハハハハハ!」
「……ああ、うん、ワラキアは卑怯だったけどよくやった」

こいつはまだ補正が発覚してないんだよな。

一体誰なんだろう。

「どうもあたしらのシュートは防がれちまうな。ディフェンスに回ろうかい?」
「いや、なんだかんだでジェミニアタックの速攻はでかいからな」

蒼香ちゃん、都古ちゃんは普通に運動神経いいみたいだし。

「ディフェンスは我らに任せておけば問題ないだろう」
「そうそう」

オフェンスに比べてディフェンスは華がないんだよなあ。

強い事は強いんだけど。

「わたしはキーパーのままでいい?」
「っていうかむしろ弓塚以外にあり得ない」
「そ、そんなに期待されてるんだ……」
「そりゃSGGKだからニャー」

余計なツッコミを入れるネコアルク。

「……あうぅ」
「いや、元々の弓塚の根性と気合があってこそだよ」

若林も才能だけでハンブルガーSVに入れたわけじゃないんだからな。

「……あんまり嬉しくないなあ、それ」

弓塚は苦笑していた。

「どうもオフェンスが足りない気がするんですよね」

秋葉がそんな事を言った。

「確かに……」

序盤はまともにシュートを撃てなかったし、終盤は防がれてばかりだった。

「アチキの力があれば問題ないだろー」
「サッカーは一人じゃ出来ないんだよ」

ネコアルクだけでは勝つのは無理だ。

「なんとか考えないとなあ」

こっちにも日向くらいのストライカーがいてくれればいいのに。

「大変だね〜」

羽居ちゃんがにこにこ笑っていた。

「ほんと……大変なんだよ」

キャプテンって色々苦労あるんだなぁ。

「まあ、うん、後半もみんな頑張ろう!」

とりあえず俺はそう叫んだ。

「……結局根性論ですか」
「しょうがないだろ」

キャプ翼ゲーはガッツ命なのだ。

「そういやガッツとかどうなってるんだ……?」

割とみんな元気に見えるけど。

あっちのチームなんか必殺シュート撃ちまくってたし。

「……」

レンが壁を指差していた。

「ん」

残りガッツと書いた紙が張られている。

「一応消費してるのか」

ゲーム内より相当消費が甘くなってるみたいだったけど。

「乱発は禁物って事だな……」

最後の最後にガッツがなくなってしまったら最悪である。

「スポーツドリンク持って来たぞー! 飲むやついるかー?」
「ん」

気付くと有彦がお盆の上にスポーツドリンクを乗せて持って来ていた。

「あ。乾くん、ひとつくれない?」
「ほう。人の飲み物か。興味があるな」
「アチキによこせー!」
「くおらっ! 順番だ順番!」

人外連中をあっさり捌いている有彦。

あいつも結構凄いヤツなのかもしれない。

「羽居。あなたもうちょっとなんとかなさい。はっきり言っている意味ないわよ?」
「そんな事言わないでよ〜。わたしだって頑張ってるのに〜」
「そうそう。おまえさんだって大して活躍してないだろ?」
「なんですってっ?」
「図星を指されたからって怒りなさんな」
「ぬうっ……」

こっちは浅上メンバーで盛り上がっていた。

「へえ、そうなんだ。あたしはねー」
「……」
「ん」

レンと都古ちゃんが何かを話している。

「何話してるの?」
「ああっ! だ、駄目っ」
「……え」

何故か顔を赤くしている都古ちゃん。

「秘密の話なのっ! おにーちゃんはあっち行ってて!」
「はいはい……」

しょうがないので離れる俺。

「うーむ」

なんだか一人仲間はずれになってしまった感じだ。

「大変ねえ、志貴くんも」
「朱鷺恵さん」

隅っこで黄昏てる俺に朱鷺恵さんが話しかけてきた。

「後半は体力の消耗に気をつけてね。あの琥珀ちゃんの事だから、きっと色々考えているはずよ」
「そうですね……」

切り札がドライブタイガーだけとは限らない。

他にもきっと何かあるはずだ。

「まあ、何が来ようとチームワークで乗り切ってみせます」
「おう、ドリンクねえぞー! もってきやがれー!」
「だあ、テメエで行きやがれっ!」
「蒼香っ! 止まりなさいっ!」
「やなこった」
「……大丈夫?」

苦笑いしている朱鷺恵さん。

「多分……」

恐ろしく不安であった。

「……ちょっと外の空気吸ってきます」
「あ、ええ。気をつけてね」
「はい」

頭を押さえつつ外へ出る。

「……」

誰かがこっちに向かって歩いて来ていた。

「見事ね志貴……あなたのプレイは確かに凄いわ。スーパーストライカーとして完成しつつある」
「なっ……」

その人物の姿を見て愕然とした。

「けどね、私はあなたに上には上がいる事を知らさなきゃいけないの」

サングラスをかけてはいるが、その姿を、声を忘れるはずがなかった。

「いるのよ。このチームには……完成されたスーパーストライカーが!」
「……まさか」

サングラスをぱちんと弾いて空へ投げる。

風で赤い髪がゆらゆらとなびいていた。

「選手の交代をお知らせします。 琥珀チームアキラくんにかわりまして……」

アナウンスの声が響き渡る。

「ミスブルー! 背番号10」
「……先生」

俺に直死の魔眼を封じるメガネをくれた、恩師ともいえる人が。

「あはっ。久しぶりねー、志貴」
 

あの時の姿そのままで、そこに立っていた。
 

 続く



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