大きくボールを蹴り上げる軋間。
それとほぼ同時にBGMが鳴り始めた。
「あと五分……」
延長戦前半終了まで残り僅か。
このまま同点で後半に続くのか、それとも。
キャプテン琥珀 〜スーパーストライカー〜 その37
「カウンターならお任せくださいっ!」 「げっ!」
ボールを受け取ったのはななこさんだった。
「行きますよセブン!」
この二人が揃えばやる事は決まっている。
「出た〜! ななこくんたちのエッフェル攻撃!」
蒼香ちゃんたちと同じようにワンツーで一気に進んでいく二人。
「まずい……」
有彦がオーバーラップしているせいで、ディフェンス層は薄くなっていた。
「大丈夫! 問題ないよっ!」
弓塚が叫んだ。
「シエル先輩のシュートなら防げるからっ!」 「……言ってくれますね!」
なんだか展開にデジャヴを感じてしまう。
まさかシエル先輩はスターバーストを撃ったりしないよな?
「ならばこれでどうですかっ?」
誰もいないところにパスを出す先輩。
「なんだ……?」 「ふっふっふっふっふふ……」 「!」
なんとシキがオーバーラップして来ていた。
「あいつの能力はまだわからない……」
ディフェンス時の反則も多いし、油断は禁物である。
「はーい、行きますよ〜」 「って羽居ちゃんっ?」
なんの躊躇もなくシキへと向かっていく羽居ちゃん。
「なんだテメエ! 吹っ飛ばしてやるぜ!」
威嚇するように叫んで突っ込んでいくシキ。
「は、羽居! 逃げなさい!」
秋葉が怒鳴る。
「……」
羽居ちゃんは小さく口を動かしていた。
「っ!」
すると突然シキの動きが鈍る。
ずばっ!
「え……」
そしてそのままボールを奪ってしまっていた。
「ちょっと、どうなってるのよあれ?」
アルクェイドが驚いた顔をしている。
「……そうか」
キャプ翼ゲーの世界では、オフェンスはどんな事をやってもまず反則になる事はない。
つまりシキの得意とする反則プレイが出来ないのだ。
それを指摘して、動揺したところを奪ったのかもしれない。
「えーいっ」
ボールを蹴り上げる羽居ちゃん。
「……出場させてよかったな」
非常に地味ではあるが、いい活躍をしてくれていた。
縁の下の力持ちとでも言おうか。
「そうはいきません」
ばしっ!
「あ、あれっ?」
羽居ちゃんのパスは翡翠によって弾かれてしまった。
「次こそは決めてやるぜ!」
再びシキがそれを拾い、ドリブルで進んでいく。
「君は美しくないな。私が華麗に倒してあげよう」
ワラキアがナルシストじみたセリフを吐きながら向かっていった。
「ほざけブチキレ野郎! 他人の恐怖がなきゃ何も出来ないくせによ!」 「リ……ウリイイイイィィ!」
シキの挑発でぶち切れたのか、ワラキアが我を忘れたように突撃していく。
「ワラキア! 駄目だ!」
どごっ!
「シキくん吹っ飛んだー!」
それと同時にホイッスルが鳴った。
「……へっへっへ」 「くそっ」
シキの狙いは、ワラキアに反則をさせる事だったのだ。
これは前半でワラキアがやっていた戦法でもある。
「なのに引っかかるとは……」
意外と単純なのかもしれない。
「琥珀チームのフリーキックです」
幸いゴールから若干離れていたので、PKにはならなかった。
「ここからでも決めてやるさ!」
大きく足を振り上げるシキ。
「必殺シュートか……っ?」
壁がシュートを警戒し、身構えた。
「うりゃー!」
放たれるシュート。
「止めてやるっ!」
有彦が飛んだ。
「……え?」
こぼれだまになったー!
