「そこで俺もわかった事がある。

スローボール紅赤朱の場合は、大仰に構えていても体にはそんなに力は入っていないのだ。

だがスピードボールを打つ場合は別だ。

しっかりと足を踏みしめ、力強くラケットを握り締める。

そして何よりもわかりやすいのが、よく見ると秋葉の髪の毛が一部赤くなっていることで。

「今度はスピードボールですね、あはっ」
「な、なんでっ……!」
 

秋葉、健闘したものの浴衣着の悪魔に撃沈。
 
 




「間近に温泉があったなら」
その22









「そんな……まさか……」

がっくりとうなだれる秋葉。

これで秋葉は2敗。優勝はなくなった。

「しかしさすが琥珀さんだなぁ」

秋葉の必殺技に一瞬はたじろいでいたものの、すぐに打開策を見つけてしまった。

やはり洞察力では人並み外れたものがある。

「あはっ、これで2勝ですね〜」

そして琥珀さんが現時点でのトップとなってしまった。

「……」

このままでは琥珀さんが優勝してしまいそうである。

「翡翠、どうする?」
 

俺は隣にいる翡翠に尋ねた。

「……」

だが翡翠は何かを考えるような仕草をしている。

「あの。姉さん。聞きたい事があるのですけれど」

そして琥珀さんへ向けて口を開いた。

「ん? 何かなー? 翡翠ちゃん」
「優勝したら豪華賞品と言っていましたよね? それは何なのでしょう?」
「あー。そういえば賞品は言ってなかったね〜」

そこで何故か俺を見る琥珀さん。

「な、何?」

俺はなんだか嫌な予感がした。

「実はこの卓球大会の優勝賞品は志貴さんなんですよ〜」

ほーらやっぱり。

「な、なんで俺がっ!」

俺はつい叫んでしまった。

「おや、ご不満ですか?」

そんな俺を見てくすくす笑っている琥珀さん。

「いや、俺なんか賞品にされても困るって」
「そうですか? 翡翠ちゃんは志貴さんが賞品だったら嬉しいよね?」
「わ、わたしは……その」

顔を真っ赤にして俯く翡翠。

「……う」

そんな顔をされると困ってしまう。

「そ、そうだ。秋葉。なんとか言ってくれよ」

こういう場合秋葉が「そ、そんなこと許しませんっ!」などと言ってくるはずなのだが。

「……燃えつきました……真っ白に……」

秋葉はまだ敗北のショックから抜けきれないようであった。

「じゃ、じゃあ俺が優勝したらどうなるの? それ?」

しょうがないので俺が優勝した場合のことを尋ねてみる。

「あ、その場合はわたしか翡翠ちゃんが賞品ってことで。いいよね翡翠ちゃん?」
「え……その」

戸惑った顔をする翡翠。

「翡翠か琥珀さんが賞品……」

俺が賞品にされると翡翠や琥珀さんが賞品にされるでは意味合いが全然変わってくる。

それはまあ要するにどっちが主導権を握るかということになるのだが。

例えば琥珀さんに主導権を握られたらそれはもう大変なことになってしまうだろう。

だがもし俺が勝てば俺が主導権を握れるわけで。

そうしたらもうあれやこれやとやり放題。

「わたしはその、か、構いませんが……」

そしてぽつりと翡翠がそんなことを言った。

「あはっ。わたしも全く問題なしですよー。志貴さんの気の召すままにどうぞ」

琥珀さんはちらちらとふとももを見せてアピール。

「……そ、それなら、いいかな」

どうにもヨコシマな願望に突き動かされて俺は賞品になることを承諾してしまった。

「決定ですねー。ではここにサインをー」

琥珀さんは例によって胸元から小さな紙を引っ張り出す。

「なになに……? 『私、遠野志貴はこの卓球大会の商品になることを誓います』……ってずいぶん用意いいね」
「あはっ。ほんとは最後に出してびっくりさせる予定だったんですけれどー」
「それだったら俺逃げたと思う」
「わ。じゃあ今言って正解でしたねー」
「……」

ほんとに大丈夫かなーと思いつつもサインをしてしまう俺。

「はい。これでもう志貴さんは逃げられませんねー。裁判で訴えられちゃいますよー」

ああ、やっぱりやらないほうがよかったような。

「姉さん。あまり志貴さまを驚かせないでください」

翡翠は困った顔をしていた。

「あはっ。だって志貴さんの反応って面白いんだもん」

琥珀さんはころころと笑っている。

ああ、なんてタチの悪い人なんだろう。

「でも志貴さんだってわたしの行動でいい目を見てるじゃないですか? ね?」
「う……」

それもまた事実だ。

色気攻撃は戸惑ってしまうがやはり嬉しかったりするし、琥珀さんに助けられる事も多い。

特に前者の色気攻撃はそりゃあもう若い俺にとってはたまらない。

今回の温泉ではイチゴさんと合わせて様々なサービスをしてもらったし。

だからどうにも憎めないのである。琥珀さんは。

「では次は翡翠ちゃん対志貴さんですね。始めて下さいなー」
「お……おう」

とにもかくにも俺は卓球台の前に立った。

なんにせよ勝てば全て問題無いわけだ。

「……」
「う」

だが俺のそんな微かな希望を打ち消すような怖い顔をした翡翠が目の前にいた。

「ひ、翡翠。どうしたのん?」

思わず変な口調になって尋ねてしまう。

「志貴さま。わたしは最初わざと志貴さまに負けるつもりでした」
「そ、そうなのか」

やはりそれは最初に予想した通りだ。

俺に遠慮して力を抜くのではと。

だがそれを今告白すると言う事は。

「じゃあそれは止めて……全力で戦うってこと?」
「はい。今既に姉さんは2勝しています。わたしが志貴さまにわざと負ければ1敗。それでは姉さんがわたしに勝った場合完全に優勝が確定してしまうんです」
「ああ……そうだな」
「ですから姉さんの野望を阻止し……わたしの祈願を成就するために。志貴さま、負けていただきます」
「え」

なんか今わたしの祈願とか聞こえた気がするけど。

「……お、俺だっていつまでもやられてばっかりじゃないぞっ」

俺にだって意地がある。

あっさりやられてたまるもんか。

「本気で行かせて頂きます……暗黒翡翠流奥義っ!」
「え、いや、ちょ、待……」
「サタデー・ナイト・フィーバーッ!」
「うわーっ!」
 

試合内容は思い出したくもないので単純に結果だけ述べようか。
 

0−11。
 

完封試合であった。
 
 

続く



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