って事は。
今ゴールを守ってるのは腕力はあるが知識は0の駄目キーパー。
「今度こそ決めるわよっ! 食らえ志貴チーム! これがわたしの……!」
一方こちらは誰もが認めるエースストライカー。
しかもペナルティエリア内からのシュート。
「……こんなの」
止められるはずないじゃないか。
「ネオアルクショットー!」
ウチのチームにとって絶望的な状況の中、再びアルクェイドの必殺シュートが放たれた。
キャプテン琥珀
〜スーパーストライカー〜
その9
「小癪な。その程度の技、止めてみせる」
言葉だけは無駄にかっこよくボールへ向かっていくネロのおっさん。
「食らえ!」
そしてボールへ向けて手を伸ばした。
しかし、加速したボールはおっさんの腕のリーチの遥か先を飛んでいた。
「なんだと!」
「駄目か……!」
先取点は琥珀さんチームになってしまうのかっ?
ボンッ!
「え……」
「えええっ!」
俺とアルクェイドの叫び声がほぼ同時に響いた。
「なんでよ! わたしど真ん中狙ったのに!」
ボールの空気が抜けてしぼんでいっている。
「なんという威力だ!」
そう、アルクェイドのシュートは森崎よりも防御率の高いゴールポストに当たってしまったのだ。
「キャプ翼ゲーでシュートの方向を決めるなんてのは出来ないんだよ」
5では出来るようになったけど、あのゲームはゴールに向かってパスしたほうが入るし。
「ゴールポストの出現率も凄いからな。五回に一回は出てくると思ったほうがいい」
ここでポストに当たってくれたのは非常にありがたかった。
九死に一生を得たという感じである。
「……ぬぅ、迂闊だった」
おっさんが渋い顔をさらに渋くしていた。
「おっさん。早いとこレンにルールを教わってくれ。そうじゃないとアルクェイドにいいようにやられるままだぞ?」
「貴様ごときに指図されぬともわかっている」
既にレンはゴールの傍まで走ってきてくれていた。
「おっさんはこれからゴールキックをするんだ。味方に向かってボールを蹴り飛ばしてくれ」
無理してシュートを狙わなければ多少時間は稼げるだろう。
「味方に向けて蹴ればいいんだな?」
「おう」
「では……行くぞ!」
おっさんが勢いよくボールを蹴り上げた。
「おおっ」
ボールはぐんぐん飛んでいき、センターラインの傍までいった。
おっさんは一体誰に蹴ったんだろう。
「あ、ボールだ〜」
「……よりによって羽居ちゃんかよっ」
「あいつが一番倒せそうだったからな」
「味方倒してどうすんだよっ!」
慌ててボールへ向かって走っていく俺。
しかしゴールからセンターラインまではかなり遠い。
「えいっ」
トラップしようとジャンプする羽居ちゃん。
ぽよん。
「あっ」
その豊満な胸のせいでボールは跳ね返ってしまった。
「何をやっているんです! もう!」
幸い秋葉がすぐにフォローに入り、ボールはなんとか確保出来た。
秋葉のトラップはそれこそ完璧なものであった。
「……おかしいな……なんだか前が見えなくなってきたぞ」
これは涙?
どうして泣いているんだ俺は。
「まったく不愉快ですねっ!」
秋葉は怒鳴りながらドリブルしていった。
「あ、秋葉! 待て!」
おっさんがルール覚えるまで時間稼がなきゃいけないのに!
「おっと行かせないぜ秋葉っ!」
しかも秋葉に向かっていっているのは七夜だ。
「ふん。兄さんの偽者ですね。本物でも私には勝てないのに偽者ごときが!」
「あっちのほうが偽者だと思うけどね、俺は」
七夜が勢いよく地面を滑る。
「七夜くんのきょうれつなタックル!」
「うわ、まずい……!」
強烈なとつく時は、普段のタックルよりも遥かに性能が上がるのだ。
「きゃあっ!」
秋葉は吹っ飛ばされ、ボールは七夜のものになってしまった。
「さあ、行ってくるといい」
すぐ傍にいたシオンへパスが出される。
「了解です。……行きますよ!」
華麗なドリブルを見せるシオン。
「このおっ!」
「当たりません!」
「おりゃああっ!」
「無駄です」
都古ちゃんと有彦のタックルをあっさりとかわしてしまっている。
「くそっ……」
レンと俺が下がってしまっているのでどうしても中盤が脆い。
「ここは私に任せてもらおう!」
ワラキアが地面を滑るように走っていった。
「……タタリ!」
「この私を抜けるかな!」
「抜いて見せます!」
競り合いを始めるシオンとワラキア。
「カットカットカットカットカットカットカットー!」
「……ぐうっ!」
ワラキアの執拗な攻めでボールがこぼれ玉になった。
「頂く!」
「させません!」
宙を舞う二人。
ばしっ!
「こぼれだまになったー!」
さらにボールはあらぬ方向へと飛んでいく。
「さっきは不覚を取ったけど……今度はそうはいかないわよ!」
アルクェイドがボールをトラップ。
「もう一度行くわよシオンっ!」
そして再びシオンへとパスを出した。
「ありがとうございます、真祖」
シオンがきっとした目で俺たちのゴールを睨み付けた。
「キーパーが不安定な今がチャンスです! みんなあがってください! 雪崩攻撃です!」
「な、雪崩攻撃だとっ!」
俺はその言葉を聞いて戦慄が走った。
「みんな戻ってきてくれ! 早く! 秋葉たちも!」
「な、なんですか……何があるっていうんですっ?」
どどどどどと琥珀さんチームの面々が俺たちのゴールめがけて走ってくる。
「なんつー迫力……だがボールさえ奪えればっ!」
ネコアルクがヘッドスラィディングでシオンからボールを奪う。
「甘いわよっ!」
「にょわっ?」
だがそのボールはアルクェイドへ。
「わ、わたしだってやる時はやるんだからあっ!」
弓塚の渾身のタックル。
「うわっ?」
ボールがこぼれ玉に。
「前進あるのみです」
しかしそのボールはさらに翡翠へと渡る。
「カットしてもカットしても攻められる……」
どこへボールを蹴っても相手チームに止められてしまう。
これが恐怖の雪崩攻撃。
「カット!」
翡翠からワラキアがボールを奪い。
「クリアだ!」
有彦がクリアしても。
「ツメが甘いんだよな」
イチゴさんがボールを止めていた。
「まずいぞ……」
うまく攻撃を阻止できればカウンターのチャンスではあるが。
この攻撃を止められる自信は正直なかった。
「チャンス!」
「しまっ……」
僅かに開いた隙間を狙うイチゴさんの絶妙なパス。
「……!」
雪崩攻撃を始めたシオンへとボールが戻った。
その立っている場所は、ペナルティエリアのすぐ手前である。
ペナルティエリア内へと切れ込み、シオンが大きく足をあげた。
「ここだ! ここで決めるんです!」
続く