それでは入れましょう、ざくっと。
バチイッ!
「わあっ?」
その瞬間静電気が弾ける音がした。
そして。
「しび、しび、しびびびびびびびびび!」
ロボットの傍にいた琥珀さんが、骨が写ってみえるマンガみたいな感電をしているのであった。
ライブアライブ
未来視編
「流動」
その4
「ど、どうしよう」
このままじゃ琥珀さんが感電死してしまう。
「電源を抜けばよいのでは」
「あ、そ、そっか!」
動揺してそんな当たり前の事すらわからなくなっていた。
「えいっ!」
コンセントを引っこ抜く。
「……ケホッ」
真っ黒こげになって口から煙を吐く琥珀さん。
「だ、大丈夫ですか?」
「わたしじゃなかったらどうだったかわかりませんね……あはは」
ぶるぶるぶるぶる。
体を左右に揺らすと黒こげが全部取れてしまった。
「……なるほど」
ギャグマンガの世界の人間に近いのかもしれない。
「ま、まあとにかくこれで充電完了です」
ビィン。
琥珀さんの傍に立っていたロボットの目が光る。
「これぞ琥珀特製究極のメタルアンドロイド、メカヒス」
「たろいもト申シマス」
「そうタロイモ……ってえええええーっ!」
なんとロボット自ら自己紹介をしてくれた。
が、わたしなんかより琥珀さんのほうが驚いている。
「な、なんで、どうしてメカヒスイちゃんっ!」
どうやら名前が違うらしい。
「マスター、わたしノ名前ハたろいもデ登録サレテイマス」
「タロイモって誰ー!」
「姉さん、名前などどうでもいいではないですか」
「そ、そんなぁー」
もしかして翡翠さんが名前を変えてしまったんだろうか。
あり得ない話ではない。
「それよりレンさまを……」
「ぐすぐす」
嘘っぽい泣き声をあげながらレンちゃんに近づいていく琥珀さん。
「……」
その耳元で何かを囁くと。
「!」
レンちゃんは飛び上がり、宙返りして着地をした。
「レンさま」
「……」
翡翠さんに向かってこくりと頷く仕草をするレンちゃん。
「よかった……」
どうやら元気になったようだ。
「何を言ったんですか?」
「それは企業秘密ですよー」
「……」
怪しい。
「っていうかタロイモさん何にも役に立ってないじゃないですか」
持って来た意味はあったんだろうか。
「これはただ単に翡翠ちゃんに自慢したかっただけです」
「……そ、そうですか」
実に琥珀さんらしいというかなんというか。
「姉さん」
「なぁに翡翠ちゃん?」
「最近物騒です。護衛用というわけではないですが、タロイモさまを貸していただけないでしょうか」
「それは別に構わないけど……あ」
「どうしました?」
「……ちょっと待って……もしかしたらこれで……」
「姉さん?」
「ごめん、わたし急用を思い出しちゃった! メカヒスイちゃんの事は任せるから宜しくねっ!」
「え、ちょっと?」
琥珀さんは足早に立ち去ってしまった。
「……何がしたかったんだろう」
正直あの人はよくわからない。
「レンさまが元気になってよかったです」
まあ目的は達成したからいいんだけど。
「……」
ところでこのタロイモさんどうするんだろう。
「マスター不在。代理マスターノ認証ヲ」
なんか言ってるし。
「……どうすればいいでしょうか」
「アキラさま」
「は、はいっ?」
「認証をと仰せられていますが」
「え」
それってわたしに代理マスターになれってこと?
「えーと」
こういう怪しい類のものは遠慮したいんですが。
「……」
取り合えず未来を見てみようか。
「うー」
ぱく。
「へ?」
気付くとタロイモさんがわたしの指を咥えていた。
「代理マスター認証シマシタ」
「ちょ、ちょっと! ええっ?」
まだ未来を見てないのにっ!
「宜シク、オ願イシマス」
「……」
何も聞かなかった事にして逃げよう。
「……ダッシュ!」
わたしの出来る限りの力で駆ける。
「ふうっ……」
玄関まで逃げてきた。
これで大丈夫だろう。
後ろを振り返る。
「……」
「普通について来るしー!」
しかも息一つ乱れてない。
ってロボットなんだから当たり前か。
「あれ、アキラちゃん、どうしたのそれ……」
「うええっ!」
しかも弓塚先輩に目撃されてしまった。
「あ、え、ちょ、ちょっと琥珀さんの忘れものでっ! 今から届けにいくんですよ、あは、あははははは!」
「そうなんだ。大変だね」
「は、はい、あは、あははははは……それではっ!」
わたしは逃げるようにその場を後にした。
「気をつけてねー」
「はーい」
笑顔で手を振る弓塚先輩。
「……?」
何故だろう、わたしはその時の弓塚先輩の顔がいやに印象に残ってしまった。
「マスター、指示ヲ」
「あー、はいはい……」
とにかく今は琥珀さんのところへ急ごう。
用事とか言ってたけどそんなのは無視。
マスター登録とやらを解除して貰わなくっちゃ。
ブィーン……
「ん?」
なんだろうこの音。
「敵影ヲ補足」
「て、敵影って……」
わたしはなんの取り絵もない女子学生なんですけど。
訂正、未来予知しか出来ない女子学生なんですけど。
「……ああ」
割と悪い組織に狙われるのに十分な資格があるかもしれない。
「ホホーイ!」
大量のラジコンと一緒に現われたのは公園でわたしたちに襲いかかってきたウロボロス。
「うう……」
頼りになる遠野先輩も今はいない。
「排除シマスカ?」
「は、排除って……」
なにやら言葉は恐ろしいけど。
「戦えるの?」
「ハイ」
「じゃ、じゃあお願いしよっかな……?」
どうせラジコンばっかりが相手だし、そんな被害は……
「ビーム」
ぎゅんっ!
「……」
一秒後、そこにはガレキの山があった。
「せ、戦略的てったーい!」
「……? マスター?」
冗談じゃない、こんなの戦わせてたら町じゅうが破壊されてしまう。
ああもう、琥珀さんはどうしてこんなのばっかり作るかなぁ!
「はぁ……はぁ」
気付くとわたしは公園に来ていた。
「型月堂通り過ぎちゃった……」
これじゃあ道を引き返さないといけない。
「あら、瀬尾じゃない」
「え?」
すると聞き覚えのある声が。
「秋葉先輩?」
その方向を見ると。
「んなっ……!」
あの秋葉先輩が。
あの、ゴーマンでコンコンチキでタカビーで人の言う事なんか絶対に聞かない秋葉先輩が!
ちょっとまだるっこしい。
ダイレクトにいこう。
どう考えても商売なんてむかなそうな先輩が。
「何よ変な顔して……」
屋台の店番をしていたのである。
『秋葉お嬢さまのたい焼き屋さん』
わたしはそのネーミングセンスに絶望するのであった。
ててんてんてん、ててん。