琥珀さんだったらどんな手段を使ってでも勝ちに来るんじゃないのか?
「まあ見ていればわかります」
「そ、そうか」
なんだかよくわからないけど秋葉の言葉通りだといいなぁ。
俺はそれを強く願うのであった。
志貴チーム 5
琥珀チーム 5
キャプテン琥珀
〜スーパーストライカー〜
その25
「琥珀チームのキックオフです!」
ぱしっ。
白レンがボールを蹴りだした。
「はーい、こっちこっち〜」
先生がひらひらと手を振っている。
「……っ!」
レンが白レンへ向かっていった。
「シロさん、こっちです!」
「変な呼び方しないで貰える……?」
白レンは琥珀さんにパスを出した。
「あらら。どゆ事?」
きょとんとしている先生。
「先生さんは強すぎますので、最後の切り札になってもらいたいんですよ」
「んー、まあそれでもいいけどねー」
「……?」
それってつまり、ピンチになるまで先生を使わないって事なんだろうか。
「そんなわけでディフェンスにでも下がっててくださいな」
「はいはーい」
先生はいやに大人しく琥珀さんに従っていた。
あの人、誰かに従うようなタチじゃないと思うんだけどなあ。
「先生に戦わせれば楽に勝てるはずなのに」
どうして琥珀さんはそんな事を言うんだろう。
「油断大敵よ琥珀っ!」
「うわぁっ?」
先生の下がっていく様子を眺めていた琥珀さんへ、秋葉の容赦ないタックル。
「こぼれだまになったー!」
ボールは空中へすっ飛んでいき。
「お」
俺たちのほうへと転がってきた。
「……向こうのスローインだな」
ボールを拾う。
「兄さん」
「あれ」
何故か秋葉が向かってきた。
「言ったでしょう? 大丈夫だって」
「一体どういう事なんだ?」
「琥珀は10の力を持つものを倒すのに、11程度の力があればいいと思ってるんですよ」
「……えーと?」
「圧倒的な力の差で勝つというのは琥珀の美学に反するんでしょう」
「美学って……」
琥珀さんにそんなものあったのか?
「琥珀は元々力ではなく、頭脳で敵を倒すタイプじゃないですか」
まあそれは確かに。
「ですが、絶対的なパワーを持った人がいると、作戦なんて必要なくなってしまいます」
「そうだな」
何でもいいからその強いヤツ……つまり先生にボールを集めてしまえばいいわけだ。
そうなると作戦もへったくれもない。
「それでは面白くありませんからねー」
「……琥珀さん」
気付くと琥珀さんが傍に立っていた。
「フェアプレイなどと殊勝な事を言うつもりはありませんが。あの人の登場はわたしにも予想外でしたので」
「……」
ボールを俺の手から取る琥珀さん。
「出来れば早くフィールドに戻ってきて下さいね。やはり決着は志貴さんとつけたいです」
「でも俺はもう交代して……」
フィールドにはもう戻れないはずだ。
「それは森崎くんとしての志貴さんでしょう?」
「え」
どういう事なんだ?
「まあ、取りあえずはSGGK弓塚さんを倒すのが先決です。見ていて下さいね。絶対に倒してみせますからっ」
両手で思いっきりボールを投げる琥珀さん。
「ではでは〜」
「あ、待ちなさい!」
そしてそのまま去っていった。
「……」
俺は拳を握り締めた。
「みんな! さっきの作戦はなかった事にしてくれ!」
「え?」
秋葉が驚いたような顔で振り返る。
「正々堂々点を奪うんだ!」
「……それでこそ兄さんですっ!」
そう叫んで琥珀さんを追いかけていった。
「お兄さん」
「ん?」
羽居ちゃんがにこにことと笑っている。
「そのほうがみんなも楽しいと思うよ」
「うん、そうだね」
サッカーってのは楽しんでやるもんだからな。
「それと、先生さんのほうも心配ないみたいー」
「……ん」
先生の歩いていったほうを見る。
「あらら。どったの? ボールはあっちよ?」
「貴様から目を離すのは危険なのでな」
ディフェンスのはずのネロのおっさんが先生にぴったりと張り付いていた。
「……マークは2に存在しなかったんだけどな」
つまりこれはネロのおっさんの独断での行動という事だ。
「まあ、好きになさいな」
「フン、その軽口がいつまで叩けるかな」
あのおっさんの巨体なら、先生にボールが届く前に止められるはず。
「みんな頑張ってくれ……」
力を合わせれば、きっと勝てる。
「……」
そして同時に、試合に出ていない自分が歯がゆかった。
「シエルくん高いボールに動きを合わせる!」
「っ!」
既にボールは自軍ゴール前にあった。
「今度こそ決めます! 行きますよセブン!」
「はいっ!」
シュート体勢に入る先輩とななこさん。
「シエルくんたちのスライダーキャノン!」
「止めるっ!」
ボールを追ってジャンプする弓塚。
「……っ?」
「届かないっ?」
その手はボールに届かなかったように見えた。
ぴしっ!
「あ、当たった……!」
ほとんどギリギリで拳の先端部分が当たったようだ。
「こぼれだまになったー!」
「……危ないな」
後半になって、向こうの選手の力が増したように感じる。
先生への対抗心からだろうか。
例え最強キャラがいなくても、自分たちは勝てると証明したいのだ。
「面白くなってきたじゃない……」
こぼれ玉を拾ったのはワルクェイドだった。
「殺しがいがありそうよ!」
そのまま物凄いスピードで進んでいく。
「そう簡単にやらせるかよ」
「っ!」
七夜がワルクェイドの前に現れた。
「おまえは俺の獲物だ。消させて貰う」
「……」
「……」
一瞬二人の動きが止まった。
「あは、あははははははは!」
大声で笑うワルクェイド。
「面白い冗談ね、偽者! 貴方ごときがわたしに勝てると思うの!」
「偽者なのはお互いにだろう!」
七夜の姿が消えた。
消えるフェイント……違う!
これは七夜独自の技だ。
「斬!」
「っ!」
ワルクェイドの真上に現れた七夜。
そこからボールを狙って蹴りを放つ。
「行くわよっ」
「なっ!」
しかし、七夜の狙ったはずのワルクェイドの姿も消えていた。
「無様ね!」
着地した時には既に遥か彼方を走っている。
「やってくれる……」
再びワルクェイドを追っていく七夜。
「そんなに戦いたいのかしら?」
ワルクェイドが動きを止め、七夜を待ち構えた。
「極細と散れ!」
向かっていく七夜。
「さぁ、楽しみなさい……!」
「なっ!」
なんとワルクェイドは七夜へ向けてシュートを撃った。
「ワルクェイドくんのダブルイール!」
不規則な回転をするボール。
どごっ!
「七夜くんふっとんだー!」
至近距離のシュートを食らって吹っ飛ぶ七夜。
そのままボールは琥珀チームのゴールへと向かっていく。
まさかそこでシュートを撃つとは誰も思っていなかったのか、ボールを止めに行く選手は誰もいなかった。
「……ウナギか……」
まああの強引なプレイで予想はついてたけど。
そういえばあいつも日向のパチモンなんだよなあ。
「ウナギって何の事?」
羽居ちゃんが尋ねてくる。
「……えーと、CF・ザガロにはダブルイールというキーパー殺しのシュートがあるんだ」
俺は当時のロベルトのセリフをそのまんま言った。
「ちなみにイールとはウナギのことだ。カバヤキにすると美味いぞ」
ウナギはあっさり軋間に防がれていた。
続く