「ウナギって何の事?」
「……えーと、CF・ザガロにはダブルイールというキーパー殺しのシュートがあるんだ」

俺は当時のロベルトのセリフをそのまんま言った。

「ちなみにイールとはウナギのことだ。カバヤキにすると美味いぞ」
 

シュートはあっさり軋間に防がれていた。
 
 



キャプテン琥珀 
〜スーパーストライカー〜
その26





「こぼれ玉になったー!」

軋間に止められたボールが宙を舞う。

「チャ〜ンス」
「げ」

よりによってそのボールに向かっていったのは先生だった。

「させるか!」

おっさんが先生を追いかける。

「ギアをあげるわ!」
「なっ……」

先生のスピードがさらに加速した。

「はい、ゲットー!」

そのままボールをトラップする先生。

「貴様……!」
「うわ、怖い怖い」

突進するおっさんを、闘牛士のように軽くいなす。

「ま、まだ出番には早いですよ!」

琥珀さんが叫んだ。

「んー。そんな事言ってもディフェンスはボール取るのが仕事だし」

いや、先生はただヒマだったから取りに行っただけだと思う。

「ま、いいわ。じゃあ向こうのゴールに向けて蹴り飛ばすわよー」
「……え」

なんだか猛烈に嫌な予感がした。

「行くわよっ!」

なんと自軍ゴール前だというのにシュート体勢に入る先生。

「ヤバイ……」

あの位置からでも、マッハシュートなら十分決まる可能性があるのだ。

「撃たせん!」

おっさんがブロックしようと懸命に飛ぶ。

「なーんちゃって」
「なんだと!」

ところが先生はシュートを撃たずに足を止めた。

ばたっ。

おっさんが地面に倒れる。

「行くわよっ! マッハシュートっ!」

そして改めてシュート体勢に入った。

ばしいっ!

ボールが蹴りだされる。

「な……っ」

ところが。

そのシュートの軌道上に七夜が立っていた。

どごっ!

「七夜くん吹っ飛んだー!」
「み、味方のシュートに吹っ飛ばされた?」

確かに当たってもおかしくない位置に立ってはいたが。

ゲームでは絶対にあり得ない事だ。

「しかしボールの勢いも弱まった!」

威力は減ったものの、なおもボールは飛んでいく。

「ちょ、ちょっと……」
「秋葉!」

七夜の後方に立っていたのは秋葉だった。

あのままじゃ秋葉が……!

ガキイッ!

「え」

一瞬何が起こったのかわからなかった。

「こぼれ玉になった〜!」

誰かがシュートを防いだのだ。

「ゴ無事デスカ、アキハ、サマ」
「メ、メカヒスイ……」

秋葉の前に立っていたのはメカヒスイだった。

「あなた私を庇って……?」
「ガ……ガ」

メカヒスイの頭から電気のようなものが走った。

「だ、大丈夫なの?」
「問題アリマセン」

ガッツポーズを取ってみせる。

「マッハシュートを防ぐとは……」

間に七夜が入っていたとはいえ、なんとういう防御力。

やはりメカは伊達じゃなかったのだ。

「メカヒスイはディフェンスに回すべきか?」

そんな事を考えてしまう。

「ほらほらそんなところばかり見てていいのかしら?」
「うわっ」

気付けばアルクェイド、白レン、シエル先輩にななこさんがゴール前に迫っていた。

「連続で攻めますよ!」
「何が来たって止めちゃうんだから!」
「行きます! キャノンシュート!」

まずはななこさんがシュートを撃った。

「そんなシュートでっ!」

あっさり弾く弓塚。

「まだよっ!」

白レンがこぼれ玉を拾う。

「食らいなさい! ミラージュシュートっ!」
「弓塚! 三度連続はまずいぞ!」

またドライブタイガーのフラグが立ってしまう。

「わ、わかってるけど……!」

再びパンチング。

「わたしたちの必殺シュートをキャッチで取れるとは思わない事です!」

そう、いくらSGGKと言えどもペナルティエリア内からのシュートをキャッチするのは至難の技だ。

しかもこうも連続で打たれてしまっては。

「弓塚さんはパンチングするしかないんですよ!」

シエル先輩のスライダーシュート。

「……っ!」

弓塚はキャッチに行くが、一歩届かない。

「そんな!」

決まってしまうのか?

「甘いな!」

しかしボールの抜けた先にはワラキアが立っていた。

「飛べ!」

ばしっ!

ボールを蹴りあげ、遥か彼方に吹っ飛ばす。

「三連続がまずいんだったら、弓塚が防がなきゃいいんだよ!」

有彦がそんな事を叫んだ。

「……わざと抜かせたのか?」

わざとキーパーを抜かせ、ディフェンスに防がせる。

確かにこれならドライブタイガーは発動しない。

「ゲ、ゲームの原則をことごとく崩してくれますね……」

琥珀さんが渋い顔をしていた。

「……」

つまりそれは、より一層トンデモサッカーになりつつあるという事だ。

「ボールはラインを割ってしまった!」
「……スローインか」

まだボールは琥珀さんチームのままだ。

「まだまだ諦めませんよ! 攻めて攻めて攻めまくってあげます!」

琥珀さんがライン外へ向かっていった。

「……あ、あれ?」

しかしその動きがぴたりと止まる。

「何だろう」

琥珀チームのディフェンス勢を見て気付いた。

みんな守りを放棄してあるところに集まっていたのだ。

うちのチームのフォワードらも集まっている。

琥珀さんたちの攻めに夢中で気付かなかったが、何かあったらしい。

みんなのところに向かって走っていく。

「なんだ? どうした?」

円の中心を覗く。

「……」

そこにはぴくりとも動かない七夜が倒れていた。

「当たり所が悪かったんでしょうね」

さっき七夜は先生のマッハシュートの直撃を食らっていた。

あれが原因ということだろう。

「味方のシュートにやられるとは思ってなかったんでしょうね……」

警戒してないところに最強の破壊力を持ったシュート。

意識を失ってしまうのも仕方のない事かもしれなかった。

「……ごめん、ちょっち調子に乗りすぎた」

先生もさすがに大人しくなっていた。

「どうしましょうか……」

ゲームでは例えガッツが0になっても失神などしない。

「交代するのがいいんじゃないの?」

けどまあ、動けなくなった選手は交代するのが普通である。

「……仕方ありませんねぇ」

琥珀さんが大きくため息をついた。

「本当は使いたくなかったんですが……」
「え」

まさか、先生以上の切り札がいるのか?

「一体誰が?」

もう知ってる連中はほとんど出てきた気がするんだけど。

「ふふ、ふふふふふふふ……」
「っ」

俺の背後に、そいつが立っていた。

「久しぶりの地上だ。長かった……オレの出番が来るまでが。そして……」
「お、おまえはっ!」
「……」

そいつは俺の事なんかまるで興味ないように、横を通り過ぎていく。

「……ちょ」

秋葉は信じられないものを見たような顔をしていた。

「会いたかったぜ秋葉ぁぁっ!」

そいつが秋葉に向かって飛びかかる。

「来ないで下さいこの馬鹿シキがあっ!」
 

渾身の右ストレートが遠野シキに炸裂するのであった。
 

続く



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