言葉は違うが間違いない。
ばしっ!
現れた軋間はあっさりボールを受け止めていた。
「ダーク……イリュージョン……」
それはブラジルが誇る史上最強のキーパー、ゲルティスの必殺技であった。
キャプテン琥珀
〜スーパーストライカー〜
その29
「あ、アチキのシュートが……」
ネコアルクの髪の毛が驚きで逆立っていた。
「つまらん技だ」
「うにょー!」
じたばた悶えるネコアルク。
「ナイスです軋間さん! 反撃ですよー」
「待て。もう少し試してみたい」
「……え?」
そう言うと軋間は軽くボールを放り投げた。
ボールはころころと転がって都古ちゃんの足に当たった。
「撃って来い」
そしてくいと手招きをする。
「……っ!」
それはキャプ翼界の手強いキーパーが必ずといってもいいほど行う事であった。
「相当守りに自信があるんだ……」
「バ、バカにしてっ! 行くよお姉ちゃん!」
蒼香ちゃんへ向けてボールを蹴る。
「ほいきた」
「タイ!」
三人での必殺技、スカイラブツイン。
「ふん……」
ぶれながら飛ぶボールにも、軋間はまったく戸惑う事なく。
「これだ!」
ばしっ!
「ええっ!」
あっさり片手で受け止めていた。
「そ、そんな……」
「さあ次は誰だ?」
なおも軋間は挑発を止めない。
「上等じゃないの……!」
ワルクェイドが向かってきた。
「死になさい!」
そして必殺のダブルイール。
だが、その技はさっきディフェンスであった時の軋間に防がれてしまっているのだ。
「その技は先ほど防いだ。だが油断はしない」
軋間の体が漆黒に包まれる。
「出たっ! 軋間くんのダークイリュージョン!」
ばしっ!
「つ、通用しない……」
みんなの放つ必殺シュートがまるで通用していなかった。
「さて、そろそろいいだろう」
大きくボールを蹴り上げる軋間。
「し、しまった!」
みんな攻めに集中して守りが疎かになってしまっている。
「頂きですよー!」
琥珀さんら数名の選手は、既にオレたちのゴール前に待機していた。
「せいっ!」
中継地点のシオンを介し、あっという間にボールは琥珀さんのところへ行ってしまった。
「ディ、ディフェンス!」
「承知はしているがな……!」
「なっ」
なんとディフェンスはワラキアしか残っていなかった。
ネロのおっさんは先生に付きっ切りだし、有彦もオーバーラップしてしまっていたんだろう。
「やられたっ!」
軋間の挑発はカウンターへの伏線だったのだ。
「絶対に守りきるからっ……!」
残る最後の砦は弓塚だけであった。
「今度こそ決めてみせるわっ!」
アルクェイドがシュート体勢に入る。
どごっ!
「いっけぇー!」
アルクェイドのシュートは速度はあるがシュートの軌道自体は直線的で単調だ。
「ええいっ!」
弓塚は両手で叩きつけるようにしてボールを弾いた。
弾いたボールは空へ高く舞い上がる。
「マスターっ!」
「出番ですねっ!」
ななこさんとシエル先輩がそれを追う。
「スライダー!」
「キャノンっ!」
「その技はもう何度も見ましたよっ!」
ぶれるシュートを的確にパンチングする弓塚。
「次で三回だぞ!」
オレは叫んだ。
「わ、わかってるけど……」
向こうのシュートは三度連続で防ぐとまずい。
対して、こちらのシュートは何度防がれても意味がない。
「キーパーの力は同じくらいなのに……」
ギリギリのところで決定力に差が出てしまう。
それにまだ切り札の先生だっているのだ。
「ここをなんとか防ぐんだ!」
まだ俺たちは一点リードしている。
ここを防ぎ二点差に出来れば……いや、この点を守りきりさえすれば勝てるのだ。
「さあ、どんどんいきますよー!」
こぼれ玉を拾ったのは琥珀さんだった。
しかしシュートを撃つ事はなく、パスを出していく。
「琥珀の前に決めてみせるわ!」
白レンが高いボールに動きを合わせた。
「……待てよ?」
三度連続で防いではいけない。
本当にそうだったろうか。
確か発動条件にはもう一つあったはずだ。
「弓塚! ボールをキャッチしてくれっ!」
俺は叫んだ。
「キャ、キャッチって……」
「弓塚なら出来るはずだ!」
「!」
「バカにしないでくれるっ!」
ばしいっ!
