「メカヒスイくん吹っ飛んだー!」

堪える事が出来ずに、メカヒスイは吹っ飛んでいた。

てん、てんてん……

ボールの威力は相殺され、秋葉の足元に力なく転がっていった。

「……」

ぎろりとシキを睨み付ける秋葉。

「……この借りは必ず返します!」
 

その髪の色が、紅く染まっていった。
 
 

キャプテン琥珀 
〜スーパーストライカー〜
その28



「……っ!」

俺は思わず生唾を飲んだ。

秋葉が赤朱化した事に驚いたわけではない。

「そのセリフは……」
「絶対に許しませんよ!」

怒り心頭の秋葉。

「お? やる気か?」
「……来なさいっ!」

秋葉は何故かシキに向けて軽くボールを蹴っただけだった。

「くれるのかい? いい子だな秋葉!」

シキがドリブルで秋葉へと向かっていく。

「……」

その横を通り過ぎようとした瞬間。

ガッ!

「シキくん吹っ飛んだー!」

シキが空中に吹っ飛んでいた。

「え? な、何があったの?」

ぽかんとしている羽居ちゃん。

「……シキが抜き去ろうとした瞬間、秋葉がボールをシキのどてっ腹に蹴りあげたんだ」

これはある選手がやっていた、日向の強引なドリブルを破った技である。

「皇帝……」
「え?」
「さて」

秋葉はペナルティエリア内へ切れ込みシュート体勢に入った。

「貰いましたよ琥珀チームっ!」

大きく足を振り上げ、蹴り上げる。

「ファイヤー!」
「んなっ……!」

言葉通り火のような勢いで飛んでいくボール。

「ファイアーショットですかっ!」

琥珀さんが叫ぶのが聞こえた。

「ちいっ!」

必殺の三角飛びで飛ぶイチゴさん。

かろうじてボールが手に触れる。

「ぐあっ!」

しかしその手は大きく弾かれ、ボールはゴールへ突き刺さっていた。

「借りは返しましたよ!」

びしっとシキを指差す秋葉。

「や……やるじゃないか……さすがはオレの妹だ……」

ふらふらと起き上がるシキ。

「当然です!」
「……考えて見ればここまで相応しい配役もないよな」

元々秋葉は熱を操作するのが得意だったのだ。

そしてあの怒りモード。

皇帝の怒りが発動した時、プレイヤーは地獄を見るのだ。

「カール・ハインツ・シュナイダー……」

琥珀さんが渋い顔をしていた。

「キャプ翼界でも最高峰のプレイヤーだな」

その割に怒りモードが発動する前は大して強くなかった気がするけど。

「どうも力の調整が難しいですね」

秋葉の髪の色が元に戻っていた。

どうやら秋葉はシュナイダーの力を上手く使いこなせていないらしい。

「……檻髪も琥珀さんの感応力が無いと辛いみたいだからな」

あまり乱用は出来ないということか。

「ぐっ……」
「い、一子さんっ?」

秋葉のシュートを防ごうとした一子さんが腕を押さえていた。

「大丈夫ですか?」

チームメイトがかけよっていく。

「……ちょいと、ひねっちまったみたいだ」
「そ、そんなっ!」

キーパーにとって腕の損傷は大打撃だ。

キャプ翼界では腕の怪我によって大抵のキーパーが酷い目に遭っている。

最も酷い扱いを受けたのは多分ヘルナンデスだろうけど。

「若島津も一度腕が破壊されたからな……」

皮肉にもそれはシュナイダーのファイアーショットを受けての事であった。

「す、すいません。とばっちりのような形になってしまって……」

頭を下げる秋葉。

「いや、選手がシュートを撃つのは当然の事だろう。防げなかったあたしが悪い」
「……っ」
「どうしましょう。キーパーを変えるしかないんでしょうか……」
「そのほうがいいだろうな……」
「……」

