気付くと秋葉が俺の傍に立っていた。
「秋葉……?」
「兄さん。サッカーは強い者が勝つんじゃありません」
「……!」
秋葉の髪が一気に赤く染まる。
「サッカーは……勝った者が強いんです!」
キャプテン琥珀
〜スーパーストライカー〜
その39
「秋葉……」
「こんなしびれなんて!」
屈みこんで自らの足に噛みつく秋葉。
「さあ、来なさい! 私にボールを!」
「し、しびれを痛みで消し去ったのか!」
「……!」
乱戦の中ボールを拾ったレンが、秋葉に向かってボールを蹴った。
「はあっ!」
怒り頂点の秋葉が突撃である。
「来い!」
身構える軋間。
秋葉はゴール目掛けてまっしぐらに走っていく。
「わたしが止めます!」
秋葉の前に翡翠が立ちはだかった。
「邪魔です!」
「きゃああっ!」
「ひ、翡翠ちゃん!」
翡翠は秋葉のドリブルで弾き飛ばされてしまった。
「食らいなさい軋間!」
そしてそのまま鋭い振り足から秋葉がファイヤーショットを放つ。
「止める! 絶対に抜かせはしない!」
ボールへ向かってダイブする軋間。
漆黒の幻影が軋間を包み込んだ。
「断獄……必定!!」
バチイイッ!
「な、なんだとっ?」
軋間によって秋葉のファイヤーショットは完全にキャッチされてしまっていた。
「秋葉が通用しないのか……っ!」
同点へのゴールが遠い。
「くっそーっ! なんとしてでも一点取ってやるー!」
ネコアルクがこぼれ玉に向かう。
「まず同点に追いつかねばな……!」
ワラキアも向かっていった。
うちのチームの猛攻が続く。
「また来るわよっ!」
「絶対に引いてはなりません!」
琥珀さんチームの必死のディフェンスにより、シュートを撃つまでの位置にすらたどり着く事が出来なかった。
「飛べっ!」
ペナルティエリアに届くかというチャンスボールをシオンにクリアされてしまった。
「生意気なっ……!」
「うわあっ?」
ななこさんからワルクェイドがボールを奪い突っ込んでいく。
「今度は止めてみせます……!」
「上等よ!」
ばしいっ!
「確保です!」
「なんですってぇ!」
しかし翡翠がボールカット。
「姉さん!」
「ナイス翡翠ちゃん!」
ここでついに琥珀さんへボールが渡ってしまった。
「よーし、こっちパスパス! 駄目押しの一点よ!」
ペナルティエリア付近のアルクェイドが琥珀さんに向けて手を振った。
「頼みますよアルクェイドさんっ!」
これ以上追加点を入れられたらもう完全に勝ち目はなくなってしまう。
「誰か……!」
ずざあっ!
「んなっ……?」
そのパスを何者かがカットしていた。
ワラキアか……いや、違う。ワラキアは今前面に出ているはずなのだ。
「は……羽居!」
「羽居ちゃんだってっ?」
そう、琥珀さんのパスをカットしたのは羽居ちゃんだった。
「……」
その表情は今までと全く異なり、笑顔などない真剣な表情に変わっていた。
「は、羽居が……!」
「羽居が笑顔を捨てた……」
秋葉と蒼香ちゃんが信じられないといった顔をしている。
「よーしっ! 行くよっ!」
そのままドリブルを始める羽居ちゃん。
「向こうにヒロイン魂があるならこっちには脇役魂があるよっ! 残り10分! 今こそ脇役魂発揮の時っ!」
「よ……よし! 羽居ちゃんの言う通りだ! みんな続けっ!」
有彦が叫ぶ。
「やってやるぜっ!」
チームが一丸となって琥珀チームへ突撃していく。
「あの羽居が本当に本気になったっ?」
目を見開いている秋葉。
「ドイツの仕事師……へルマン・カルツ……」
彼は普段は手を抜いてプレイしているように見えるが、要所要所で活躍をする選手。
もちろんその本気の実力はかなりのものだ。
「く、くそっ! オレが止めてやる!」
シキが思いっきり羽居ちゃんに突撃していった。
「どいてっ! 今のわたしに近づかないでっ!」
今までの動きからは想像も出来ないような強引なドリブルを仕掛ける羽居ちゃん。
「ハリネズミドリブルだよっ!」
バキイッ!
「うわあっ!」
シキは遥か彼方へ吹っ飛んでいった。
「……」
だが、いくら羽居ちゃんの本気のドリブルでもただ突き進むだけでは守りを突破出来ないだろう。
「琥珀チームの守りを破るには……横の揺さぶりだ!」
俺は叫んだ。
「ネコアルクちゃん!」
素早くパスを出す羽居ちゃん。
「……!」
残り十分。時間はない。
「今こそアチキたちの意地を見せる時だー!」
それをダイレクトで左サイドへ蹴り飛ばすネコアルク。
「よくやった! 私も全力で応えよう!」
ネロのおっさんがそれを中央へ折り返す。
「その女を潰せ! 今の奴らのキープレイヤーは奴だ!」
「わかっています!」
シオンらが羽居ちゃんへ向かっていく。
「もう遅いよ……仕上げはお願いっ!」
ネロのおっさんからのパスを羽居ちゃんがスルーした。
「なにぃ!」
「待っていましたよ!」
そしてそこに走りこむのは秋葉だ。
完全に邪魔するものはいない。ペナルティエリア内からノーマークでシュートが撃てるのだ。
「食らいなさい!」
足を振り上げる秋葉。
「この展開は読んでましたよっ!」
なんと琥珀さんだけは秋葉に反応し、ブロックしようと飛び込んでいた。
「ええ、あなたは原作を読んでいるものね……でも! それが敗因なのよ!」
「えっ……!」
秋葉は足を振り上げたままボールを蹴らない。
「そんなっ!」
秋葉までもがボールをスルーしたのだ。
「バカなっ……!」
軋間が動揺した素振りを見せる。
ボールは空に向かって飛んでいった。
そしてそれに向かって飛んでいく黒い影。
「見るがいい、これがタタリの悪夢だ!」
ワラキアだった。
体を弓なりにしならせ、その頭を勢いよくボールに激突させる。
「あれは……!」
キャプテン翼2のヘディング系の必殺技。
ひとつはマーガスのブラストヘッド。
もうひとつはサトルステギのダイナマイトヘッド。
ランピオンのロケットヘッド。
どれもかなりの威力を持つ必殺技だ。
そしてもうひとつ。
「……」
一度、裏技でレベルをすごい高さにしてプレイをしたことがある。
高いレベルの若林は、カルロスのミラージュシュートもコインブラのマッハシュートも平気でキャッチしていた。
その若林ですら止められなかったヘディングシュートがあるのだ。
滅多に見れないブラジルチームディフェンス、ディウセウの技。
「決まったゴール! ワラキアくんのキャノンヘッドが琥珀チームゴールを突き破ったぁ〜!」
「フフフフフフ、ハハハハハハ、フハハハハハハハハハ!」
キャノンヘッドは軋間を吹っ飛ばし、ゴールネットをも貫通していた。
志貴チーム 7
琥珀チーム 7
続く