「……あ、あはははははは」
わたしはとても会いたくない人に会わなくてはいけない未来を見てしまった。
「お願い……出来ないでしょうか」
「う、うう」
この瀬尾アキラ、人から頼まれたことは断れないタチなのです。
「わ、わかりました! なんとかしましょう!」
わたしはその未来を実現するべく行動する事にした。
はぁ、憂鬱だなぁ。
ライブアライブ
未来視編
「流動」
その3
「ありがとうございます」
深々と頭を下げる翡翠さん。
「いえ、これくらい当然の事ですから。それでひとつお願いがあるんですけど」
「わたしで出来る事ならば協力いたします」
「……そのぅ、すっごく頼み辛いんですが……」
「ふう」
翡翠さんからあるモノを貰い、わたしは玄関へ向かっていた。
「背中のライン攻撃〜」
「ひゃあああっ! それダメぇっ!」
途中羽居先輩に弓塚先輩がいぢめられていたけど、いつもの事なので気にしない。
なお、羽居先輩に悪意が全く無いのは言うまでもないだろう。
「ここは平和だなあ」
苦笑しつつ外へ出るわたし。
「えーと」
目的地は古道具屋、型月商会である。
「ホホーイ」
「……」
周囲をうろつくウロボロスを回避しつつ進む。
こう見えても逃げるのだけは得意なのだ。
そのあまりの逃げっぷりにテレポートしたみたいだって言われるくらいなんだから。
……あんまり自慢にならないけど。
「すいませーん」
程なく型月商会に辿り付いた。
「……あれ」
中に入っても誰もいない。
「おかしいなあ」
色々なものが乱雑に散らばった店内。
あの人は部屋の片付けが苦手らしい。
「……地下かなあ?」
曰く、地下王国。
その実態はただの実験場なんだけど。
ばたん。
「おや、珍しいお客さんですね」
と思ったらトイレのほうから出てきた。
「ど、どうも」
「この天才、割烹着の魔法科学者少女お茶目な琥珀さんに何かご用ですかー?」
手を洗いながら尋ねてくるこの人は、翡翠さんの実姉、琥珀さんである。
科学なのに魔法だとか、科学者少女って語呂悪いんじゃ?
とか野暮なことは突っ込んではいけない。
自分で名乗りたいから名乗っているだけなのだから。
「実は……」
わたしは浅上で飼っている黒猫のレンちゃんが具合のよくない事を説明した。
「はあ。なるほど。きっとアレが足りないんでしょうね」
「原因、わかるんですか?」
「ふふふ。わたしを誰だと思っているんですか?」
「えーと……」
なんだっけ?
「アキバで学んだヲタク知識と、マンガで得たエイチを以って!」
なんかかなりダメっぽい単語が出てきた。
「レンさんを助けてあげましょう!」
「……ほ、本当に大丈夫なんですか?」
自分が見た未来予知とはいえ、ものすごく心配なんだけど。
「はい。レンさんを連れてきてくださいな。もちろん翡翠ちゃんも一緒ですよ?」
「翡翠さんもですか?」
「当然です。ラブリーな翡翠ちゃんさえいればもう成功したも同然!」
「……」
不安だ。とてつもなく不安だ。
「信用出来ませんか? ならばこちらに起こしください。わたしの力をお見せしましょう」
琥珀さんはそそくさと地下王国へ潜り込んでしまった。
「……はぁ」
渋々後をついていくわたし。
「……」
地下にはいかにも怪しげなメカが鎮座していた。
「ブッシツテンソウ装置の力をお見せいたしましょう!」
カタカナ発音のあたりがいかにも胡散臭い。
「座標を合わせて……と」
取り合えずわたしは機械の真ん中に座ればいいんだろうか。
「これでいいんですか?」
「あ! ま、まだダメですよ!」
「え?」
言うやいなや、バチバチと怪しげな電波が周囲を包み込んでいく。
「わわわわわわ」
視界がぐにゃぐにゃと歪み。
ブスブスブス……
怪しげな煙が沸き出て……
「って!」
爆発するんじゃないかこれっ?
