「……ふ、防ぎきったか……」
俺は額に流れる汗を拭い、大きく息を吐いた。
「琥珀チームのフリーキックです」
だがなおもピンチは終わらない。
「これが最後の攻防になるかもしれないな……」
残り時間は、あと五分。
キャプテン琥珀 〜スーパーストライカー〜 その32
「……行きますよ」
フリーキックを蹴るのはやはり琥珀さんだ。
「せいっ」
すぐ傍にいる翡翠へパスを出し。
「頼みます」
リターン。
「一気に決めさせてもらいます!」
そしていきなりサイクロンの体勢に入った。
「防ぐんだみんな!」 「任せとけっ!」
有彦がボールへ向かって飛んだ。
「ぐあああっ!」
だが当然のごとくサイクロンは防げない。
「……サイクロンの攻略法はひとつしかないんだ……」
ディフェンスがぶつかっていって、少しでもシュートの威力を弱め、弓塚が取り易くする。
「まったく損な役割だな……!」
ワラキアが同様に向かい、吹っ飛ばされていった。
「サイクロンはその程度では防げません!」
琥珀さんの言葉通り、サイクロンの威力はまるで弱まっているように見えなかった。
「……防御シマス」
メカヒスイが向かっていく。
「駄目っ!」
秋葉がそれを止めた。
「アキハ、サマ」 「貴方、今度シュートの直撃を受けたら……壊れるかもしれないわよっ!」 「……」 「私が行くわっ!」
メカヒスイを押しのけボールへ向かっていく秋葉。
どごっ!
「秋葉くん吹っ飛んだー!」
秋葉が吹っ飛ぶと同時に、明らかにシュートの勢いが鈍っていた。
「み、みんなありがとう! これなら!」
大きく開いた手をボールへ伸ばす弓塚。
ばしっ!
「弓塚くんゴールを守った!」 「や、やった!」
なんとかサイクロンを防ぐ事が出来た。
だが、ここからが真の修羅場の始まりなのである。
「ここで決めさせて貰います!」 「わたしたちだっているんだからね!」
シエル先輩やアルクェイド、さらには白レンなどの強力なシュートを持つ連中がゴール前に集結している。
「……っ」
そして弓塚は弾いた直後で、まだ姿勢が整っていなかった。
「行きますよアルクェイド!」
シエル先輩がこぼれ玉を拾い、アルクェイドへパスを出す。
「食らえ! アルクオーバーヘッドォッ!」 「そうはさせないんだからっ!」
アルクェイドの言葉に反応してジャンプする弓塚。
「なーんちゃって」 「!」
なんとアルクェイドはシュートを撃たずにそのままボールをスルーした。
「そんなのありかよ!」
どさっ!
完全に地面に倒れてしまう弓塚。
「貰ったわ!」
そこへ白レンが走りこんでくる。
「させるかっ!」
ネロのおっさんが立ちはだかった。
「それを待ってたのよ!」
さっと身を翻す白レン。
「なんだと!」
まさか向こうの狙いは……!
「はーい、真打登場ー。さくっといくわよー!」
先生がぶんぶん手を廻してボールを待っていた。
「吹き飛べ! マッハシュート!」
ずごっ!
物凄いインパクト音と共にボールが撃ち出された。
「フ。図らずとも真打対決となったわけか……面白い!」
ネコアルクがボールへと向かう。
「グッバイ勇気!」
ずごしゃああっ!
「にょーわー……!」
ネコアルクは星になった。
「……これで何度目だろうな」
あいつはすぐに復活するから問題ないけど。
「まったく洒落にならんな……!」
蒼香ちゃんがボールへ向かう。
「そらっ!」
オーバーヘッドキックの要領でボールに足を伸ばす。
ガッ!
「……っあっ!」
逆に一回転して地面に叩きつけられる蒼香ちゃん。
「お、お姉ちゃんまで……っ!」
ゴール前に次々と屍が増えていってしまっている。
「えい……やああーっ!」 「都古ちゃん!」
都古ちゃんの突撃も、無駄に終わってしまった。
「……このわたしを欺くとはな!」
ネロのおっさんの決死のダイブ。
混沌が大きく広がり、ボールを包み込んだ。
ずばっ!
「ぐぬっ……!」
だがその混沌をも突き破り、シュートはゴール目指して突き進む。
「……!」
レンがライン際からボールへ向かって飛んだ。
「レン!」
レンまでもがやられてしまうのか?
「……っ!」
ボールへ向かったレンの姿が消える。
そしてくるくると回転して着地する黒猫の姿が。
マッハシュートのプレッシャーに耐え切れなかったようだ。
「ぜ、全滅じゃないか……」
サイクロンとマッハシュートによって選手は全員倒れてしまった。
マッハシュートはそれでも勢いを残したままゴールへ向かっていく。
「……リトライ」
いや。
まだ最後の選手が残っていた。
度重なる必殺シュートを防ぎ、ズタボロになってしまったメカヒスイだ。
「駄目よメカヒスイ! 貴方は……!」
倒れたままの秋葉が叫ぶ。
「……感謝シマス、アキハサマ。デスガ心配ハ不要です」
機械のはずのメカヒスイが、ふと笑ったように見えた。
「しゅーとヲ防グノガ、わたしノ存在意義デスカラ」
背中に翼が生え、ボールへ向かって飛翔する。
「駄目っ……!」 「アキハサマ、マスター。さっかートハ楽シイすぽーつナノデス……」 「!」
躊躇する事なく、顔面からボールへ向かうメカヒスイ。
「……サタデーナイト・フォーエバー!」 「メカヒスイくんの顔面ブロック!」
その言葉で、俺は彼女が誰であったのかを理解してしまった。
そしてプレイヤーが強いる、彼の使用法も。
ごしゃああっ!
加速した物体同士の激突。
はじけ飛ぶボールとメカヒスイ。
「石崎……だったんだ……」
彼の能力は決して高くないが、どんなシュートでも必ず防ぐ、究極のディフェンス顔面ブロックを所有している。
そして顔面ブロックの使用ガッツは物凄く高いが、石崎には他に使いようがないと、シュートの強い選手へ対して顔面ディフェンスをやらせる事が多かった。
つまりそれは、メカヒスイの存在意義でもある。
ゲーム上ではガッツが減るとどうなるか、外見上はわからない。
「……」
地面に倒れたままぴくりとも動かないメカヒスイ。
これがガッツの無くなった選手の末路だった。
「駄目だって言ったのに……!」
駆け寄る秋葉。
その目にはうっすらと涙が滲んでいた。
「メカ翡翠ちゃん……」
そのプレイには、琥珀さんも何かを感じていたようだった。
ピピィー!
「っ?」
ホイッスルが響く。
「……フン」 「なっ……!」
こぼれ玉になったボールの行方を俺はまったく見ていなかった。
メカヒスイのほうしか見ていなかったからだ。
おそらくほとんどの選手がそうだっただろう。
「シキ……てめえ」
そんな中、シキはボールを蹴ったのだ。
無人のゴールへ。
「なんだよ。試合は中断してなかっただろう?」 「けど……っ!」
抗議へ向かおうと立ち上がる俺。
ところが、俺を阻止する人物がいた。
「羽居……ちゃん?」
続く
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