頼もしい仲間たち。
みんなの力を合わせれば、絶対に勝つ事が出来るはずだ。
「さあ、まもなくキックオフです」
延長戦が、始まる。
キャプテン琥珀
〜スーパーストライカー〜
その34
「まあ、この場合仕方ないでしょうね……」
メカヒスイと羽居ちゃんの交代は琥珀さんに承諾された。
本来なら一度交代した選手はもう出られないのが普通なのだが。
「ありがとう」
頭を下げる俺。
「いえいえ、大した事ではありません。それよりもですね」
「……ん」
琥珀さんは何やら複雑な表情をしていた。
「志貴さんの……いえ、うちのチームのシキさんの事なんですが」
「ああ」
向こうのミーティングで何か揉め事でもあったんだろうか。
「シキさんは……望んで反則をしているのではないのかもしれません」
「え?」
どういう事なんだ? それは。
「もしかしたら……」
「琥珀。それ以上言うな」
「……」
琥珀さんの後ろにシキが立っていた。
「覚えておけ志貴。翼やシュナイダーのような、スーパーストライカーだけが選手じゃないって事をな」
「スーパーストライカー……」
「オマエだったらオレの気持ちがわかるかもしれない」
「え?」
「……何でもない」
シキはばつが悪そうな顔をして去っていった。
「なんだ……?」
俺ならわかる事?
「……ひとつ言える事は、わたしは翼くんで幸せだったなという事です」
琥珀さんもぺこりと頭を下げて去っていった。
「……?」
一体どういう事なんだろう。
けれど、これがシキの正体を探る鍵になりそうだった。
「……」
選手たちが配置につく。
「それっ!」
白レンのキックオフで延長戦のスタート。
「さーて、一気に決めちゃうわよ!」
アルクェイドにボールが渡った。
相変わらずの強引なドリブルで中央からの突破を狙うようだ。
「つまらない攻めね……品が足りないわ!」
ワルクェイドが向かっていった。
「何よウナギ二枚の分際で!」
「黙れ単純バカトラ!」
「……あいつら本当に真祖なのか?」
真祖って確かものすごく高次元の存在なんだよな?
「このこの!」
「そらそらっ!」
げしげしと至近距離でボールを蹴りあう二人。
「……まったくガキだニャー」
浮いたボールをネコアルクが掻っ攫っていった。
「おまいら、アチキのように大人の魅力を身につけねば駄目だぞ? アハーン」
最後の言葉は色目でも使ってるつもりなんだろうか。
「あんたにだけは!」
「言われたくないわよ!」
「え、ちょ、待て、おい、片方味方だろおいっ?」
ズギャーン!
「にょーわー!」
ネコアルクはツインタックルを食らって星になった。
「……真面目にやってくれないかなぁ」
さっきまでの緊迫感はどこへ消えてしまったんだ。
「まあ……でもこのほうがいいのかも」
ワルクェイドもネコアルクも、表情が生き生きとしていた。
楽しんでプレイしろという俺の言葉を守ってくれているらしい。
「はーい、こっちこっちー」
こぼれ玉になったボールをトラップしたのは羽居ちゃんだった。
さて、羽居ちゃんの実力やいかに。
「えいっ」
「……あれ?」
傍にいたレンへパスを出した。
「頑張ってね、レンちゃん」
「……」
レンはこくりと頷いて、ライン際へと向かっていく。
「わからん……」
羽居ちゃんの行動だけは、読めそうになかった。
「抜かせはしません!」
シエル先輩が向かう。
「……!」
ずばっ!
華麗に抜き去るレン。
続けてななこさん、白レンをも抜き去っていく。
「どうなってるのよあれ……!」
白レンが叫んでいる。
「……」
ライン際でのレンの能力は、これでもかってくらいに高いようだ。
「オレが止めてやる!」
「げ」
レンの前にシキが現れた。
「くらえっ!」
勢いのあるタックル。
「……!」
ずばっ!
「かわしたっ?」
これすらもあっさりとかわしてしまう。
「……あ」
俺はようやくある一人の選手の事を思い出した。
「レン! ゴール前に切れ込まなくていい! そこからシュートを撃つんだ!」
俺は叫んだ。
もしその予想が正しければ、ライン際からとんでもないシュートが撃てるはずなのだ。
「!」
ペナルティエリアのほぼ真横で、シュート体勢に入るレン。
「レンくんのサイドワインダー!」
ずごっ!
ものすごいインパクト音が響いた。
「な……そんなバカなっ?」
戸惑った表情のシオンがボールへ向かう。
「うわあああっ!」
だがそれを容赦なく吹っ飛ばす。
「これは一体……?」
翡翠に至っては、ボールに届く事すらなかった。
「……この威力……!」
軋間が表情を強張らせている。
「カペロマンですか!」
そう。キャプ翼ゲーの優秀なオリジナルキャラクターであるカペロマン。
普段はごく普通か、ちょっと強いかな程度の能力である。
だがライン際に立った途端に、シュナイダーやカルロスをも超える能力を手に入れるのだ。
ライン際での必殺サイドワインダーは、若林すら吹き飛ばす。
「先取点、貰った!」
ゲルティスの軋間といえどもこれは防げないはずだ!
「閻浮……炎上!」
「んなっ!」
軋間の体を、ダークイリュージョンの暗黒とともに炎が包み込んでいた。
「あれは紅赤朱の……!」
秋葉が叫ぶ。
ガシイッ!
ボールと腕とがぶつかり合う。
「ぬ……ぐうっ!」
じりじりと後退していく軋間の体。
「させないよ!」
イチゴさんが軋間の後ろへ周り、背中を蹴り飛ばした。
その勢いで、軋間が加速する。
「うおおお……おおおおおおっ!」
ばしいっ!
「ふ、防がれた?」
ボールは高く舞い上がっていく。
「ぐぅっ……」
シュートは防いだものの、必殺技の同時使用は肉体に負担を与えたのか、軋間はゴール前でうずくまっていた。
ここで一気に攻めれば点を取れる可能性は高い。
「悪いが決めさせてもらうよ!」
蒼香ちゃんが飛んだ。
「お姉ちゃん!」
同時に都古ちゃんが宙を舞う。
「いっ」
「けええええー!」
二人によるツインシュート。
「……このアタシを忘れて貰っちゃ困るな!」
「い、イチゴさん!」
そうだ、軋間は動けなくてもフォローをしたイチゴさんは動けるのだ。
「腕が使えなくたって、ゴールは守ってやるさ!」
ボールへ向かって駆けていき、シュートを撃つかのように足を振った。
ばしいっ!
「ああっ!」
ただのツインシュートでは、威力はそこまで高くない。
ボールは真逆の方向へ飛んでいってしまった。
「駄目か……!」
「まだまだです!」
「秋葉!」
飛んでいったボールに真っ先に追いついたのは秋葉だった。
「見ていて下さい……メカヒスイの敵、必ず打ってみせます!」
鋭い目で琥珀チームゴールを睨み付ける。
秋葉の髪の毛が、みるみるうちに赤く染まっていった。
続く