わたしは大慌てで機械から飛び降りた。
ボカーン!
まさに間一髪。
わたしが飛び降りた瞬間ブッシツテンソウ装置は大爆発を起こしていた。
「え、えーと……今日は調子が悪いみたいですね、あは、あはははは」
「……」
なんか、ますます不信感がつのっただけのような。
「さ、先に浅上に行っていてくださいな。準備が出来たらわたしもそちらへ向かいますので」
「……はぁ」
本当に大丈夫なんだろうか。
「お願いしますよ?」
念を押して、型月堂を後にする。
「あ」
そういえば翡翠さんから貰った物を渡すのを忘れてしまった。
「後でいっか……」
とはいえこれを持ちっぱなしっていうのも結構アレなんだけど。
まあ大丈夫……かな?
「戻りましたー」
そんなわけで浅上に戻ってきたわたし。
「如何でしたか?」
「え、ええ、安心してください。琥珀さんを呼びましたので」
「……姉さんを?」
名前を聞いていぶかしげな顔をする翡翠さん。
「だ、大丈夫です。わたしの予知では成功するはずなんで……」
と言ってもわたしの予知も割といいかげんだからなあ。
「……そう、ですか」
翡翠さんが何やら諦めたような顔をしていた。
「おっまたせしましたー!」
ばたんっ。
そこに空気を読まず琥珀さんの登場。
「ハローエブリバデ!」
「……」
「……」
さてどう反応すればいいんだろう。
「あ、あら、意外とギャラリーが少ない……」
どうやらもっと人がいるものだと思っていたらしい。
「こ、こほん」
顔を赤らめながら咳払い。
「ブッシツテンソウ装置は調子が悪いので歩いて来ました」
調子が悪いも何も、爆発して使用不能になったような気がするんだけど。
「姉さん、レンさまを治せるのですか?」
「もちろん。取り合えず見せて貰うからねー?」
ひょいとレンちゃんに近づく琥珀さん。
「……」
レンちゃんはわたしにしたのと同じようにそっぽを向いた。
「なるほど。これは重症ですね。ただちにエキカカンゲンしてなんちゃらかんちゃらしないといけません」
「……あの、ものすごく適当な事言ってませんか?」
「そんな事ないですよー。さてと。それを行うにはアシスタントが必要不可欠!」
そう言うと琥珀さんはどこから出したんだかまるでわからないアタッシュケースを取り出した。
「じゃーん! メタルアンドロイドの登場です!」
そしてその中からはどう考えても入っていたはずのないサイズのロボットが出てきた。
「さあ、挨拶するのよ!」
「……」
「あ、あら?」
へんじがない。ただのしかばねのようだ。
って作品が違う。
「おかしいな……ってああーっ!」
「ど、どうしました?」
叫ぶ琥珀さんに慌てた様子で尋ねる翡翠さん。
「……そういえば充電してなかったわ。てへ」
「……」
ほんとにこの人は……
「瀬尾さん。コンセントを差してくださいな」
「あ、はい……」
不安に思いつつコンセントを探す。
「えーと……」
コンセント、どこだっけ?
「ここで割と悩むんだよなあ……」
「端っこのほうにあったはずですが……」
「ええ」
ところがその端っこのコンセントが見つからないと。
「……あった」
片っ端から見回してそれを見つける事が出来た。
まさかこんな死角にあるなんて。
「まだですかー?」
「わかってますよ……」
それでは入れましょう、ざくっと。
バチイッ!
「わあっ?」
その瞬間静電気が弾ける音がした。
そして。
「しび、しび、しびびびびびびびびび!」
ロボットの傍にいた琥珀さんが、骨が写ってみえるマンガみたいな感電をしているのであった。
ててんてんてん、ててん。