えと……あなた、今幸せですか?
あ、そうですか……
え? まだ何も言ってない?
すいません。わたし、つい……
えと。
何の話でしたっけ。
そうそう、幸せかどうかでしたね。
幸せでも、そうでなくてもあなたの人生はあなたのものです。
誰も助けてはくれません。自分で切り開かなくてはいけないのです。
……説教っぽくなっちゃいましたね。すいません。
もう少しわたしの話を聞いてください……
「おとうさーん」
「どこにいるのー」
周囲を見回すのは幼い頃のわたし。
場所は寂れた港。
響く銃声。
「おとうさーん!」
赤い赤い血だまり。
動かない体。
「死んじゃイヤだー! 返事してよー!」
どんなに叫んでも血は止まらなくて……
「おとうさーん!」
その時既に、わたしのお父さんは息を引き取っていた。
お父さんは勇敢な機動隊員で、暴走集団ウロボロスと戦っていた……
こんな出来事に待ち受けているとも知らずに。
わたしはお父さんの仕事を誇らしく思っていた。
「……というわけで新しいお友達が増えます」
孤児になってしまった幼いわたしは、浅上女学院というところに引き取られる事になった。
ここは全寮制の学校で、幼稚園から高校までほぼエスカレーター式で進学できる。
「さ、みんなに名前を教えてあげて」
お父さんの功績のおかげでここに来れたのよという言葉は誇らしいとともに悲しかった。
「……せお……アキラです」
これがわたしの名前。
「みんな、仲良くしてね」
「はーい!」
とにかく浅上はわたしの第二の家となった。
そうして浅上で過ごしている間にわたしは……不思議な力を使えるようになっていた。
人やモノの未来を予知する能力だ。
「Yボタン」を押してみてください。
人の未来がわかります。
はい、何の事だかわからないですよね。
わたしもここで詰まりましたから。
ええ、本当に何の話だかわからないので先に進めます。
こんな力を持っていたら……あなたならどう使いますか?
わたしの場合は……
ライブアライブ
未来視編
「流動」
「ん……」
目が覚めた。
「ここは……」
近所にある公園だ。
「そっか」
先輩を待っている間に眠ってしまったらしい。
「まだ来てないなあ……」
周囲を見回してもどこにも姿がなかった。
「……」
様々な人たちがベンチで休んだり歩き回ったリしている。
「んー……」
わたしは精神を集中させた。
『いやあ公園っていいねえ。こうしてサボれるのが営業のミリョク』
これはわたしが近くのサラリーマンに本音を聞いた場合の未来。
もちろん本当に聞いたりはしない。
言うなればその人の未来の可能性を覗き見るといったところだろうか。
昔はランダムに受信する程度の力だったけれど、今はこう、読心に近いようなレベルで力を制御出来ていた。
「……ふう」
悪用するとプライパシーの侵害になってしまうので程々にしてるけど。
「先輩、来ないなあ」
公園をぶらついていると、売っている人がいないたい焼き屋さんがあった。
「ドロボウでも追いかけてるのかな……」
背中に羽を背負った食い逃げ少女あたりを。
「そんなわけないよね」
自分の考えに苦笑しつつ公園の出口へ向かう。
私が眠っていたから、その辺を走り回ってるのかも。
「……ん」
すると入り口のほうから。
「あ、怪しい……」
これでもかってくらいに怪しい、ドクロの仮面をつけた連中が現われた。
そう、言うなれば特撮ヒーローもののザコ。
なんて言ってる場合じゃない。
「ホホーイ!」
明らかにこう、人語を理解してくれなさそうな叫び声をあげている彼らに取り囲まれてしまった。
「……」
こういう時こそ未来視だ。
わたしがこいつらの言語がわかる都合のいい未来を視る!
『こいつを連れて行けばノルマ達成だぜ』
ノルマ……何の事だろう。
「あ、貴方たちのノルマにつき合うつもりなんてありません!」
叫ぶわたし。
「何をーう!」
ってしゃべれるんですか貴方たち。
「ホホーイ!」
わたしが未来を読んだ事で動揺する戦闘員ら。
ブロロロロロロロロ!
「あ……」
そこに響くバイクのエンジン音。
これは……先輩の!
「先輩!」
「……ガキね」
その外見に似合わない、改造バイク。
腰まで伸びた長い髪、端正な顔立ち。
「何だテメエッ!」
戦闘員が叫ぶ。
「……」
バイクから飛び降りる先輩。
そして不敵に笑いながら、こう彼らに告げた。
「通りすがりの……お嬢さまよ!」
言うなり戦闘員らに飛び掛って行く。
「お嬢さまキーック!」
どう見てもヤクザキックにしか見えないキック。
威力は抜群だ。
「お嬢さま怒りの鉄拳!」
パンチっていうか何か手から赤いの出てるんですが。
「ホホーイ!」
「わ、わあっ?」
先輩の猛攻を潜りぬけ戦闘員がわたしに迫ってくる。
「え、えいっ!」
弁慶の泣き所を狙うローキック!
「ホ、ホホーイ!」
あ、効いてる。
「お嬢さまヘビーブロウ!」
ドゴオッ!
最後の一人を先輩がトドメ。
「あ、ありがとうございます!」
わたしは先輩に駆け寄った。
「気を付けなさいよ瀬尾。最近こいつらの動きが活発になってるわ」
「……わたしなんてさらっても何のメリットもないと思うんですが……」
お金だって持ってないし。
「羽居の具合はどう?」
「あ、はい。羽居先輩は元気ですよ」
羽居先輩というのは浅上で知り合った先輩の一人だ。
「もちろん蒼香先輩もです」
「……そう」
先輩……無法松秋葉先輩は少し前まで浅上で暮らしていた。
しかし、ある事情で浅上を出ていってしまったのだ。
その事情というのは未だに誰も知らされていない。
「あたた……」
今更になってさっきの足が痛くなってきた。
思いっきり蹴飛ばしたからなあ。
「ケガしたの? 送っていってあげるわ」
「え? い、いいですよ、別に」
「遠慮する事無いわ。さあ」
「……はぁ」
先輩の誘いを遠慮する理由は二つある。
一つ、女の子同士で二人乗りって何か誤解されるんじゃないだろうか。
「あの人たち、何を企んでるんですかね」
「……」
先輩は何も答えてくれない。
わたしは悪いと思いつつも、自分の都合のいい未来を覗いた。
『最近の誘拐事件……間違いなく奴らが関わっているわ……』
「何やってるのよ瀬尾」
奴らというのが誰かという問いをする前に先輩に遮断されてしまった。
「あ、はい」
わたしもまだ修行が足りないようだ。
「さあ行くわよ」
「……」
わたしが先輩の誘いを断りたかった理由。
というかこれが最大の理由なんだけど。
「今はー昔のーバッビロニーアー」
何の歌だかよくわからない歌を口ずさむ先輩。
これは別にいい。
わたしもいわゆるヲタクだから。
問題は。
「せ、先輩」
「はがねのー拳がー天を……なによ」
「……このバイク、どうしてこんなに遅いんですか?」
この先輩の乗っているバイクが、走っている人間、いや下手をすれば歩いている人間よりも遅いということであった。
「あ、貴方が重いせいよっ!」
「えええええっ!」
そしてそれを突っ込んでしまったわたしは、酷い言いがかりをされてしまうのであった。
ててんてんてん、ててん。