有彦がタックルを仕掛けた。
「あっ!」
軸足にタックルが当たり、倒れてしまうアルクェイド。
その瞬間、笛が鳴った。
「バカなっ……!」
その笛は、反則を告げる笛。
つまりペナルティキックを告げるものであった。
キャプテン琥珀
〜スーパーストライカー〜
その42
「ちょっとタイム!」
ゴールに向かって走る俺。
「す、すまねえ遠野」
「今更何を言ったってしょうがない。それがルールだ」
この理不尽な反則も、ある意味ではキャプ翼ゲーの醍醐味なのだから。
「問題はこのPKをどうやって凌ぐかだよ」
残り時間は本当に後僅かしかない。
ここで点を入れられてしまったらもう敗北は確定だろう。
「でも、PKで入っちゃう確立は高いよね……」
不安げな顔をしている弓塚。
シュートが飛んでくるのは右、左、中央。
理論上では1/3ではあるが、実際のゴール率はもっと高い。
今回のゲームでも敵味方問わずPKはほとんど全て得点が入っていた。
「琥珀さんは確実にゴールを決めるつもりのはず」
「どうすればいいの? 作戦じゃ勝てそうにないよ?」
「いや……」
よく考えるんだ。
何も杓子定規にゲーム通りの動きをする必要はないはず。
「琥珀さんのプレイヤー性能の高さに賭ける……!」
俺はその作戦を弓塚に説明した。
「……もし引っかからなかったら?」
「その時はそれまでだな」
それはある意味諸刃の剣の作戦であった。
「でも、何かしなきゃ絶対に負ける」
「そうだね……わかった」
弓塚はぱんと手を合わせ、気合を入れていた。
「見ててね遠野くん! 絶対止めてみせるから!」
「おう!」
俺はゴール傍で事の成り行きを見守る事にした。
「作戦会議はそれで十分ですか?」
「ああ」
「ではお願いします」
「はいはーい」
「っ?」
このペナルティキックを蹴るのは琥珀さんではなく先生だった。
「スーパーストライカーの力の見せどころってやつね」
「……」
やはり確実に点を取る気だ。
「頼むぞ弓塚……」
「行くわよー!」
先生がボールへ向かって走りだす。
「……!」
身構える弓塚。
「えいっ!」
そして左へと大きく跳んだ。
「……!」
その動きは先生がボールを蹴るよりも一瞬早かった。
「貰ったわよ! がらあきの逆サイド!」
そう、ストライカーであればより確実にシュートを決められる逆方向を狙うはずなのだ。
「いけません!」
琥珀さんの叫び声が聞こえた。
だが既に遅い。
先生の足は振り切られて、ボールはゴール右スミを狙って飛んでいっていた。
「貰った!」
ばしいいっ!
左サイドのゴールポストを三角飛びの要領で蹴り飛ばす弓塚。
「あの防御方法は……!」
ドイツ戦終盤、シュナイダーと一対一の状態で若林が使ったテクニックである。
「えいっ!」
さらにゴールバーを蹴り飛ばし真下へ急降下する弓塚。
ばしいっ!
弓塚の手に弾かれボールが転がっていった。
「まだボールは生きています!」
そのボールへいち早く向かったのは琥珀さんだ。
「させないっ!」
体を張ってボールを庇う弓塚。
ガッ!
琥珀さんのスライディングが弓塚の背中を掠めた。
「そんな……!」
「後は任せたよっ!」
起き上がって素早くボールを蹴り上げる弓塚。
そのボールは一直線に飛んでいき、ライン際に待ち構えていたレンに渡った。
「……!」
ライン際を駆け出すレン。
「悪いけど潰させてもらうわよ!」
「得点チャンスは作らせません!」
アルクェイドとシエル先輩がレンに襲いかかる。
ばしっ!
「なんですって!」
「そんなっ?」
レンはドリブルを用いずにあっさりとパスを出した。
「……フフフフフ」
ボールはワラキアの元へ。
「では参ろうか! このワラキアの悪夢! とくとその記憶に刻め!」
久々に見える地面を滑るようなワラキアのドリブル。
「タタリ……!」
シオンが向かっていった。
「見よ!」
マントを振り上げるワラキア。
「んなっ……」
それが一瞬シオンの視界を塞いだ。
「ここだ!」
その隙をついてのパス。
「ここは私が……!」
それに合わせて秋葉が走って行った。
「打たせはしません!」
翡翠が秋葉へ向かって行った。
「なら……!」
秋葉は首をかがめ、ボールをスルーした。
「そんなっ!」
ボールはそのままペナルティエリアの中へ飛んでいく。
「甘い!」
「なんだと!」
ペナルティエリアに待ち構えていたネロのおっさんよりも先に軋間がボールを蹴り飛ばしていた。
「貴様らに点をくれてやるわけにはいかん!」
再びボールはセンター付近へと飛んで行ってしまう。
「よしっ!」
イチゴさんがそのボールをトラップし。
「頼んだよっ!」
素早く蹴り上げる。
「勝つのはわたしたちですー!」
ななこさんからペナルティエリア内へとパスが渡り。
「この間合い……貰った!」
再び先生へとボールが渡ってしまった。
「させるかぁ!」
都古ちゃん、蒼香ちゃんが同時に先生へと向かう。
「行くわよマッハシュート!」
放たれる伝家の宝刀。
「ぐっ……!」
「うわあっ!」
ボールは二人をふっ飛ばし、一直線へとゴールへ飛んでいく。
「弓塚!」
「わかってる!」
弓塚がマッハシュート目掛けて手を伸ばした。
「きゃあっ!」
だがその手も弾かれてしまった。
「いよっしゃあ!」
ガッツポーズを取る先生。
俺の頭に敗北という二文字がよぎった。
「必殺ネコアルクキーック!」
そこへ響く叫び声。
「なっ……」
何かがボールへ向かって突っ込んでいった。
ばきいっ!
飛んできた物体はボールに激突し、激しく地面を転がった。
そしてその傍に落下するボール。
「あ、有彦!」
ボールへ向かって飛んできたのはなんと有彦だった。
「へっ。スカイラブの逆ってやつだ……」
有彦は自らの体をネコアルクに射出させたのだ。
「せいっ!」
「げっ!」
羽居ちゃんがこぼれ玉を先生の足に当ててライン外へ出させた。
ゴールキックを示すホイッスルが鳴った。
「有彦、大丈夫か?」
有彦に駆け寄る俺。
「あー、どうも駄目っぽい」
口調は軽いがどうやら起き上がれないようだった。
「ここはテメエが行ってこい」
そしてそんな事を言う有彦。
「……でも、俺は」
俺の能力じゃ、きっと力にはなれない。
「キャプテンだろう?」
「……」
残り時間はロスタイムを入れたってほんの僅かしかないだろう。
「わかった」
その時間で俺が何が出来るかはわからないけど。
「選手交代だ……!」
俺は再びフィールドへと足を踏み出すのであった。
続く