「諦めたんですか志貴さん!」
「いや……わかったんだ」

ヘディングをしようとした事で全てが理解できた。

未公認記録も含むと1000ゴール近い得点を挙げたエースストライカー。

ブラジルサッカー伝説の男、ジャイロはヘディングの苦手なプロ選手だった。

その得点源はジャイロが自ら編み出したシュート。
 

「……サイクロン!」
 

俺がこの位置から放ったのは、まさにその必殺技であった。
 
 


キャプテン琥珀 
〜スーパーストライカー〜
その44






「よしっ……!」

これなら確実に決まるはずだ。

俺は勝利を確信した。

「……っ!」

が、次の瞬間自分の考えが甘かった事に気付いた。

相手はあの琥珀さんなのだ。

「サイクロンがどうしたっていうんですかっ!」

物凄いスピードで飛んでいくボールに躊躇無く向かっていく。

そしてその足を大きく振り上げた。

「……まさか!」

俺は琥珀さんが何をするつもりなのか気付いてしまった。

「いっ……!」

向かってくるボールに合わせて足を振り下ろす。

ボールが琥珀さんの足にぶつかり物凄い回転をしていた。

「けえええええっ!」

そして琥珀さんが弾け飛ぶと同時にシュートの軌道が180度変化した。

「カウンターシュート……!」

俺は。

琥珀さんがそれを狙っていると思った瞬間、ほとんど何も考えずに動いていた。

やらなきゃ。

やらなくちゃいけないんだ。

「このっ……!」

俺に向かって飛んでくるボール目掛けて足を振り上げる。

琥珀さんと同じように。

足に激痛が走る。

だが吹っ飛ばされるわけにはいかない。

「スーパーストライカー……」

その称号を持ったジャイロのためにも。

みんなのためにも。

サイクロンすら打ち返した琥珀さんの気概に応えるためにも。

「俺は……勝つ!」

足を振り切った。

きらきらと輝く光が見えた。

その光は、遥か彼方へと飛んでいき……俺の視界から消え去った。
 

ピイイイイイイッ!
 

ホイッスルの音が響く。

「……終わった……」

その音を聞いた瞬間張り詰めていた意識が切れ、俺は地面にぶっ倒れた。

前半後半、そしてさらに延長戦。

長きに渡る熱き戦い。

「……終わっちゃいましたねえ」

遠くから琥珀さんの声が聞こえる。

「ああ」

仰向けのまま答える。

「まさか志貴さんがジャイロだなんて、予想外っていうか反則だと思いました」
「よく言うよ。サイクロンを撃ち返したくせにさ」

撃てば必ず決まるというあのシュートを。

「そりゃカウンターシュートは翼くんの十八番ですから」
「……そういえばそうだったな」

そしてゲームでは翼もロベルトからスーパーストライカーとしての称号を貰っていた。

俺と琥珀さんは互角の存在だったのだ。

「志貴さんは森崎くんじゃなくてロベルトだと思ってたんですよ、わたし」
「あ、そうなの?」
「ええ。要所要所での上手い作戦といい……チームをまとめるうまさといい。指令塔としては最高の存在だと思っていました」
「それ、案外あってたのかもしれないよ」

確かにロベルトっぽいセリフを俺は言った事がある。

「え?」
「キャプテン翼2には噂があってさ」
「噂……ですか」
「ああ」

この話は真実なのかはわからない。

ゲーム中では語られていないからだ。

あくまで俺の想像にすぎない。

だが、ここは俺の夢の中なのだ。

夢の中というものほど想像がリアルになる空間があるだろうか。

「ジャイロってのは作り話で。ロベルトの実体験なんじゃないかって」
「……そんな噂があったんですか」

琥珀さんの驚いたような声が聞こえる。

「ちゃんと理由があるんだよ?」
「どんなです?」
「ジャイロはヘディングが苦手な選手だったろう?」
「……あ」

それで合点がいったらしい。

「ロベルトの病気ですね……」
「そう」

ロベルトは目の病気が原因でサッカーを止めざるを得なかった。

サッカーで頭に一番近い技は何か?

答えはへディングである。

「病気が進行中のロベルトが、その弱点を補うためにサイクロンを編み出したんじゃないか」
「あはっ……なんか凄い説得力です」
「だろう?」

二人して笑う。

「さて、戻りますか」
「そうだな」

起き上がり、みんなの元へと向かう。

「兄さん……」
「みんなお疲れさま。よく頑張った。ありがとう」

まず俺はみんなにお礼を言う事にした。

「礼などいらんニャー。アチキはアチキの王国拡大のために力を貸したに過ぎぬ」

ネコアルクがにゅふふと怪しい笑いをしている。

「それでもありがたかったよ。正直こんなに活躍してくれるとは思わなかったからさ」
「当然。アチキは天才。ネコアルクなのだー」
「ははは……」

今となってはこいつも妙に愛着が沸く存在となっていた。

「暴れ足りないわね……ま、あの女にひと泡吹かせられたのは満足だけど」
「マッハシュートを防げなかったのは心残りだが……まあよしとしよう」
「どうだったね? わたしのカットの技は」
「ワルクェイドもネロのおっさんもワラキアもありがとう」

色んな意味でウチのチームに刺激を与えてくれた連中だった。

「……フン。次に会った時は切り刻んであげるわ」
「混沌との戯れなど他の人間では経験出来なかったろうな」
「一夜限りの夢……夢現の狭間にタタリは現れる」

敵としてはもう会いたくないけど、味方としてならまた戦いたいと思う。

「あたしは浅上ではイマイチだったなぁ」
「そんな事ないよ〜。かっこよかったよ〜?」
「蒼香ちゃん、羽居ちゃん、攻防共にありがとう」

蒼香ちゃんは前半の要だったし、羽居ちゃんは終盤の切り札として活躍してくれた。

「今度会う時は夢でなく現実で……」
「何をろくでもない事を言ってやがりますか」
「いて! 痛いって!」

秋葉に耳を引っ張られてしまった。

「全くもう。油断するとこれなんですから」
「お兄ちゃんのスケベー!」
「わ、悪かったって。秋葉にも都古ちゃんにも感謝してる」

都古ちゃんはスカイラブ殺法と得意の中国拳法で。

秋葉は檻髪とシュナイダーの力を発揮してチームを引っ張ってくれた。

「……それから有彦も」
「おう。忘れられたかと思ったぞ」

にししししと笑う有彦。

「イイとこ持ってかれちまったがな。そのへんはテメーがキャプテンなんだ。しょうがねえ」
「ああ。悪かった」

ディフェンスとして有彦は頑張ってくれたと思う。

「……」

そんな俺たちのやりとりを微笑んで見ているレン。

「レンも……ありがとう。レンがいなきゃこんな凄い戦いは出来なかった」
「……」

レンは微笑んだままびしっと親指を立ててみせた。

「それから弓塚」
「うん」
「ゴールを守ってくれて本当にありがとう」
「ううん。気にしないでよ。それがわたしの役目なんだから」

にこりと笑う弓塚。

「……だから、絶対シュートを止めてみせるよっ」
「ああ」

俺は頷いた。

そしてみんなに向けて叫ぶ。

「みんな。もう少し力を貸してくれるな!」
「当然でしょう?」

琥珀さんのカウンターシュートをさらに返そうとした俺の蹴りは、ボールを天高く舞い上げただけだった。

延長戦は同点のままで終了したのである。

そして延長でも決着のつかなかった勝負の明暗を決めるのは。
 

「これからPKだ! これが本当に最後の最後。全力を尽くそう!」
 

キーパーと選手の一対一の対決、PKである。
 

続く



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