琥珀さんのカウンターシュートをさらに返そうとした俺の蹴りは、ボールを天高く舞い上げただけだった。
延長戦は同点のままで終了したのである。
そして延長でも決着のつかなかった勝負の明暗を決めるのは。
「これからPKだ! これが本当に最後の最後。全力を尽くそう!」
キーパーと選手の一対一の対決、PKである。
キャプテン琥珀
〜スーパーストライカー〜
その45
「それで兄さん。誰を出場させるんですか?」
「……ああ」
PK戦ではお互いに五人の選手を選出しなければならない。
シュートを撃つ側とゴールを守る側とを交互に行い、相手がシュートを撃っても上げられない点差をつけられれば勝ちだ。
また五人やっても終わらない場合はサドンデスとなる。
「やっぱりシュート力のある選手がいいよな」
同じ方向に飛ばれても、シュートが入る可能性はあるのだ。
軋間相手じゃ厳しいだろうけど。
「ならば私は当然入りますよね」
「そりゃな」
シュナイダーを外して他に誰に蹴らせろというんだ。
「だったらあちきも入れさせて貰うぜー」
「ネコアルクも問題ない」
自称天才ファン・ディアスは伊達じゃないのだ。
「他に誰か」
しーん。
「……おいおい」
意外な事に誰一人立候補してくるやつがいなかった。
「ネロのおっさんとかやらないのか?」
試しに尋ねてみる。
「やれと言うならば構わんが。最終決戦にはやはり華が必要だろう」
「美しくない者の出番は不要という事だ。ああ、いや、私は別だがね」
「……何を訳のわからん事を」
まあ確かに女の子のほうが見栄えはいいよな。
「レンちゃんは入れるべきだろう」
有彦がそんな事を言った。
「ん……そうだな」
なんと言ってもレンはこの世界の創世者なのだ。
「……?」
わたしでいいのと言いたげに首を傾けているレン。
「いいんだよ。あたしらは脇役だからな。望みはそこの猫に任せるさ」
そう言って笑う蒼香ちゃん。
「ちっちゃい子代表は任せたからねっ」
都古ちゃんがレンの腕をぶんぶん振り回していた。
「……!」
レンの表情がきりっと引き締まる。
「残りは誰にするのかな〜?」
と思ったら羽居ちゃんの声でへにょっとなってしまった。
「は、羽居ちゃん……」
「ん?」
ああもう、完全に本気モードから離脱してるし。
これじゃあ羽居ちゃんに期待するのは無理だろう。
「い、いや、なんでもないよ。他には……」
「……」
「ん」
ふと視界に見覚えのある姿が写った。
「メカヒスイ!」
「なんですって?」
秋葉が素早くそちらを見る。
「ゴ心配ヲ、オカケシマシタ」
「治ったぞい」
「まさか治しちゃうとはねえ……」
隣には時南先生と朱鷺恵さんが立っていた。
「よかった……」
秋葉は本当に嬉しそうだ。
「兄さん。メカヒスイを出してみてはどうでしょうか?」
そしてそんな事を言う。
「うーん」
確かにそれもよさそうな気はするが。
「イエ」
メカヒスイが首を振った。
「わたしヨリモ、出ルベキ選手ガ、イマス」
「誰?」
「……というより遠野は確定だよな?」
すると有彦が口を挟んできた。
「あー」
そういえば俺を忘れてたっけ。
「一応キャプテンだから出なきゃなあ」
「何言ってるんですか。反則キャラのくせに」
「……知らなかったんだよ」
まさかジャイロが出てくるだなんて思うわけないじゃないか。
「志貴サマハ当然デスガ……」
メカヒスイがある方向を指差した。
「……誰?」
そこには知らない奴が立っていた。
あんなやつウチのチームにいなかったぞ?
「あ、あれは!」
するとワラキアが叫んだ。
「……あ」
それと同時に俺もそれが誰であるのかわかってしまった。
「アリなのか……? あれは」
「志貴さん、決まりましたか?」
「ああ」
PKでの蹴る順番はお互いにわからない。
だから戦略もへったくれもないのだが、だいたい強いヤツが最初と最後にいるのが基本である。
「ではコイントスですねー」
琥珀さんがコインを空へ投げる。
「ちょっと待った」
「はい?」
ぱしっと琥珀さんの投げたコインを取る俺。
「どっちが表?」
「絵のあるほうですー。数字が裏ですね」
「……わかった」
こっちが裏だったんですよーとか主張されたらたまらないからな。
「ついでに、琥珀さんじゃない人に投げて欲しいんだけど」
「うわ、わたし全然信用されてませんね」
苦笑いする琥珀さん。
「そりゃ琥珀さんだから」
「あはっ。ごもっともです。では中立の四条つかささんにやって貰いましょうー」
「……誰だよ」
まったく見た事のないよくわからない人が出てきてしまった。
「あれは……」
秋葉が渋い顔をしていた。
「誰?」
「久我峰と同じようなポジションの娘です」
「……そうか」
なんだか怖いのでそれ以上聞くのは止めた。
「さあ、どっちですか?」
琥珀さんが尋ねてくる。
「表」
「ではわたしは裏でお願いしますー」
「……はい。どうぞ」
四条さんが手をどける。
「お」
コインは表だった。
「幸先いいな」
「あらららら。先攻を取られるとまずいですねー」
それを見てそんな事を言う琥珀さん。
「ふ」
その手は食わないぜ。
「俺たちは後攻で行くよ」
「いいんですか?」
「ああ」
そのほうが心理的に有利だと思う。
「うふふふふ」
「……」
大丈夫だよな? 後攻で。
「ではわたしたちのチームの攻撃からですね」
「あ、うん」
取り合えず下がってみんなにその旨を伝えた。
「しっかり守ってくるよ」
「おう。頑張れ」
弓塚が元気にゴール向かって駆けていく。
「あっ!」
びたん。
「……白」
じゃなくて。
「大丈夫だよな?」
なんだか不安になってきてしまった。
「さてさてこちらの一番手は……行けっ! 雷電!」
「いや、それ別のマンガ」
「さすがは志貴さん。素早いツッコミで」
「全く。誰が雷電ですか……」
ぶつぶつ言いながら出てきたのはシエル先輩だった。
「……雷電だね」
「でしょう?」
「そこ! 人を便利解説キャラ扱いしないで下さい!」
「す、すいません」
「ごめんなさーい」
なんで男塾ネタがわかるんだこの人たち。
「虎丸富樫じゃないだけいいと思うんですけどねえ」
「驚き担当……ってそれはもういいから」
「ああもう! 行きますよ!」
「え? マジで?」
イマイチ緊張感の出ないまま、シエル先輩が最初のペナルティキックを放つのであった。
続く