「っていうかわたしの扱いのほうが悪い気がするんだけど」
「何言ってるんだ。おまえなんか三人もいるじゃないか」

どれも問題児ばっかりだけど。

「……そういえば早々と退場した朱い月はどうなったのかしら」
「さあ……」

七夜に連れて行かれた方向を眺めてみる。

「よ、よせと言うておるだろう! 戯れは好かぬ!」
「いいじゃないか。なぁ?」
「……何やってるんだあれは」
 

なんだかよくわからないが、殺人貴と姫君という奇妙なカップルが出来上がっているのであった。
 
 

キャプテン琥珀 
〜スーパーストライカー〜
その49






「くおら、何やってんだおまえ」

こっちは真剣勝負の真っ最中だというのに。

「何と言われてもな。見ての通りだ。真祖の姫君を口説いているんだが」
「ほざけ人間。貴様の言葉などで私の意識を揺るがせると思うな」

ぷいとそっぽを向く朱い月。

「……やれやれ、さすがに手強い」

ため息をつく七夜。

「魔の者を落とそうとするのは七夜の血の定めさ。殺し合いをするより健全でいいだろう?」
「そりゃまあそうだけど……」

だからってナンパするのもどうかと思うんだが。

「ま、こっちはこっちで楽しんでるんだ。邪魔しないでくれよ」
「いちゃいちゃするなら目線に入らないところでやってくれ」
「誰がいちゃいちゃしておるのだ。こいつが勝手に……」
「待ってくれよ」

すたすた歩き出す朱い月を追いかけていく七夜。

「……ああそうだ」

が、何かを思い出したかのように足を止めて振り返った。

「なんだよ」
「おまえも俺のように……とは言わないが。好きな女にくらいアピールしたらどうなんだ?」
「だ……誰の事だ?」
「とぼけるんじゃない。お前の考えている事くらいわかるさ。まったく趣味の悪いやつだよ」

にやにやと笑う七夜。

「誰の趣味が……」
「ま、こんな茶番に付き合ってるくらいだからな」
「茶番なんかじゃない」

俺が睨み付けると七夜は大きく息を吐いた。

「お前が倒すべき相手は俺じゃないだろう?」
「……そうだな」

こんな奴に構ってたってしょうがないのだ。

「最後にはいいとこ持ってってくれよ?」
「善処はする」
「あばよ」
「じゃあな」

七夜は朱い月を追いかけて消えていった。

「……何なの? あれ」
「まあ色々とな」

まさに自分自身との対話であった。

アピール……か。

「考えてみるか」
「ねー。なんなのよ志貴」
「秘密」

こんな事他の誰かに話すもんじゃないからな。

「ちぇ、つまんないの。レンのキックでも見てよ」

アルクェイドがぱたぱたゴールへ向かっていった。

「……」

俺も観戦するか。

「何を話してたんです?」

なんとなく琥珀さんの傍に立つ俺。

「七夜と? 下らない話だよ」
「仲がいいみたいですね、七夜さんと朱い月さん」
「……七夜のほうだけが強引にアピールしている感じだけどね」

俺とアルクェイドの関係と正反対である。

「志貴さんもやっぱりアルクェイドさんがいいんですか?」
「まあ嫌いじゃないけどさ」

一緒にいて楽しいのは間違いないし。

「でも彼女ってのとは違うなあ」

手のかかる子供とでも言おうか。

「そうなんですかー」
「うん」

一体何を話してるんだ俺ら。

ずばっ!

「お」
「ああっ?」

レンのシュートがゴール右スミに突き刺さっていた。

「これで2対3か……」

つまり次の琥珀さんが決めても最悪で引き分け、外せば即俺たちの勝利が決まる。

「……まだ負けませんよー」

この逆境に琥珀さんは燃えていた。

「必ず勝利して志貴さんに言う事を聞いてもらうんですっ!」
「いや、そんなルールなかったし!」

いきなり何を言い出すんだこの人は。

「おやおや志貴さん、こういう勝負では負けたほうが勝ったほうの言う事を聞くのは常識でしょう?」

不敵に笑う琥珀さん。

「そんな常識……ってちょっと待って」

負けたほうが勝ったほうの言う事を聞く?

「じゃあ琥珀さんが負けたら俺の言う事を聞くんだよね」
「うっ」
「自分で言ったんだから取り消さないよね?」
「……そ、それはもちろん。ええ、わたしが負けるはずありませんからっ」

などと強気な発言をしてゴールへ向かっていく。

「やれやれ……」

そんなルールで戦ってたとは知らなかった。

知ってたらもっと早く勝ちに……いや。

「楽しかったからそういうのはなしだな」

試合はお互いに全力でぶつかり合った。

そのおかげで普段見えなかった事も見えた気がするし。

「……このキックで勝敗が決まるかも知れないんですね」

秋葉が神妙な顔つきで琥珀さんを見ていた。

「大声出せば驚いて外すんじゃないか?」

この状況でそんな下らない事を言うのは有彦だ。

「琥珀さんに限ってそれはないだろ」
「どこぞのストライカーはホームランだったけどニャー……ふぎょ!」

ネコアルクの頭にどこからか飛んできたカセットテープが直撃していた。

「ライバルとして何か言ってやるべきではないのか?」

ネロのおっさんがそんな事を言う。

「……うん」

言いたい事はある。

けど、それを今言っちゃっていいものなんだろうか。

「恋焦がれていた相手……いつまでも傍にいると思うなよ」

ワラキアが妙に悟った表情をしている。

「ぬう……」

どうすればいいんだ、俺。

「弓塚、どうすればいいと思う?」

まだキーパーの位置に行っていなかった弓塚に尋ねてみる。

「よくわからないけど……わたしに聞かれるのは辛い事の気がするなあ」

弓塚は苦笑いしていた。

「経験談から言わせてもらうとね、黙ってるだけじゃ気持ちは伝わらないんだよ?」
「そ、そうなのか」
「うん、ほんとに……」

喋りながら弓塚はとても悲しそうだった。

「元気出してくれよ、ゴールを守れるのはお前しかいないんだぞ」
「うう、期待に応えられるよう頑張るよー」
「……」

なんだか自暴自棄っぽい感じだけど大丈夫だろうか。

「姉さん、必ず決めてください」
「みんなの運命がかかってるんですよ!」
「負けたら承知しないわよー」

向こうのギャラリーが琥珀さんに声援を送っている。

「……そ、そんなプレッシャーかけないで下さいって」

ぱんぱんと頬を叩く琥珀さん。

「よしっ……」
「……!」

琥珀さんと弓塚が身構える。

「どうなるのかなー?」
「ま、天のみぞ知るってやつかね」

運命の瞬間。

「……どうしよう」

このセリフを蹴る前に言うのはなんとなくずるい気がする。

けど蹴った後に言っても格好がつかないような。

「くそっ」

タイミングが悪すぎだった。

せめてレンが蹴る前だったら。

いや、PK前か、全部終わった後だったらよかったのに。

七夜の奴め。中途半端に背中を押してくれやがって。

「行きますよっ!」

琥珀さんは走り出してしまった。

ああもうっ。

こっちもやけくそで走る。

「……琥珀さんっ!」

琥珀さんがこちらを向く気配はない。

半分決意の出来ないままではあるが、構わずに叫んだ。
 

「俺は……俺は!」
 

続く



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