白レンがオーバーヘッドキックを放った。
「止めるっ!」
地上でボールの進行地点へ走り、大きく腕を伸ばす弓塚。
ぱしっ!
「う、嘘でしょっ?」
ボールと弓塚の腕の間にはかなりの空間があったのにも関わらず、ボールは弓塚の手に収まっていた。
「とんでもないな……」
味方で本当によかった。
あの対空性能は恐ろしすぎる。
「取ったよ遠野くんっ!」
こちらへ向けて大きく手を振る弓塚。
「ありがとう弓塚!」
弓塚に礼を言って、みんなに向けて叫ぶ。
「ここで点差をつけるんだ! 攻めて攻めて攻めまくってくれ!」
「わかりました兄さんっ!」
「任務ヲ、遂行シマス」
「それっ!」
ボールが蹴りあげられる。
「……」
レンがボールを受け取った。
「頼むぞ!」
再びライン際に向かっていくレン。
「やらせないわよー!」
アルクェイドの鋭いタックルが襲う。
すかっ。
「あ、あれっ?」
あっさりとそれをかわすレン。
「……ライン際だとやたらと強いんだよな」
ライン際の攻めと言えば滝だけど。
「滝じゃ日向に勝てないだろうし……」
一体どうなってるんだろう。
「猫が調子に乗るんじゃない!」
シキが向かっていった。
「!」
即座にパスを出すレン。
「うふふふふ……」
ボールを受け取ったのはワルクェイドだった。
「貴方、五月蝿いのよ……!」
そしてシキへと向かっていく。
「なんだオマエ。この俺に向かってくるとはいい度胸じゃないか」
「あ、悪役対決……」
果たしてどちらに軍配が下るのか。
「行くわよ!」
ワルクェイドの強引なドリブル。
「ハッ!」
シキは臆する事なく向かって行った。
どごっ!
「よしっ!」
吹っ飛ばされたのはシキだ。
「油断するニャー! そいつは……!」
ネコアルクの叫び声が聞こえた。
「甘いんだよ!」
「なにィ!」
シキは空中で姿勢を立て直していた。
いや、違う。
ワルクェイドに吹っ飛ばされたのではなく、自ら宙へと飛んだのだろう。
「食らえっ!」
そして空中からの攻撃。
「まずいっ……!」
ボールが奪われてしまう。
ばきいっ!
「おおっと反則だー!」
審判の笛が鳴った。
「……っ!」
シキはボールではなく、ワルクェイドの肩を蹴ってしまったのだ。
「殺す! 肉片をスルメイカみたいに細切れにしてあげるわっ!」
「お、おいおい落ち着け落ち着けっ!」
「こっちのボールだよっ! 怒っちゃ駄目っ!」
蒼香ちゃんや都古ちゃんがなんとかワルクェイドを押さえていた。
「し、シキさん駄目じゃないですか! 人のほうを狙ってどうするんです!」
琥珀さんが非難の声をあげた。
「しょうがねえだろ。狙いがそれちまったんだから」
シキはちっとも悪びれた様子がなかった。
「何てヤツだ……」
まさに悪人街道まっしぐら。
「……けど」
シキの反則のおかげで大幅に時間が経ってくれるはずだ。
「まずいですこのままじゃ……」
琥珀さんは渋い顔をしていた。
「いける、いけるぞ!」
俺は拳を握り締めた。
このままいけば……琥珀さんに勝てる!
続く