琥珀さんは渋い顔をしていた。
「いける、いけるぞ!」
俺は拳を握り締めた。
このままいけば……琥珀さんに勝てる!
キャプテン琥珀
〜スーパーストライカー〜
その30
「そぉら!」
ワルクェイドのフリーキック。
そのままゴールへ向けてシュートを放つ。
「独角……!」
片腕でそれを掴む軋間。
「地獄へ落ちろ!」
そしてそのボールをそのままワルクェイドに投げ返した。
「な!」
軋間の握力で投げられたボールはとんでもない速度だ。
「ガハァッ!」
ワルクェイドは吹っ飛んでいった。
「いいぞ軋間! そうでなくっちゃなあっ!」
こぼれ玉をシキが拾う。
「ちょ、やりすぎですよ軋間さん!」
琥珀さんが叫ぶ。
「シキさんももうちょっと節度を守って……」
「なんだなんだ? 琥珀。ちょっと見ないうちにずいぶんいいコになったじゃねえか」
「……」
顔をしかめる琥珀さん。
「いいか。サッカーってのは格闘技なんだ。やるかやられるか。吉良監督が言ってただろう?」
「ですが……」
「いいからさっさと決めてこい琥珀っ。撃てるんだろう? ドライブタイガーをよ」
シキが琥珀さんへボールを蹴った。
「いえ……」
首を振る琥珀さん。
「駄目です。もうドライブタイガーは撃てません」
「なんだと?」
「……やっぱり」
俺の記憶は正しかった。
「ドライブタイガーは三度目のシュートを防がれてから五分以内にわたしがボールを取らないと撃てないんです」
シキの反則で時間の経過した今では、不可能なのである。
「……チッ」
舌打ちをするシキ。
「どうするんだおい? このままじゃ負けるぞ?」
「なんとかしますよ……」
琥珀さんは何かを決意したような顔をしていた。
「先生さん」
「ん? 出番?」
暇そうにしていた先生の表情がぱっと輝く。
「……」
琥珀さんと先生の間にネロのおっさんが無言で立ちはだかった。
「なんとかマークを外して来てください」
琥珀さんはそう言って自らドリブルを始めた。
「おっけー。任せておいて」
「逃さん。地獄の底までもな」
「うわ、こわーい」
右へ左へフェイントをかけつつ動く先生。
「……」
おっさんはそれらに動じる事なくついていっている。
「貰いっ」
「甘いわ!」
「うわあっ?」
もっと言えば、抜かれるかと思うとおっさんの足から鹿の足やら熊の足やらが伸びて邪魔をするのだ。
「ちょっとこれ反則じゃないの?」
「混沌は体の一部だ。何も問題はない」
事実、審判は何一つ注意をしてこなかった。
「いいのかなぁ……」
味方だから何も言わないけど。
あれが敵だったら非難轟々だぞ。
「お兄さん、味方がピンチなんだけど……」
「え」
しまった、先生たちの動きばっかり見てちゃいけないんだった。
「貰った!」
オーバーラップしたシオンがゴール前にいた。
しかも弓塚と一対一で対峙している。
「抜かせないよっ!」
「ここで決めるんです!」
ばしっ!
シオンが弓塚の間近でシュートを放った。
「止めるっ!」
パンチングでイーグルショットを弾く弓塚。
「あっ!」
「っ!」
どんっ!
そのままシオンと激突し、地面へ倒れこんでしまった。
「志貴チームのゴールはからっぽだー!」
「ま……まずいっ!」
シュートを撃たれたら得点されてしまう。
「貰ったわよ!」
しかもこぼれだまに向かっていったのは白レンだった。
「食らいなさい! ミラージュシュート!」
躊躇する事なく必殺シュートを放つ。
「させるか!」
ワラキアがシュートコースへと割り込んだ。
ずごっ!
「ぐおっ……」
「ワラキアくん吹っ飛んだー!」
シュートは防いだものの、ワラキアも遥か彼方へ吹っ飛んでいってしまった。
「チャンスです!」
「げ!」
さらにそこへ駆け込んできたのは琥珀さん。
「申し訳ありませんがこれも勝負です……!」
そして空中へボールを蹴り上げた。
「あれは……!」
回転するボールに向けて足を振り上げる。
「いっけー! サイクロン!」
「手加減なしかよっ……!」
キーパー不在だというのにサイクロンを撃ってくるとは。
「うおおおおっ!」
有彦がサイクロンへと向かって行く。
どごっ!
「駄目だ……」
選手一人をふっ飛ばしてもシュートの威力は弱まる気配がなかった。
「バリヤー」
そこへメカヒスイが突っ込んできた。
「なっ!」
メカヒスイとボールの間に電気の壁が出来ていた。
「ミ、ミラクルウォール?」
いや、それは4の技のはずだ。
だがそんなことはどうでもいい。
とにかくサイクロンを防げるかどうかだ。
奇跡が起きるか……!
「……!」
「んなっ!」
バリアーの効果時間が切れたのか、壁は跡形も無くなってしまった。
どごっ!
そしてメカヒスイの顔面にボールが直撃してしまう。
「……と、止めた……?」
メカヒスイの顔面でボールは止まっている。
ぽてん、てんてん……
力無く転がるボール。
「……クソッタレ」
ガシャン。
しかし同時にメカヒスイも倒れてしまった。
「メ、メカヒスイ!」
秋葉が駆けよっていく。
「そらっ!」
蒼香ちゃんがボールをライン外へ蹴り飛ばしていた。
「大丈夫かっ?」
俺もメカヒスイの傍へ向かう。
「ガ……ガ」
ふらふらと起き上がるメカヒスイ。
「立てるの?」
「がっつハ残り僅カ……デスガ、ヤレマス」
「……」
なんとか動けるが、試合に参加するのは無理そうな状態だった。
「どうする? 俺が代わるか?」
「イエ……」
メカヒスイは首を振った。
「マダ、わたしニハ、ヤルベキ事ガ、アリマス」
「やるべき事……?」
ふらふらと歩いていくメカヒスイ。
「再開、シマショウ」
「あ、ああ……」
メカヒスイのやるべき事。
一体なんなんだろう。
「行きますよ」
琥珀さんのスローインで試合再開。
「ん?」
何故かボールを蒼香ちゃんへ。
「試合中断させちゃったのはこちらの不手際ですから」
「そいつはどうも」
軽く一礼してドリブルを始める。
「ッシャアアッ!」
「うわっ?」
シキがいきなり蒼香ちゃんへタックルを仕掛けた。
「甘いんだよ琥珀! オレたちは負けてるんだぜ! そんな紳士的でどうするんだよ!」
「で、でも」
「昔のおまえだったらメカヒスイの首をへし折ってでもゴールを狙ったはずだ!」
「わ、わたし日向くんじゃありませんっ!」
「仲間割れか……?」
シキの登場で琥珀チームのプレイに乱れが出ているようだ。
「貰ったっ!」
「っあっ!」
そんな最中、シオンに蒼香ちゃんがボールを奪われてしまう。
「口論しているヒマはありません! 時間がありませんよ!」
二人に向けて怒鳴るシオン。
「……っ」
時計を見ると残り十分を切っていた。
続く