しかし、琥珀チームに残っている控えは久我峰だけだったはずだ。

「もしかしたら久我峰さんがジャイッチくんの可能性もあるんですけど、出したくありません」

琥珀さんの気持ちは痛いほどよくわかった。

久我峰が回転しながらボールを取る姿なんて誰も見たいはずがない。

「俺がやろう」
「え」

そんな中、軋間が一歩進み出てそう提案をした。

「軋間さんがですか?」
「不服か?」
「いえ、あのディフェンス能力ならまるで問題はありませんが……」
「……っ」

まずい。

足だけでもあれだけの防御力だったのに、キーパーになったらどうなってしまうんだろう。

いや、それともキーパーになったら逆に弱くなるんだろうか。

「俺も戦闘機械と呼ばれた男。奴らのシュート如き全て止めてみせる」
「……」

思案するような表情の琥珀さん。

「いいんじゃないか? 期待できると思うよ?」

イチゴさんの言葉で意思が決定したようだった。

「わかりました。では軋間さんにゴールを守って貰います」
「任せて貰おう」
「……じゃあ、あたしはディフェンスだな」
「申し訳ありません。本当なら休んで頂きたいのですが」
「気にするない。手は使えなくたってディフェンスなら出来るさ」

痛めていないほうの手の親指を立てるイチゴさん。

「琥珀……悪かったわね」

珍しく秋葉が謝っていた。

「いえ、シキさんの暴走も問題ありましたから」

苦笑いする琥珀さん。

「ですが、軋間さんのディフェンス力は一級品です。もう一点もさしあげるつもりは無いですから」
「上等よ」

それぞれの選手がポジションにつき、試合再開。

「まずは点を取り返す事からね……」

白レンがドリブルで切れ込んできた。

「遊んであげる……!」

ワルクェイドが敵意むき出しで突っ込んでいく。

「そんな無様な攻撃じゃ」

白レンは分身ドリブルであっさりかわしていた。

「なんですってっ!」
「当然の結果ね」

一点リード出来たとはいえ、向こうの攻撃力はやはり侮れないものがある。

「出来れば二点リードしたいところだけど……」

問題はいかにしてボールを奪うかだ。

そしてあの軋間がどれくらいの実力を持っているか。

「白さん! こっちです!」
「……はいはい」

琥珀さんに呼ばれて白レンがパスを出した。

「迂闊だったな!」
「ええっ?」

そこにワラキアが割り込んできた。

「カットカットカット!」

見事にボールを奪い取った。

「ナイスだワラキア!」
「わたしを誰だと思ってるんだね?」
「かっこつけなくていいから、パスだ!」
「やれやれ、品がないな……」

低いパスを出すワラキア。

「おーしっ!」

ボールはネコアルクに渡った。

「久々に魅せてやるぜー!」
「お」

ネコアルクは華麗なドリブルで琥珀チームディフェンス勢を抜いていった。

「やるじゃねえかテメエ!」

シキが向かっていく。

「ふん。そんな悪役丸出しなキサマがアチキを止められると……」

ごきゃ。

「おおっと反則だー!」
「ぐおお……」

地面に倒れるネコアルク。

「シ、シキさん!」
「ふん」

シキがネコアルクを後ろから蹴り飛ばしたのだ。

「テメー、コノヤロウ、ヒロインに手ぇ出すとはいい度胸してるにゃー?」

マンガみたいに怒りのマークがネコアルクにくっついていた。

「やるか?」
「やらにゃい。おめーのおかげでフリーキックがゲット出来たからニャ!」

ネコアルクが吹っ飛ばされたのはペナルティエリアの直前だった。

フリーキックではあるが、シュートを狙える絶好の位置だ。

「ああもう! みなさん壁を作ってください!」

仕方ナシといった感じで琥珀さんが叫んだ。

「いらん」

ところがキーパーの軋間がそんな事を言った。

「壁はいらん。かえってボールが見辛くなる」
「……」

俺はそのセリフを聞いた琥珀さんの顔がにやけるのを見逃さなかった。

「ね、ネコアルク! 決めてくれ!」

これは切なる願いだった。

そんなまさか。

「勘違いするな。俺はミューラーではない」

そんな事を言う軋間。

「言われなくても決めてやるぜー!」

ネコアルクがドライブシュートを放つ。

「……だが言ったろう。戦闘機械だと」

キャプ翼界のキーパーでそんな異名を持つ男がいた。

その異名こそ、キーパーマシン。

「ヌン!」

軋間を黒い影が包み、その姿が一瞬消えた。

「欣求浄土!」

言葉は違うが間違いない。

ばしっ!

現れた軋間はあっさりボールを受け止めていた。

「ダーク……イリュージョン……」
 

それはブラジルが誇る史上最強のキーパー、ゲルティスの必殺技であった。
 

続く



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