前半後半、そしてさらに延長戦。

長きに渡る熱き戦い。

「……終わっちゃいましたねえ」

遠くから琥珀さんの声が聞こえる。

「ああ」

仰向けのまま答える。

「まさか志貴さんがジャイロだなんて、予想外っていうか反則だと思いました」
「よく言うよ。サイクロンを撃ち返したくせにさ」

撃てば必ず決まるというあのシュートを。

「そりゃカウンターシュートは翼くんの十八番ですから」
「……そういえばそうだったな」

そしてゲームでは翼もロベルトからスーパーストライカーとしての称号を貰っていた。

俺と琥珀さんは互角の存在だったのだ。

「志貴さんは森崎くんじゃなくてロベルトだと思ってたんですよ、わたし」
「あ、そうなの?」
「ええ。要所要所での上手い作戦といい……チームをまとめるうまさといい。指令塔としては最高の存在だと思っていました」
「それ、案外あってたのかもしれないよ」

確かにロベルトっぽいセリフを俺は言った事がある。

「え?」
「キャプテン翼2には噂があってさ」
「噂……ですか」
「ああ」

この話は真実なのかはわからない。

ゲーム中では語られていないからだ。

あくまで俺の想像にすぎない。

だが、ここは俺の夢の中なのだ。

夢の中というものほど想像がリアルになる空間があるだろうか。

「ジャイロってのは作り話で。ロベルトの実体験なんじゃないかって」
「……そんな噂があったんですか」

琥珀さんの驚いたような声が聞こえる。

「ちゃんと理由があるんだよ?」
「どんなです?」
「ジャイロはヘディングが苦手な選手だったろう?」
「……あ」

それで合点がいったらしい。

「ロベルトの病気ですね……」
「そう」

ロベルトは目の病気が原因でサッカーを止めざるを得なかった。

サッカーで頭に一番近い技は何か?

答えはへディングである。

「病気が進行中のロベルトが、その弱点を補うためにサイクロンを編み出したんじゃないか」
「あはっ……なんか凄い説得力です」
「だろう?」

二人して笑う。

「さて、戻りますか」
「そうだな」

起き上がり、みんなの元へと向かう。

「兄さん……」
「みんなお疲れさま。よく頑張った。ありがとう」

まず俺はみんなにお礼を言う事にした。

「礼などいらんニャー。アチキはアチキの王国拡大のために力を貸したに過ぎぬ」

ネコアルクがにゅふふと怪しい笑いをしている。

「それでもありがたかったよ。正直こんなに活躍してくれるとは思わなかったからさ」
「当然。アチキは天才。ネコアルクなのだー」
「ははは……」

今となってはこいつも妙に愛着が沸く存在となっていた。

「暴れ足りないわね……ま、あの女にひと泡吹かせられたのは満足だけど」
「マッハシュートを防げなかったのは心残りだが……まあよしとしよう」
「どうだったね? わたしのカットの技は」
「ワルクェイドもネロのおっさんもワラキアもありがとう」

色んな意味でウチのチームに刺激を与えてくれた連中だった。

「……フン。次に会った時は切り刻んであげるわ」
「混沌との戯れなど他の人間では経験出来なかったろうな」
「一夜限りの夢……夢現の狭間にタタリは現れる」

敵としてはもう会いたくないけど、味方としてならまた戦いたいと思う。

「あたしは浅上ではイマイチだったなぁ」
「そんな事ないよ〜。かっこよかったよ〜?」
「蒼香ちゃん、羽居ちゃん、攻防共にありがとう」

蒼香ちゃんは前半の要だったし、羽居ちゃんは終盤の切り札として活躍してくれた。

「今度会う時は夢でなく現実で……」
「何をろくでもない事を言ってやがりますか」
「いて! 痛いって!」

秋葉に耳を引っ張られてしまった。

「全くもう。油断するとこれなんですから」
「お兄ちゃんのスケベー!」
「わ、悪かったって。秋葉にも都古ちゃんにも感謝してる」

都古ちゃんはスカイラブ殺法と得意の中国拳法で。

秋葉は檻髪とシュナイダーの力を発揮してチームを引っ張ってくれた。

「……それから有彦も」
「おう。忘れられたかと思ったぞ」

にししししと笑う有彦。

「イイとこ持ってかれちまったがな。そのへんはテメーがキャプテンなんだ。しょうがねえ」
「ああ。悪かった」

ディフェンスとして有彦は頑張ってくれたと思う。

「……」

そんな俺たちのやりとりを微笑んで見ているレン。

「レンも……ありがとう。レンがいなきゃこんな凄い戦いは出来なかった」
「……」

レンは微笑んだままびしっと親指を立ててみせた。

「それから弓塚」
「うん」
「ゴールを守ってくれて本当にありがとう」
「ううん。気にしないでよ。それがわたしの役目なんだから」

にこりと笑う弓塚。

「……だから、絶対シュートを止めてみせるよっ」
「ああ」

俺は頷いた。

そしてみんなに向けて叫ぶ。

「みんな。もう少し力を貸してくれるな!」
「当然でしょう?」

琥珀さんのカウンターシュートをさらに返そうとした俺の蹴りは、ボールを天高く舞い上げただけだった。

延長戦は同点のままで終了したのである。

そして延長でも決着のつかなかった勝負の明暗を決めるのは。
 

「これからPKだ! これが本当に最後の最後。全力を尽くそう!」
 

キーパーと選手の一対一の対決、PKである。
 

続く



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