「……雷電だね」
「でしょう?」
「そこ! 人を便利解説キャラ扱いしないで下さい!」
「す、すいません」
「ごめんなさーい」

なんで男塾ネタがわかるんだこの人たち。

「虎丸富樫じゃないだけいいと思うんですけどねえ」
「驚き担当……ってそれはもういいから」
「ああもう! 行きますよ!」
「え? マジで?」

イマイチ緊張感の出ないまま、シエル先輩が最初のペナルティキックを放つのであった。
 
 



キャプテン琥珀 
〜スーパーストライカー〜
その46






「この……!」

ゴール付近という俺たちから離れた場所にいたせいか、シリアスな表情のままの弓塚。

だが。

「ダメだ……!」

シエル先輩の蹴ったボールは左へ飛んでいき、弓塚は反対方向へ飛んでしまっていた。

ずばっ!

ゴールネットが揺れる。

「やりましたっ!」

珍しく全身で喜びを表現しているシエル先輩。

「やられたな……」

やはりPKのシュートを防ぐというのは普通のシュートを防ぐより難しいものなのだろう。

「うふふ、まずはこちら有利ですねー」

琥珀さんがころころ笑っていた。

「……こっちも決めればいいだけだよ」

逆に言えば決められないとかなり不利になってしまうのだが。

「こっちの先鋒は……おまえだ!」

俺はびしっと控え室のほうを指差した。

「そなた……いきなり最終兵器を使うとは……ちと早すぎはせぬか?」

すらりと伸びた金色の髪。純白のドレス。

「あ、あれは……朱い月のブリュンスタッド!」

シエル先輩が叫ぶ。

「知っているんですかシエル先輩?」
「ええ、噂に聞いてはいましたが、まさかこの目で見る事になるとは……」

紅い月。またの名を月のアルティミットワン。

伝説として語られる、最初の真祖である。

アルクェイドは朱い月の転生先の最有力候補であると言われており、その意識が表に出てきた状態をこの名で呼ぶ。

まったくの別人格であり、性格などはまるで異なっている。

その腕から放たれる衝撃波は、天に届くほどの風の柱となると噂された。

日と月と、時をも支配する存在。その転生が明か時の転、つまり暁の語源となったのは言うまでもない。

―――民明書房刊『姫口調って萌えじゃね?』より抜粋

「解説ありがとうございます。雷電さん」
「だから雷電じゃないって言ってるでしょう!」

要するにまあアレはアルクェイドの別の姿なのだ。

「志貴さん。そんな人チームにいなかったと思うんですけど」
「いや、いたんだよ」
「……ま、まさか二重うなぎ?」

アルクェイドが叫ぶ。

「正解。あいつはおまえの影だからな」

ワルクェイドの中の朱い月が目覚め、あのような姿になったのである。

「先ほどは知性の足りない姿を見せてしまい失礼をしたな。この私が本当の真祖の力というものを見せてやろうではないか」
「むむむ……いかにもラスボスって感じの威圧感……これはやばそうです」

