「本当に勝てるのか……?」

計画は立てた。

うまくいくとは限らない。

けど、やるしかないんだ。
 

「わ、わたしの出番が……」
 

味方がシュートを決めたというのに、琥珀さんはとても残念そうだった。
 

志貴チーム 4
琥珀チーム 5
 
 

キャプテン琥珀 
〜スーパーストライカー〜
その24












「兄さん! なんなんですかあの人は!」

試合再開前に全員を集めて作戦会議。

「先生は魔法使いなんだよ」
「……何を訳のわからない事を」
「信じられないだろうが、真実だ」

ネロのおっさんがそんな事を言った。

「まさかアレと対峙するとはな……無念だ。生きているうちに戦ってみたかった」
「まあ、取り合えず今の先生の状態を説明するとだな」

すなわちそれはコインブラの説明でもあるんだけど。

「ドリブルが倍速で、撃てば必ず決まる必殺シュートを持ってる」
「なんですかその子供が考えたような最強具合は……」
「しょうがないだろ。事実なんだから」

実際ゲーム中の彼は一人だけ次元の違う強さを誇っているのだ。

「一体どうしろっつーんだ? そんなの相手に」

有彦が渋い顔をしていた。

「取り合えずボールを奪われないことだな」
「簡単にいいますけど……それが一番難しいんですよ?」
「ああ。その為のワルクェイドとメカヒスイだ」

全員の視線が二人へ。

「わかってるじゃないの志貴……さすがね。バラバラにしてあげたいわ」
「それは遠慮しておく」
「さっきキシマの野郎に吹っ飛ばされてたじゃニャいかー」
「それも含めて作戦を教えるから、よく聞いてくれ」

ごにょごにょほにゃららほにゃらら。

「……恐ろしいほど卑怯ですね」
「先生の存在自体が反則みたいなもんなんだ。これくらいしないと勝てない」

出来れば俺も使いたくはなかったが。

「了解イタシマシタ。任務ヲ遂行シマス」
「頼むぞ」
「志貴さーん。まだですかー? チャーリーさんがずっと歌ってるんですけどー」
「あ、うん。わかった。じゃあみんな……頼むぞっ」

再びチームメンバーがフィールドへと戻る。

「じゃあ、行きますよっ」

秋葉がボールを蹴りあげた。

「では……参ろうか」

まずはワラキアにボールが渡る。

「またずいぶんと後方にパスを出しましたねえ」

そりゃそうだ。

10番の位置には先生がいるんだから。

なるべく先生から遠い位置でボールを回すに限る。

「キャスト!」
「サンキュー」

ワラキアから蒼香ちゃんへ。

「ほれっ」
「ゲッツ!」

蒼香ちゃんからネコアルクへ。

「むっ……志貴さんもしや」
「とりゃー!」

ネコアルクから都古ちゃんへ。

「パス回しで進む作戦? そんなの通じないわよ!」

アルクェイドがボールへ向かう。

「だが届かない!」
「あ、あれ?」
「……日向はタックル以外駄目なんだよなぁ」

ドリブルでぶつからなければ怖い相手ではなかった。

「ならばわたしがっ!」

シエル先輩が都古ちゃんへ向かっていく。

「都古ちゃん!」
「わかってるっ!」

即座にパスを出す。

「来たわね……」

ワルクェイドだ。

「殺してあげる!」

物騒な事を叫びながら突っ込んでいくワルクェイド。

「え、ちょ……!」

どがっ!