「お、おい?」
あっさりと弾かれてしまうシュート。
止めた有彦のほうが驚いているくらいだった。
「こ、これは……?」 「まだまだぁ!」
叫びながらボールへ向かっていくシキ。
「おっと! そうはいくかー!」
ネコアルクが競り合いに行く。
ぱしっ。
「……にょ?」
シキよりも遥かに高くネコアルクが飛び、ボールを手に入れる事が出来た。
「おかしい、アチキはいつも通り飛んだのに敵が低く見えるとは……」
そんな事を呟いているネコアルク。
「よそ見してる場合かっ!」 「おわっと?」
それでも諦めずに、タックルを仕掛けるシキ。
ネコアルクはいともたやすくそれをかわした。
「お、おまえは……」
反則をしないシキは、ひたすら翻弄されるばかりだった。
「ふ……ふ、ははは、はははははは!」
すると突然シキが笑い出す。
「にゃ、にゃんだ?」 「……これでわかっただろう? そういう事なんだよ、志貴」
俺の方に目線を向け、そんな事を叫んでいる。
「おまえならわかるだろう! 森崎だったおまえなら!」 「……っ」
それを聞いた瞬間、ある考えが浮かんだ。
ゴールキーパーをやっていた時の俺は、森崎同様まったく活躍が出来なかった。
むしろみんなの足を引っ張るだけ。
自分の無能が悔しかった。
もし。もしも。
「シュートは通じない。まともなタックルやパスカットではボールは取れない……どんなに足掻いてもだ。わかるか? 志貴よぉ」 「……おまえは……まさか……」
森崎ではないにしても、自分が恐ろしく能力の低い選手に当たってしまったら。
この豪華な面子の中で、どう戦っていけというのか。
「……バチスタかもしれねぇな」
自虐的にシキが言った。
「いや、リマかもしれない。もしかしたらマリーニかタハマタかも……まあ、結果は同じだがよ」
彼らは、サンパウロの中で……いや、キャプテン翼2内で、史上最弱のステータスを誇るメンバーだった。
「反則しかなかったんだ。俺がボールを取るには……出番を得るには……」 「シキ……」
最弱のステータスの選手が他の選手からボールを取る手段は、それしか存在しなかった。
俺はゲーム中シュナイダーやディアスに渡った時、味方の反則をどれだけ望んだだろう。
「オレが……ゲーム中のザコメンバーが反則をするのはプレイヤーの望みでもあった。メカヒスイと同じでな……」
石崎は顔面ブロックのために。
サンパウロのディフェンダーは反則のために。
「それがオレの存在価値なんだよ!」 「あっ!」
シキが一瞬の隙をついてネコアルクからボールを奪った。
「しまった……!」
時間は止まってなかったのに!
「そしてこれがオレの出来る最後のプレイだ!」
弓塚へ突っ込んで行くシキ。
「え、わ、ちょ、やだっ……!」
ほとんど反射的に手を振り回す弓塚。
ばきいっ!
「ぐわぁぁぁぁぁ!!」
シキはものすごい回転をしながら吹っ飛んで行った。
ピィィィィ!
同時にホイッスルが鳴る。
「琥珀チームのペナルティキックです」 「あっ……!」
そう、今のようなプレイでは、弓塚のほうが反則を取られてしまうのだ。
「後は……頼んだ」
地面に倒れたまま呟くシキ。
ザコのステータスになってしまったシキが、ここまで戦えたのは執念のおかげだったのかもしれない。
「あいつもかわいそうなヤツだったのかもな……」
一瞬シキに同情してしまう。
だが。
「最後のチャンスを……ありがとうございます」 「……」
最後の最後にして、PK。
このPKが終わると同時に延長戦前半も終わる。
「シキさんの想いは無駄にはしません!」
琥珀さんがPKを蹴る選手となった。
そして。
「決まった! ゴール! 琥珀くんのペナルティキックが志貴チームのゴールに突き刺さったぁ〜!」
三分の一の確立に見事勝利した琥珀さんが、チームに貴重な勝ち越し点をもたらすのであった。
つまり延長戦の後半は、なんとしてでも俺たちが点を入れなくてはいけないのである。
志貴チーム 6 琥珀チーム 7
続く
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