アナウンスの声が響き渡る。
「ミスブルー! 背番号10」
「……先生」
俺に直死の魔眼を封じるメガネをくれた、恩師ともいえる人が。
「あはっ。久しぶりねー、志貴」
あの時の姿そのままで、そこに立っていた。
キャプテン琥珀
〜スーパーストライカー〜
その23
「どうして……」
「あは。使い魔探してたら何か面白そうな事やってるでしょ? こりゃ参加するしかないなって」
「……ははは」
その口調、仕草。何も変わっていない。
「本当に先生なんですね」
「夢の中だけに、夢の競演ってやつ?」
「はは」
「あっはっはっは」
二人で笑い合う。
「……けど琥珀さんチームなんですね」
「そりゃまあ当然よ。これも愛情表現ってやつ」
またずいぶんと痛い愛情表現だなぁ。
「もちろん手加減する気はないからそのへん宜しくねー」
「……はい」
先生はひらひら手を振って去っていった。
「勝てないかもしれない……」
「戻ってくるなりなんですかその弱気な発言はっ!」
「ご、ごめん」
秋葉に怒られてしまった。
「そうだよなあ。やってみないと……」
けどあの琥珀さんに加え、先生が相手じゃ。
「……」
厳しいどころの騒ぎじゃなさそうだった。
「なあ遠野」
「なんだ?」
有彦が複雑そうな顔をしていた。
「なんかあそこに変ない連中がいるんだが」
「……変な連中?」
その方向を見てみる。
「この駄犬……!」
「駄犬デハ、アリマセン。わたしハ、マスターニツクラレタ、ろぼっとデス」
「……」
「こらこら、見なかった事にするんじゃない」
「いや、だって……」
あれを一体どうしろと?
「控えの選手のようだな」
「フン、下賎な連中だ……」
いや、貴方たちも十分変な部類に入ると思うんですが。
「……まあ、記憶の片隅に留めておこう」
向こうもとんでもない選手が出てくる事だし、選手が大いに越した事はない。
「肉片も残さないほど切り刻んであげる……!」
「肉片ト、イウモノハ、わたしニハ、存在シマセン」
「……」
使えるのか? ほんとにあいつら。
「……待てよ?」
ちょっと考えてみる。
「いや、もしかしたら……」
「兄さん、何を一人で呟いているんですか」
「あ、うん。ちょっと」
ポジションを変更し、勝つための案がふと思いついた。
これならもしかして、いけるかもしれない。
「よし……」
とにかくモノは試しだ。実行してみよう。
「ポジションの変更をお知らせします。三澤羽居くんに代わりまして、メカヒスイくん」
フィールドにアナウンスが響く。
「まあ、これは妥当な線よね」
羽居ちゃんには申し訳ないけど、前半ほとんど活躍してなかったからな。
「全力ヲ尽クシマス」
あのメカヒスイが羽居ちゃんに劣るというのはまずないだろう。
「しかし……」
秋葉がじっとベンチを睨みつけた。
「遠野志貴くんに代わりまして、ワルクェイドくん」
「あはははははははは!」
センターサークル内で文字通り悪そうな顔をしたアルクェイドが笑っていた。
「うわ……なに? わたしのパチモノ?」
本家アルクェイドが怪訝そうな顔をしている。
「目には目をだ……」
しかもこっちのワルクェイドのほうが凶悪っぽいし。
「アレを出すのは構わないのですが、兄さんが引っ込むのはどうかと思います」
「仕方ないだろ」
森崎がフィールドにいたってしょうがないし。
「わたしも出なくていいのかな〜?」
「あー、うん、羽居ちゃんはみんなを応援しててくれればいいから」
それが一番いい選択肢の気がする。
「そっかー。じゃあ秋葉ちゃん頑張って〜」
ぶんぶん手を振る羽居ちゃん。
「うーむ」
遠くで見ててもかなりのものだったが、こう近くで見るとさらに。
「兄さん! 試合に出ないなら出ないでちゃんとサポートしないと許しませんからねっ!」
「は、はい! 努力する所存にございます!」
試合に参加してなくても俺は頑張らなきゃいけないようだ。
「……えーとボールはどっちからだっけ」
「こっちからだニャー」
「そうか……」
って事はボールに触れる間もなく終了ってのはないと。
「みんな! 新しく入った10番には絶対ボールを取られるんじゃないぞ!」
「そんなに手強いんですか? あの人」
「手強いなんてもんじゃないと思う……」
あの登場の仕方をしたって事は、まず間違いなく。
「まあいいです。実際に戦えばわかる事ですから」
「さあ……殺しあいましょう」
「……行きますよ」
秋葉がちょこんとボールを蹴る。
「行くわよ!」
ワルクェイドが物凄い速度で走り出した。
「……偽者のくせにっ!」
アルクェイドが立ち向かっていく。
「邪魔!」
「通さないんだから!」
どがっ!
