「ここは……」

いかにも何かありそうな感じだ。

恐る恐る通路を進んでいく。

すると。

「な、なにあれ……!」
 

わたしの前に、巨大な『何か』の足が見えてくるのであった。
 
 


ライブアライブ
未来視編
「流動」
その6






「ふふふ」
「うえっ?」

そしてどこからか怪しげな声が聞こえてくる。

「わたしのラボへようこそ」
「ど、どこにいるんですかっ?」

声はすれども姿は見えず。

こんな時こそ未来視でっ。

「……」

上かっ!

「とうっ!」

怪しい人影が舞い降りてくる。

「まじかるアンバー登場ですっ☆」
「……」
「い、いえ、その、そんな顔されると困るんですが」

いくら未来視で読んでいても、こういうイロモノが実際に目の前に出てこられるとなんともいえない。

「琥珀さんがこれを作ったんですか?」
「まじかるアンバーって呼ばないと教えてあげません」
「ま、まじかるアンバーさんが作ったんですか?」
「いかにも! と言いたいところですが違います」
「え?」

他にこんなけったいなものを作る人がいるんだろうか。

「これは古代バビロニアの技術で作られたブリキ大王を」
「ブリキ大王……」

なんだろうその微妙にカッコ悪い名前は。

「わたしがカスタマイズして作り上げた……」
「はぁ」
「ジャイアント秋葉……略してG秋葉ですっ!」

どーんっ。

「ジャ、ジャイアントあきは……」

なるほど、よく近づいて見ると、確かにそれは秋葉先輩の姿形を模しているように見えた。

「っていうか琥珀さん秋葉先輩の事知ってるんですか?」
「知ってるもなにも、わたしは秋葉さまの身内みたいなものですから」
「……そうだったんですか」

秋葉先輩との付き合いは結構あったけど、そういう話をした事はあまりなかった気がする。

というか先輩が意識して避けていたのかもしれない。

「はっ。いけない。今のわたしはまじかるアンバーでしたっ」

……この人が身内に近い存在だもんなぁ。

「で、わたしに何の用なんです?」
「あ、そうでした」

目的をすっかり忘れてしまっていた。

「実はこのタロイモさんがわたしをマスターとして認識してしまってですね」
「メカヒスイちゃんがですか?」
「はい。なんとか解除して欲しいんですが」
「うーん。それはちょっと難しいですねぇ」

腕組をして首を捻る琥珀さん。

「なんせタロイモでデータ登録されちゃった事自体が予想外でして」
「はぁ」
「最初からインストールしなおすとなるとまた面倒で……」
「そ、そうなんですか」
「テスト運転という意味で、出来ればそのままアキラさんが使って下さると嬉しいんですが」
「……」

さてどうしたものだろう。

さっきの戦いぶりからしても、タロイモさんはボディガードとして非常に優秀だ。

そしてわたしはなんだかわからないけどウロボロスに狙われていると。

考えるまでもないようだった。

「……はぁ」

どうやらしばらくタロイモさんと生活を共にしなくてはいけないようだった。

「ところで」
「はい?」
「せっかくですから、このG秋葉を動かしてみませんか?」
「……出来るんですか?」
「このG秋葉を動かすにはかなりの精神力が必要です」
「精神力……」
「アキラさんなら出来るんじゃないかと思いまして」
「え、ええっ?」

もしかして琥珀さん、わたしの力の事を知っているんだろうか。

「ホントは秋葉さまに乗って欲しいんですけどねー。絶対に乗るもんかって聞いてくれないんです」

だろうなぁ。

「そのくせあんなハーレーに乗ってるんですから。ほんともう……」
「あ、あはははは」

単に琥珀さんの言う事を聞くのが嫌なだけなのかもしれない。

「で、G秋葉への乗り方ですが」
「本当にやるんですか?」
「ここまで来て乗らないのはウソですよー」
「は、はぁ」

そう言われるとなんだか乗らなくてはいけないような気がしてきた。

「じゃあ、どうすればいいんでしょうか」
「まずは移動しましょう。ついてきてくださいな」
「あ、はい」

言われるがまま後をついていくわたし。

あの無意味やたらに続く階段を昇り、店のある場所まで戻る。

「なんでこんなに階段あるんですか?」
「だって、あの大きさを地下に仕舞うには仕方ないじゃないですか」
「……」

まあそれは確かにそうなんだけど。

なにかこう憤りを感じるのはどうしてなんだろう。

「さて乗り方ですが、よく聞いてくださいね」
「はい」
「まずピンクの像を触って本を読みます」
「……は?」
「そして木琴を叩いて青いマスクに触ったらですね」

ピンクの像? 木琴?

意味がわからない。

「地下のG秋葉をよ〜く拝んでください」
「拝むって……」
「その後ちゃんと手を洗ってからそこの椅子に座ればおっけーです」
「……今手を洗って座るんじゃ駄目なんですか?」
「はい。決まりごとなんで」
「……」

秋葉先輩がああなってしまった理由のひとつがわかった気がした。

「もう一度聞きますか?」
「……はい」

渋々同じ内容を聞いて実践する事にする。

「えーとピンクの像が……」

こんな事をして一体何になるんだろう。

気分は憂鬱になるばかりだ。

「これか……」

そこいらに転がっている道具を探して触っていく。

「本を読んで……」

木琴……きんこんかんこん。

「青いマスク……」

こんな事をしている間にも世の中は動き続けているというのに。

「……G秋葉を拝む……」

ということはまたあの階段を……

「……はぁ」

とぼとぼと階段を降りていくわたし。

「なーむ……」

前で力無く祈りを捧げ、またとぼとぼと階段を昇っていく。

「ガンバッテクダサイ、マスター」
「うう、ありがとうございます……」

タロイモさんの言葉がとても温かかった。
 
 
 
 

「えーとそれで……」

とにかくわたしはあのバカみたいな階段を往復して戻ってきた。

「……手を洗って……」

ようやっと終わりが見えようとしている。

「椅子に座る……と」

これで全ての行程を終えた。

「おつかれさまでしたぁー」
「……ホントに疲れましたよぅ」

明日は筋肉痛になりそうだなぁ。

「では早速始めようと思います」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ。

「わわっ?」

何やらわたしの座っている椅子とその周辺が動き出した。

「ミュージック、スタート!」

そして琥珀さんが指を弾くと音楽が流れ出す。

「この曲は……?」

それは何故かとても聞き覚えのある曲であった。
 

「いっまはーむかしのーバッビッロニーアー」
 

ててんてんてん、ててん。



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