下のほうから声が聞こえた。
なんだと思い見てみると。
「……おまえ何?」
謎の生物がそこに立っていた。
キャプテン琥珀
〜スーパーストライカー〜
その4
「なーう? その発言はアチキに対する挑戦として取ってよいのかー?」
しゅっしゅっしゅとシャドーボクシングを始めるそいつ。
「いや、ただの質問なんだけど」
「少年よ。人にモノを尋ねる時には尋ね方というもんがあるんじゃにゃいか?」
まさかこんな生物に常識を語られるとは。
「……えーと、君は誰なのかな」
今度は丁寧に尋ねてみる。
「にゅふふふ。遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ!」
ぐっと手を天に掲げるそいつ。
「アチキこそはグレートキャッツガーデンの主ネコアルク!」
「ネコアルク?」
「ザッツラーイ」
「……」
確かに、アルクェイドをデフォルメしたらこんなヤツになりそうな気がする。
「惚れるニャよ?」
「いや、それは大丈夫」
色気を感じるとかそういうのはあり得ないから。
ぬいぐるみみたいで可愛い感じはするけど。
「このアチキが味方になったからには完全なる勝利をお約束しようっ」
「まあ……うん、期待してる」
果たしてこんな短い手足で戦力になるのかなあ。
「って! こんなことしてる場合じゃないっ」
慌てて琥珀さんのほうを見ると。
「……いない」
既に琥珀さんチームのメンバーの姿はなかった。
「なんてこった」
変なのに構ってたせいで向こうチームの構成がさっぱりわからなくなってしまったじゃないか。
「琥珀たちは既に控え室へ移動したようです。私たちも移動しましょう」
秋葉がそんな事を言った。
「ちなみに秋葉、どんな奴らがいたか見てない?」
「……見はしましたが。あまり私と面識がないような方たちだったのでなんとも」
「そうか……」
相手の力がわからないってのはなんとも不安だ。
ポーランド戦の悪夢が甦る。
「このアチキがいるんだから大船に乗ったつもりでいたまえー!」
「……」
泥舟の間違いじゃないか?
「おーい」
俺たちの控え室にいくと、メンバー同士でいくつかのグループが出来ていた。
だいたい現実世界で面識のある人たちで分かれている。
「あ、遠野くん」
「来たか」
まずは俺の同級生、有彦と弓塚。
「今日は頑張ろうねっ。わたし、精一杯頑張るからっ」
「張り切りすぎてこけんなよ?」
「もう、乾くんってばー」
弓塚は妙に張り切っていた。
「うん、期待してる」
元々二人とも運動神経は悪いほうじゃなかったからな。
この世界でもいい活躍をしてくれるだろう。
「秋葉ちゃ〜ん。一緒のチームでよかった〜」
ばふっ。
「うお?」
女の子が俺の隣に立っていた秋葉に抱きついていた。
「ちょ……羽居。止めなさいっ」
じたばたしている秋葉。
「なんつー戦力差だ……」
その羽居ちゃんという子と秋葉では、ある部分に多大な差があった。
「胸かい?」
「おっと」
いつの間にやらもう一人女の子が傍にいた。
「君たちは?」
あんまり見た覚えがない人たちである。
「浅上の生徒さ。遠野のやつとは寮で同室でね」
なるほど、そういう繋がりか。
「あたしは月姫蒼香。あっちは三澤羽居」
「ふーん……」
なんとなくこの子は頼りになりそうな感じがするな。
「……まったく……ほら羽居。兄さんに挨拶なさい」
秋葉はいつの間にか羽居ちゃんを引き剥がしていた。
「あ。えっとー。はじめまして。羽居でーす。宜しくお願いしまーす」
「うん」
こっちは可愛い子だけど、戦力になりそうかというと何ともいえない。
「……補正に期待するしかないか」
味方の能力も実際見てみないとわからないだなんて、不安要素ばっかりじゃないか。
「えーと次は」
「へえ、そうなんだー。あたしはチョコレートケーキのほうが好きだな」
「……」
レンと都古ちゃんが盛り上がっているようだった。
「都古ちゃん」
話の邪魔をするのは悪い気がしたけど話かけてみる。
「あ。お兄ちゃん」
都古ちゃんは俺の姿を見るとにこっと笑った。
「……あれ?」
なんか現実世界と反応が全然違うんですけど。
「……」
レンは都古ちゃんは元々こうだったと言っている。
俺の知ってる都古ちゃんは割と無口で突撃とか仕掛けてくる子のはずなんだが。
まあ夢なんだし、いいか。
「今日は頑張ろうね」
「お兄ちゃんのために頑張るっ!」
びしっと腕を上げる都古ちゃん。
「ありがとう」
この二人は戦力として大いに期待できそうだ。
「……さて」
残りはというと。
「まさか人間と戯れる羽目になるとはな……」
「まったくだ。実に美しくない」
人外の二人が意気投合していた。
「はいはい。文句はいいからちゃんと戦ってくれよ」
「当然だ。この混沌に敗北などない」
「私の華麗なる舞台をお見せしよう。美しき悪夢の夜を」
いや、どっちもリタイア済みなんだけどね。
「兄さん。そろそろみんなを集めてミーティングをしませんと」
「……そうだな」
バラバラで話しあっててもしょうがないし。
「えー。みんな集合」
俺は大きな声でみんなを呼んだ。
全員が俺の前に集まる。
11人というのは結構な大人数だ。
俺、ちゃんと全員把握出来るかな。
「取りあえず、お互い面識のない人も多いだろうけど、今日は楽しくやろう」
やはりやるからには楽しくなくちゃ。
「少年。ビームは撃ってもいいのか?」
猫アルクが尋ねてくる。
「却下。トンデモサッカーだけど、あくまでサッカー。ルールを守ってプレイする事」
「ぶーぶー」
じたばたしていたけど、無視する事にする。
こいつはどっかどうでもいいポジションに置いておこう。
「敵さんはどのような編成なのかな〜?」
これは羽居ちゃん。
「残念だけどよくわからない。けど、琥珀さんに翡翠、アルクェイドや先輩、シオンがいる」
はっきり言ってこのメンバーだけでも強敵だが。
「総合的にレベルの高いチームになってると思う。キーパーも手強いはずだ」
ゲルティスのように、何かとんでもない隠し玉選手がいるに違いない。
「けど、みんなの力を合わせれば必ずゴールを奪えるはずだ。全力で戦おう!」
「おー!」
みんなが元気よく応えてくれた。
「……フン」
「芸がないな……」
「いや、だからもうちょっと仲良くしようってば」
もしかして、こいつら入れたの失敗だったか?
しかし今更言っても後の祭りだ。
「とにかく……行くぞ! みんな!」
いよいよ決戦の始まりである。
続く