ぶつかり合う二人。
「くうっ……」
なんとアルクェイドのほうが吹っ飛ばされていた。
「さすが凶暴そうな顔してるだけあるな……」
逆に防御はまるで駄目っぽいけど。
「……認めたくありませんが戦力になりそうですね」
秋葉がワルクェイドの後を追っていく。
「先生は……」
「〜♪」
センターサークルの中でのんびりとしていた。
「あの人、どうしたのかな〜?」
「……待ってるんだよ」
ボールが来るのを。
「あの位置からでも速攻で決まるだろうからな……」
「そうなの?」
「ああ」
一点は覚悟しなくちゃいけない。
「ワルクェイドくん吹っ飛んだー!」
「なにっ」
ちょっと目線を離しているうちに。
「……フン」
ワルクェイドを吹っ飛ばしたのは軋間のようだ。
「あいつは要注意だな……」
あいつと対戦してまともに抜けた覚えが無い。
「頂くぞ」
ボールを拾ったのは七夜だった。
「そらっ!」
パスを出す。
「回します」
翡翠がトラップし。
「えいっ」
さらにパス。
「あはっ」
センターサークル内の先生にボールが渡ってしまった。
「ああ……」
思わず頭を抱えてしまう。
これからうちのチームのメンバーは、悪夢のような光景を目にする事だろう。
「さ、行くわよー!」
走り出す先生。
「止めてやるぜー!」
ネコアルクが先生を追いかけていった。
「お……お?」
だがしかし。
「ちょ……待っ……!」
ネコアルクと先生の距離はどんどん離れていく。
「こ、これは……!」
「バカな……!」
おっさんもワラキアも追いつく事が出来ない。
「ええっ!」
あっという間にペナルティエリアの中へ。
「ド、ドリブルが早くたって!」
身構える弓塚。
「くらえっ! マッハシュートッ!」
先生がシュートを放った。
きょんきょんきょんきょん。
不思議な軌道を描いて進んでいくボール。
フッ。
「ええっ! ボールが消えたっ?」
そしていきなりそのボールが姿を消してしまったのだ。
ずばっ!
「あっ……!」
そして出現したボールがあっという間にゴールネットに突き刺さってしまった。
「あれが……スーパーストライカーだ……」
ブラジルの誇る、完成されたスーパーストライカー。
「あはっ。決まっちゃった」
アルツール・アンチネス・コインブラ。
「先生とコインブラじゃ……」
考えうる限りの最悪の組み合わせだった。
こんな反則キャラ相手に、俺たちは立ち向かっていかなきゃいけないのだ。
「本当に勝てるのか……?」
計画は立てた。
うまくいくとは限らない。
けど、やるしかないんだ。
「わ、わたしの出番が……」
味方がシュートを決めたというのに、琥珀さんはとても残念そうだった。
志貴チーム 4
琥珀チーム 5
続く