胸の隆起とかの形がはっきりと見える。
さらにお湯でしっかりと温まった薄桃色の肌。
肌をしたたる雫。
「……いや、無理だって」
こんなものを見ながらまともでいられる男なんているわけがない。
「ではわたしたちも座りましょうかね?」
「ああ。そうだな」
だっていうのに二人はなんのためらいもなく俺に近づいてくるのであった。
「間近に温泉があったなら」
その7
「隣、失礼しますねー」
琥珀さんが俺の右側に座る。
「じゃああたしはこっちだな……」
そしてイチゴさんが俺の左側へと座る。
「……」
逃げ場、なし。
「い、いやあ、実にいい温泉ですねえ。はっはっはっはっはっは」
俺は半ばやけ気味に笑ってみた。
「ええ、ほんとに全くその通りですよー」
琥珀さんは胸元のタオルをずらしてぱたぱたと扇いでいる。
「……」
見てはいけない見てはいけないと思っているのだけれど、どうしても視線はそこへと集中してしまっていた。
「なあ有間」
するとイチゴさんが話しかけてくる。
「あ、はい。なんでしょう」
つい反射的にイチゴさんのほうを見てしまった。
「……」
まあ、擬音でそれを説明するのであれば、ばいーん、とかぼーん、とか。
目の前ではそんな感じのふくよかな双丘が揺れている。
ああ、大分頭に血が上ってきていた。
「ななな、なんでしょう」
にっちもさっちもいかなくなって俺は正面を向いた。
「いや、こうやって風呂に一緒に入るのも久々だなぁと思ってな」
「え、ええっ? 一子さん志貴さんとお風呂に入った事があるんですかっ?」
珍しく驚いたような声を上げる琥珀さん。
「い、いや、小学校くらいの時の話だって」
「ああ。あんときはずいぶんなガキだと思ってたんだけどね」
イチゴさんは琥珀さんの反応を見てふっふっふと笑い声をあげていた。
「も、もう。脅かさないで下さいよ」
割烹着の悪魔も豪気の女傑にかかってたじたじといった感じである。
「いやー。ずいぶんと大きくなったもんだ」
「そんな、大して変わってませんって」
「そうかぁ? 例えば下半身なんぞ大分大きくなってるんじゃないか?」
「ぶっ」
思わずすっ転んでしまいそうになってしまった。
「一子さん、それは可哀想ですよー。そりゃ志貴さんだってオトコノコなんです。こんなうら若き乙女二人に囲まれてどうにかならないわけないじゃないですか」
琥珀さんの言い分は半分くらい正しいんだけど、はて乙女というのはどこにいるんだろうか。
「そりゃあそうだけど。気になるだろう? あんただってさ」
「……あはっ。それはなんとも言えませんねー」
さすがに照れくさそうな笑みを浮かべる琥珀さん。
っていうか俺は今すぐこの場から逃げ出したい。
「試してみるか」
「それは面白いかもしれませんねー」
顔を見れないがきっと二人は同じような表情をしているんだろう。
「じゃ、じゃあそういうことで俺は有彦を探しに……」
中腰のまま俺はお湯の中に戻ろうとした。
ざばざばとお湯を掻き分けていく。
「おーっと逃がしませんよ志貴さん」
ところが後ろから琥珀さんに羽交い締めにされてしまった。
「ちょちょちょちょっとっ?」
羽交い締めというのは背後から相手の脇の下に差し入れた両手を、相手の首の後ろで組んで強く締め付けることである。
それをやるためには基本的に体を密着させないといけないのであるが。
「あはっ。どうですかー? 志貴さん」
琥珀さんの胸が思いっきり俺の背中に押し当てられていた。
「どどどど、どうってその」
濡れたタオル越しの肌の暖かい感触がっ。
しかも柔らかいところとその先端がモロにわかるような感じでっ。
「……」
俺の下半身はもう完全に暴走状態である。
「というわけで、だ」
イチゴさんが俺の正面に回りこんできた。
