ネットではなく、まるで違う方向へ進んでいくボール。
ゴンッ!
「こぼれだまになったー!」
そう、俺は弓塚にこれを狙わせたのだ。
「キャプ翼ゲー、ゴールを守る最後の砦!」
それは森崎やレナートの最高の親友、ゴールポストであった。
キャプテン琥珀 〜スーパーストライカー〜 その41
「そんなのないアルよ!」
琥珀さんが叫ぶ。
「……いや、どっちだかよくわからないんだけど」
要するにずるいと言いたいわけだ。
「ゴールポストはゲーム中だって出てくるじゃないか!」
しかも絶対に決まると思った時に限って出てくるのだ。
「そらっ!」
蒼香ちゃんがボールをクリアする。
残り時間は五分を切った。泣いても笑ってもこれが最後だ。
「さあ……行くわよっ!」
ワルクェイドが突っ込んでいった。
「そ、そんなワンパターンな攻めで……!」
ななこさんが向かう。
「邪魔よ!」
どごっ!
「うわーん! こんな役ばっかりー!」
この強引なドリブルによる突進は、物凄くシンプルだけど破られにくい戦法のひとつである。
「全く何をやってるのよ……!」
今度はアルクェイドが向かう。
「殺してあげる!」 「肉片も……残さないから!」
セリフだけ聞いてるとものすごく物騒なのは気のせいだろうか。
「吹っ飛べ! アルクタックル!」
砂煙を上げてのタックルがワルクェイドを襲う。
「……そぉら!」 「ええっ?」
ギリギリまでアルクェイドを引き付けてワルクェイドがパスを出した。
ぶつかり合う二人。
「ちょ、あなた……!」 「わたしが敗れようがチームが勝てばいいのよ……!」 「ワ、ワルクェイド……」
ここに来てワルクェイドがチームを思いやるような言葉を叫んでくれた。
「勘違いしないで! コイツに負けるのが嫌なだけよ!」 「それでも十分だ!」 「貴方も見せ場を得るのは誰だかわかってきたようね……」
ボールを受け取ったのは秋葉だった。
「行きます! 決勝点を決めるのは私ですっ!」
赤く染まった髪をなびかせドリブルで突っ込んでいく。
「おおっと! 行かせないわよー!」 「……っ!」
先生がその行く手を塞ぐ。
「赤髪長髪はキャラが被ってるから潰しておかないとねー!」 「それはこっちのセリフです! 兄さんに近づく女がこれ以上増えてたまるもんですか!」
なんか二人ともサッカーとまるで関係ない理由でいがみ合ってる気がする。
「燃えちゃえっ!」
ゴッ!
「うわ、ちょ、ちょっとっ?」
秋葉が地面に向けて檻髪を放った。
「しんぱーん! 反則反則ー!」
即座に叫ぶ先生。
「……何を言っているんですか。私の檻髪は貴方に直接ダメージは与えていないではないですか」 「む……そりゃまあそうだけど」
当てたら反則どころか退場を食らいそうな気がする。
「範囲内に居れば略奪は出来ますけどね!」 「うっわー、ずるい! 卑怯!」 「なんとでも言いなさい! 勝ったものが強いんです!」 「……秋葉……」
赤朱の状態で居続けた反動なのか、秋葉のテンションがおかしくなっていた。
「秋葉! ここはパスだ!」 「いいえ! この女を倒すまでは退きません!」 「趣旨変わってるし!」 「……こうなったら……!」
秋葉から離れる先生。
「ようやく諦めましたか!」
その隙を狙ってドリブルで駆け抜ける。
「スヴィア!」
バシュッ!
「……え?」
秋葉の真横を、何やらシューティングゲームで見るような極太ビームが通過していった。
ちゅどーん!
ビームは壁にぶつかり、大きな穴を開けていた。
「ちょ……反則でしょう!」 「何言ってるのかなー? 知らないわよー? 当ててないもーん」 「……!」
おそらくはさっきの秋葉に対する復讐だろう。
先生も変なところで大人げないんだなぁ。
「続けて……ブレイクー!」
再び極太ビームが秋葉を襲う。
「くっ……!」
ボールを足に挟んでジャンプする秋葉。
「貰いっ!」
その秋葉を狙ってジャンプする先生。
「スライダー!」
足からナナメにビームが放たれた。
「あ、秋葉!」
煙がフィールドを覆う。
「あっはー! いっただきー!」
煙の中から物凄いスピードのドリブルで出てくる先生。
「げほっ、ごほっ……」
秋葉の咳払いが聞こえた。
「ホントに当てたら反則取られちゃうからねー。ちゃんと無事よー?」
俺の方に向けてそんな事を叫ぶ先生。
「……お願いですから平和なサッカーをやって下さい」
一度そういうトンデモ方向に走ると、もう歯止めが効かなくなってしまう気がする。
「よかろう! ビームならこのアチキが本家だー!」
予想通りネコアルクが物騒な事を叫んで向かっていく。
「おぷばっ!」
目から放たれたビームが先生を襲う。
「あまーい!」
倍速ドリブルである先生にそんな攻撃をかわすのは容易な事であった。
「カット……カットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットォ!」 「うわっ?」
今度はワラキアの竜巻が向かっていった。
「こういうゲームじゃなかった気がするんだけどなー!」
いや、全ては貴方と秋葉のせいなんですが。
「これで……どよっ!」
竜巻にビームを放って相殺する先生。
「てりゃー!」
今度は都古ちゃんと蒼香ちゃんのスカイラブタックルだ。
今となってはこの技のほうが普通に見えてしまうから恐ろしい。
「うわ! あっぶな……!」
あんまりにも普通だったのでかえって意表を突かれたのか、先生はボールを取られそうになっていた。
「そこっ!」
バランスを崩したところへ羽居ちゃんのタックル。
「げ!」
ボールはこぼれ玉になった。
「……トンデモ戦法より普通のプレイのほうが強いのかよ……」
俺はキャプ翼4のオランダを思い出した。
ニスケンスとフーリアは必殺技を持っていないのに鬼のような強さを誇るのだ。
さらにリーダーのファンベルグは必殺技はオーベーヘッドだけだが、ただのシュートですら光り輝き若林をも吹っ飛ばすというという恐ろしい性能を持っている。
「まったく、何やってるのよミスブルー!」
こぼれ玉を拾ったのはアルクェイドだった。
「ここで一気に決めるわよ!」
アルクェイドが強引なドリブルで突っ込んできた。
さっきのワルクェイドと丸っきり同じパターンだ。
シンプルがゆえに防ぎ辛い戦法である。
「ぐぬっ……!」
止めに行ったネロのおっさんが吹っ飛ばされてしまう。
「駄目だ……」
攻めのチャンスが巡って来ない。
試合終了の時間は容赦なく迫ってくる。
「食らえ志貴チーム! これがわたしのネオアルクショット!」
ペナルティエリア内で足を振り上げるアルクェイド。
「させるか!」
有彦がタックルを仕掛けた。
「あっ!」
軸足にタックルが当たり、倒れてしまうアルクェイド。
その瞬間、笛が鳴った。
「バカなっ……!」
その笛は、反則を告げる笛。
つまりペナルティキックを告げるものであった。
続く
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