「……あのなぁ」

俺はこのチームで勝つ事が、限りなく辛い事を知ってしまった。

こんな反則ゲーム版じゃ存在しないんだぞ?
 

「キーパー以外は手使っちゃ駄目だっつーの!」
 

どうやらオレはポジションは配置からやり直さなくてはいけないらしい。
 
 

キャプテン琥珀 
〜スーパーストライカー〜
その6










「琥珀チームのフリースローとなります」
「……今のうちにポジション変更しないと」

俺は手を上げて叫んだ。

「琥珀さんタイム! ちょっとポジション変えるから!」
「あ、は〜い」

急いで自軍ゴールへと向かう。

「都古ちゃん。ごめん、ネロのおっさんと交代してくれる?」
「えーっ? まだ何にもしてないよっ? 三角飛びとかやりたかったのに……」
「俺も見たかった」

あの技を再現出来そうなのは都古ちゃんくらいだからな。

「残念」
「その無念さはゴールを決める事で晴らしてくれ」
「わかったっ。頑張る!」

都古ちゃんは元気良く駆けていった。

「で、おっさんはここに立っててくれ」
「何だ、このちゃちな網は」
「……これがゴール。ここにボールを入れられたら失点だから、絶対入れられないように」

まさかこんな基礎の基礎から教えなくてはいけないとは。

「その程度の事なら造作もない。任せてもらおう」
「ああ。頼りにしてる。けど、ここのラインの中でしか腕は使えないからな」
「人間というものは奇妙な束縛が好きなのだな……」

取りあえずはキーパーはこれで問題なしと。

「ワラキアー。そっちも手使っちゃ駄目だからな。マントも駄目だぞ」

念のためあっちのほうにも一声駆けておいた。

「私に期待するならば腕を使わせるべきなのだがね」
「サッカーなんだからしょうがないだろ。足使ってくれ」
「……まったくつまらない戯言だ……」

ああもう、こいつら戦力どころか足手まといじゃないか。

「……」

ふりふり。

レンが身振り手振りで何かを表そうとしていた。

「なに? こいつらにサッカーの知識教えてくれるの?」

こくり。

「……嬉しいけど間に合うかな」

さすがにこれ以上タイムを伸ばすわけにもいかないし。

「試合しながらでもいい?」
「……」

びっと親指を立てるレン。

「じゃあ、任せたよ」

レンもディフェンスに下げて、俺は中央へと戻った。

「お待たせ。いいよ琥珀さん」
「はいな。いっきますよー」

ひょいっとボールを投げる琥珀さん。

「シエルくんパスキャッチ!」
「……よりによってまた厄介な人に……」
「ふふふ。行きますよ遠野君っ」

先輩はライン際をドリブルで進み始めた。

「やらせませんっ!」

秋葉がそれを追いかけていく。

「おっと」

中央へ移動する先輩。

「甘いな」

そこには蒼香ちゃんが待ち構えていた。

「……む」
「あたしもいるよー!」

先輩は秋葉と蒼香ちゃんと都古ちゃんに囲まれた。

いくら先輩でもあの三人を全て抜くのは容易ではないだろう。

「行きますよシエル先輩!」
「勝負です、秋葉さん!」

先輩がドリブルでつき進み、秋葉がスライディングを仕掛ける。

しゅぱっ!

「シエルくんかわしたっ!」

必殺技も使わず普通に避ける先輩。

やはり基本能力が違いすぎる。

「な……なんですって!」

秋葉が愕然としていた。

「次はあたしか……」

蒼香ちゃんは普通に先輩に向かっていった。

パスカットをするつもりだったんだろうか。

「甘いですね!」

これもあっさりかわされる。

「行くぞぉー!」

そして最後に都古ちゃんが向かっていく。

タックルは都古ちゃんの得意技だ。

都古ちゃんのタックルなら先輩だって!

「そちらに付き合うほどバカではありませんよ」

先輩は都古ちゃんが突撃してくる前にパスを出してしまった。

「あ……このっ!」

慌ててジャンプする都古ちゃんだが当然届かない。

ボールは高く飛んでいった。

「誰へのパスだ……?」

落下点を予想して、そこへ向かっていく。

「……」

そこには翡翠が立っていた。

「翡翠くんパスキャッチ!」

俺のダッシュでは追いつく事が出来ずにあっさりボールを取られてしまった。

「くそっ」

こうなったらなんとしてでもドリブルを阻止して……

「姉さん!」
「翡翠ちゃん!」
「……ってこらー!」

そのお互いの名前を呼び合う技はヤバイ。

「翡翠くんパスを出した!」
「だ、誰か! そのパスを止めてくれっ!」

だがそのボールを止める人間は誰もいなかった。

「で、出た〜! 翡翠くんと琥珀くんのゴールデンコンビ!」

二人はものすごいスピードでワンツーをしながら進んでいく。

キャプ翼ゲーにおいて、ワンツー必殺技の発動を防げない事イコール、ほぼ100%ゴール前まで切り込まれてしまうという意味を持つ。

「翡翠くん低いボールに動きを合わせる!」
「進みすぎだって絶対!」

翡翠は既にペナルティエリア内まで進んでしまっていた。

「くそ! ディフェンスは……」

役立たずっぽいワラキア。

残りはレンと有彦だ。

有彦は既に翡翠と対峙していた。

「有彦ぉ! 吹っ飛ばされてもいいからボールを奪えっ!」
「ずいぶんと無茶言ってくれるぜ!」

有彦がボールへ向かって飛んでいく。

「……」

翡翠は小さく体を丸めた。

「な……!」

スルーだ。

有彦はそのボールを取る事が出来ず、ボールは翡翠の後ろへと転がっていく。

「ぬうっ……」

しかも今のでネロのおっさんがバランスを崩してしまったらしい。

ああ、ほんとにもう!

「誰かボールを……!」
「ゲットです!」
「げ」

よりにもよって、そのボールを確保したのは琥珀さんであった。

「さくっと決めちゃいますよ〜」

そのボールを真上に蹴り上げる。

あの動作はまさか……

「行っけー! サイクロン!」

がごおっ!

空中で回転のかかったボールを蹴り上げさらなる回転をかけるという謎の技。

それがサイクロンだ!

「とか解説してる場合じゃなくて!」

そういうのはチャーリーに任せておけばいいのだ。

「くそっ……」

バランスを崩したキーパーに向かってキャプテン翼2内で最強の必殺シュートを撃ってくるとは。

さすがは琥珀さん。容赦がない。

「おっさん! 止めてくれよっ!」

こうなったらもうネロのおっさんに頼るしかないじゃないか。

「小癪な……!」

不規則な動きをしているボールへ向かっていくネロのおっさん。

「ネロくんパンチング!」

あの渋いおっさんもチャーリーにかかればくん付けだった。

「だが届かない!」
「……マジかよ!」

ネロのおっさんのパンチはぎりぎりのところでボールに届かなかった。

くそ、先取点は琥珀さんチームなのかっ?

ガッ!

「おおっとこぼれだまになったー!」
「え?」

ところがゴールに入るかと思われたボールは謎の物体によって弾かれていた。

なんだ? 何があったんだ?

「にゅふふふふふ……ヒーローは遅れてやってくるもんだニャ」

ボールを弾いた物体がむくりと置きあがってそんな事を言った。
 

「お、おまえは……ネコアルク!」
 

続く



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