まさに前門の虎、後門の狼である。
ああ、もう逃げられない。
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」
そこに焦燥感漂う声が響いた。
「……あん?」
くるりと振りかえるイチゴさん。
「あらー。翡翠ちゃん。よくここまで来られましたねー」
そして琥珀さんが明るい声を上げる。
羽交い締めもいつの間にやら解いてくれていた。
「ね、姉さんがまたよからぬ事を企んでいると思ったからですっ」
翡翠はトレードマークとも言える頭のフリフリを外し、体をバスタオル三枚くらい巻いているようであった。
「よからぬことだなんてそんな。志貴さんの日頃の疲れを癒してあげようと思っただけだってば〜」
しかし俺は琥珀さんに遭遇して以来普段の百倍以上疲れているような気がするんだけど。
「なんか琥珀と同じ顔が来たねえ。あれが噂の翡翠ちゃんかい?」
「……ま、まあ、そうです」
翡翠に下半身を見られたらなお大変なので俺はやや後ずさっていた。
「ところで翡翠ちゃん。秋葉さまは来てないの?」
「フロントで長瀬さまに掴まっております」
「なるほど〜。長瀬さんも商売熱心だからねー」
よし、このまま逃げられそうな勢いだ。
「くおら。逃げるんじゃない有間」
しかしイチゴさんがそんな俺に気付き手招きをしていた。
「……は、はい」
そしてどうにもイチゴさんに命令されると逆らえないのであった。
半分くらいはイチゴさんは俺の教育係みたいなもんだったのである。
「しかしあんたはでかくなったがあたしはちっとも変わらんなあ。贅肉が増えるばかりだよ」
つんつんと自分の胸をつつくイチゴさん。
「そこはどう考えても贅肉だとは思えないんですが」
「何言ってるんだ。胸なんて脂肪の塊なんだからさ」
「……姉さん。あちらの方は?」
そんなイチゴさんを見て翡翠が尋ねる。
「あ。乾一子さん。志貴さんのクラスメイトの有彦さんのお姉さんなんだよ」
「秋葉さまに会わせる時は要注意ですね」
「あはっ。今の言葉なんて絶対聞かせられないしねー」
多分今の言葉を笑って聞き流せるのはアルクェイドくらいであろう。
「でも本当にイチゴさんはスタイルがよくて羨ましいです。わたしもそうなりたいものですよー」
羨望の瞳をイチゴさんへ向ける琥珀さん。
「そうかい? あんたも中々いいバランスしてると思うけどねえ」
ためらいもなく琥珀さんの胸に手を伸ばすイチゴさん。
「あん、そんな触り方駄目ですって」
「またまた、まんざらじゃないくせにさ」
その触り方が実にまた官能的な感じなのだ。
ゆっくりと慎重に、かつ時折大胆に揉みしだくような感じ。
「……」
翡翠なんかお湯に浸かってもいないのにゆでだこ状態であった。
「それで、翡翠ちゃ〜ん?」
そしてそんな翡翠に向かって怪しい笑みを浮かべる琥珀さん。
「な、なんですか、姉さん」
「混ざる?」
「え、遠慮しますっ!」
「そう? 残念だなー。そう思いますよね? 志貴さん」
「え、いや、その……」
俺はそれに対してなんて答えたらよいのやら。
「翡翠ちゃんのバスタオル姿はいいですよねー」
さらに琥珀さんはそう言葉を続けた。
「はっ」
目を見開く翡翠。
そう、翡翠は俺にバスタオル姿を見られているのだ。
「そそそそそ、その、わたし、ええと……」
そしていくらバスタオルに巻かれていようとも、翡翠がそんな状況で冷静でいられるはずもなく。
「し、失礼しますっ!」
「あ、ちょっと翡翠っ!」
俺は逃げ出す翡翠を反射的に追った。
そう、追うために立ちあがったのだ。
「……はっ!」
思わず翡翠と同じような声を上げてしまう。
「ほほう」
「わ〜」
立ちあがった俺を二人のお姉さんがさも珍しそうに見つめているのであった。
続く