「シエルくんふっとんだー!」

ワルクェイドの強引なドリブルの前には華麗なプレイも無意味だった。

「こういう力技が強いんだよな……」

シンプルがゆえの強さとでも言おうか。

さらにななこさん、七夜と吹っ飛ばしていくワルクェイド。

「やらせん!」
「!」

そこにまた軋間が向かっていく。

「そぉら!」

ワルクェイドはすぐざまボールを真横に蹴り出した。

「ぬっ」

軋間はそれを追いかけようとしたが。

「行かせないわ……」
「ちいっ!」

目の前にいるワルクェイドのせいで、ボールを追う事が出来なかった。

「来ましたねっ!」

ボールへ向かっていくのは秋葉だ。

「アルクェイドさんっ! しょせん貴方は私の為の見せ場を作るための存在なんですっ!」
「うわ、なんか妹が調子に乗ってる」

これは本物のほうのセリフ。

「……引き裂いてあげる」

ワルクェイドも秋葉を睨みつけていた。

「こらこら仲間割れするんじゃない!」

まったく秋葉も余計な事を。

「やらせませんよ秋葉!」
「ディフェンスが軋間さまだけだと思わないで下さいっ」

シオンと翡翠が秋葉を囲う。

「食らいなさい!」
「!」
「させません!」

秋葉のセリフに警戒する二人。

「……ふっ」

ところが秋葉はボールに触れず、そのままスルーした。

「なにィ!」

そのスルーでバランスを崩すイチゴさん。

「捕獲シマス」

そこにメカヒスイが走りこんできた。

「トラップ」

ボールを受け、そのままゴールへと向かっていく。

「な、なんだいこいつ……?」

戸惑うような表情のイチゴさん。

「突撃」
「……来るつもりかっ!」

メカヒスイはためらう事なくイチゴさんへ向かっていく。

どごっ!

「メカヒスイくんふっとんだー!」
「……痛っ……」

なんとかゴールは阻止したものの、イチゴさんはダメージを受けてしまったようだ。

バランスを崩しているのにあの突撃を防ぐとは、さすがイチゴさん。

「こぼれだまになったー!」

だがボールはまだ生きている。

「今だ!」
「おっしゃー!」

ネコアルクが走りこんできた。

「アチキが天才、ネコアルクだー!」

くるりと回転しての前転シュート。

「ちょ……!」

イチゴさんがメカヒスイとぶつかったせいで、琥珀さんチームのゴールは空っぽだ。

ずばっ!

「ネコアルクくんの前転シュートが琥珀チームゴールを突き破ったぁ〜!」
「……よしっ!」

思わずガッツポーズを取ってしまう俺。

「ミッションコンプリート」

メカヒスイもガッツポーズを取っていた。

「さ、さすが翡翠ちゃんの姿を模しているだけの事はありますねっ!」
「……」

翡翠はとても不満そうだった。

そりゃそうだろう。

翡翠っぽい要素が粉微塵も含まれてないからなあ。

「今の、どうして決まったのかなぁ」

羽居ちゃんが尋ねてくる。

「キャプ翼ゲーでの基本は、一度ボールをスルーしてからのシュートなんだ」

どんなに手強いキーパーでも、バランスを崩してしまえば能力がガタ落ちになる。

「そこに頑丈なメカヒスイを突っ込ませれば……」

例えキーパーを抜けなくても、ゴールを守れなくする事が出来る。

キーパーがいなくなったところに誰かがシュートをねじ込むと。

「……なんだかずるっこい作戦」
「それはわかってる」

わかってるけど確実に点を取るにはこれしかなかった。

実際のゲームでも終盤はほとんどこの方法を取らないとシュートが通用しない。

「これで先生にボールが渡る前にカット出来れば……」

リードする事も可能なはずだ。

「でも、カット出来なかったら」
「……そうなんだよなぁ」

先生以外のメンバーの能力が劣っているわけじゃなくて、先生が桁違いなだけなのだ。

他の誰かに得点される可能性だって大いにあり得る。

何故なら俺が今やった作戦はそっくりそのまま琥珀さんだって使えるんだから。

弓塚と言えども、バランスを崩された状態でボールを止めるのは難しいだろう。

「ここから先は泥仕合だ……」

点を取るか取られるか。

「いえ、大丈夫だと思いますよ兄さん」
「秋葉?」

秋葉が不敵に笑っていた。

「琥珀の性格は知っています。おそらくは……」
「……えと」

琥珀さんだったらどんな手段を使ってでも勝ちに来るんじゃないのか?

「まあ見ていればわかります」
「そ、そうか」

なんだかよくわからないけど秋葉の言葉通りだといいなぁ。
 

俺はそれを強く願うのであった。
 

志貴チーム 5
琥珀チーム 5
 

続く



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