琥珀さんは渋い顔をしていた。

「俺も正直いいのかなとは思ったけど」

元々この試合はお祭り騒ぎみたいなものだったのだ。

出てくるならどんなヤツでも出て来いである。

「軋間さんの防御力を甘く見てはいけません! きっとあの人ならなんとかしてくれるはずです!」

そう言ってゴールを指差す琥珀さん。

「ほっほっほ。このわたしのローリングセーブでどんな玉でもグホァッ!」

何やらどこかで見たようなおっさんがゴールに立っていたけど七夜のキックで遥か彼方へ吹っ飛んでいってしまった。

「……まったく、どうかしてる」
「ほんとだよ」

哀れなリ、久我峰。

「ご、ごほん。さあ気を取り直しまして。軋間さーん」
「心得た」

こんな状況でも軋間は闘気を放ったままであった。

「ずるいよなあ、真面目オンリーなやつは」

多分今俺がシュートを撃ってもへなちょこなものしか撃てない気がする。

「ふん。人外との混血が……純たる存在の私に勝てるわけがなかろう」

不敵な笑みを浮かべ、ゴールの正面に立つ朱い月。

「受けよ! その腹に風穴を開けるがよいわ!」

やたらと物騒な事を叫んでボールへ向かっていく。

ぐし。

「あ」

ところがそのやたらに長いスカートが災いしたのか。

裾を思いっきり踏ん付けた朱い月は。

「のわっ!」

顔面から地面に激突していた。

しかもその手がボールに触れてしまい。

「ハンド」
「なんじゃとっ?」

反則扱いにされてしまった。

「……この場合ってどうなるの?」
「蹴る側の反則は、もう蹴った事と判定されて無効ですね」
「ってことは……」

俺たちの最初のPKは失敗だと。

「朱い月、退場」
「ちょ、ちょっと待て人間! 私はまだ何もしておらんぞ! おいっ!」
「話はいくらでも聞いてやろう。本物じゃなくて申し訳ないけどね」
「こらーっ!」

朱い月は俺の偽者にずるずる引きずられて行った。

「……ぬぅ」

一人取り残された軋間が眉を潜めていた。

「ああもう」

貴重なPKを無駄にしてしまった。

自分の采配ミスに頭を抱えてしまう。

「いやー、残念でしたねー」

琥珀さんはものすごく嬉しそうである。

「つ、次は弓塚が防いでくれるさ」

というより防いでくれないとヤバイ。

「そう上手くいきますかねー。次はこの方ですよー」
「はーい。スーパストライカー登場〜」
「げ」

次の選手はなんと先生だった。

「ここはちゃっちゃと決めて勝たせて貰うわよ」

先生はこんなノリでもやるべき事はきちんとやる人である。

手を抜いて戦うというのはあり得ないだろう。

「なんとかしないと……」

ここで入れられてしまっては巻き返しが非常に厳しくなる。

「ねー、お兄ちゃん」
「ん?」

都古ちゃんが俺の服の袖を引っ張っていた。

「どうしたの?」
「これを言えばコインブラ封じになるんだって」

そう言って紙を渡してくれる。

「コインブラ封じ?」

そんな都合のいい言葉あるんだろうか。

キャプ翼Vでリストラされたくせにーとか。

「よくわからないけど……」

こうなったら藁にもすがれだ。

「行くわよっ!」

ボールに向かって駆けていく先生。

俺はそこに書いてある文字を大声で叫んだ。

「あおあおー!」

ずごっ!

「うおっ?」

その瞬間ボールを蹴り上げた先生。

「わ。ホームランみたい」

羽居ちゃんが能天気な事を言っていた。

つまりまあ、先生のシュートはゴールポストの上を飛んでいってしまったのだ。

「……しーきー?」
「……う」

顔はにこにこ笑っているが、とてつもない殺気を放っている先生がこっちに歩いてきた。

「今なーんて言ったのかしらー?」
「お、おおおお、俺はただ、ここに書いてある文字を読んだだけで」

何だ、この「あおあお」って言葉にどんな意味があるって言うんだ。

「この筆跡は……」

俺から紙を奪い去って怖い顔をしている先生。

「あの女! 志貴に余計な事刷り込んでっ! 絶対殺すっ!」
「え、あ、ちょっと?」

先生はマンガみたいに空を飛んでどこかへ行ってしまった。

「……夢の中だからなんでもアリなんだろうけど」

あの先生があんなに怒るなんて。

一体誰がこんなものを?

「都古ちゃん、この紙くれたのどんな人?」

聞いてもわからないだろうけど尋ねてみる。

「なんかメガネかけてた」
「……そっか」

あまり詳しく知るとまた怖そうなので、そこまでに留めておいた。

「とにかく、これで俺たちが決めれば」

1ー1のイーブンとなる。

「次の選手は……おまえだっ!」
「いよっしゃー!」
 

意気揚々としたネコアルクがペナルティエリアへと向かうのであった。
 

続く



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