な、何この展開っ。
ラブロマンスどころか熱血スポ根もののノリじゃないっ。
「身から出た錆……ぐすっ」
自らの間抜けぶりになんだか泣けてきてしまうのであった。
「さっちんと紅葉狩り」
その6
「ま、待ってよ〜。志貴く〜ん」
死んで以来地面を蹴って走るなんて久しぶりのこと。
あっというまにわたしの息は乱れてしまっていた。
吸血鬼だった時はこんなこと無かったんだけどなあ。
どうも体を実体化させているだけで精一杯みたい。
「あ、悪い弓塚」
志貴くんは離されていくわたしに気づいて引き返してきてくれた。
「大丈夫か?」
「うん」
やっぱり志貴くん優しいなあ。
「あそこに茶店があるみたいだ。そこでちょっと休もう」
「ごめんね」
「気にするなって。俺もなんか変なノリになっちゃってたし」
「あ、あはは」
まあ、そういうノリにしちゃったのってわたしなんだけど。
「まあ、紅葉を見ながらお茶っていうのもいいよね」
くよくよしたって仕方がない。
せっかく生き返ったんだし、余計な事は忘れてプラス思考でいかなきゃっ。
「すいませーん」
「あいよー」
茶店の前にある赤い椅子に腰掛け志貴くんが中へ声をかける。
わたしもその隣に座ってみたり。
「えーと、団子二人ぶん」
「はいはい……」
おばあちゃんはお茶を二つだして中へと消えていった。
「さっそくすするかな」
志貴くんが湯飲みをとってごくりと一口。
「はぁーっ。疲れた体が癒されるな」
「ふふっ、なんだかおじさんみたい」
「……う」
苦笑する志貴くん。
「でもうまいぜ、このお茶」
「ふーん……」
わたしも一口飲んでみる。
「あ、ほんとだ」
渋みの中にあるまろやかな味わい。
「綺麗な景色で美味いお茶をすする。うん、それだけで癒されるな」
「そうだね……」
お茶の緑と葉っぱの色が対照的で面白い。
「はい、お待ちどう」
そして待望のお団子。
「待ってましたっ」
「はは。弓塚は紅葉より団子かな?」
「し、志貴くぅん」
やっぱり女の子としては甘いものにはどうしても興味をそそられてしまうわけで。
「今の仕返しだよ。ま、俺も団子が出てきたら団子に目を奪われちゃうけどさ」
そう言ってお団子の一本手に取った。
「あはは」
わたしも同じくお団子を一本。
「……あ」
そのお団子の上に偶然紅葉の葉っぱが一枚ひらりと落っこちてきた。
「もみじ団子ってとこかな」
「紅葉に先にお団子食べられちゃった……どうしよう?」
「紅葉ごと食べちゃえ」
「そんなこと出来ないよ」
「じゃあ代わりに俺が」
志貴くんが顔だけ近づけてきてぱくりと一番上のお団子を食べてしまった。
「むぐむぐ……」
「だ、大丈夫?」
「ぐあああっ! 葉っぱ! 葉っぱの味がっ! 甘っ! 団子のタレが混ざって……ごほげほっ!」
案の定志貴くんは苦しみだしてしまった。
「お、お茶をっ」
慌てて湯飲みを渡す。
「んぐっ、んぐっ……」
無理やり葉っぱと団子を飲み干すような感じに。
「……ぷはっ。あー……死ぬかと思った。まだ葉っぱの味がする」
「だ、大丈夫? 志貴くん」
「あー、うん。なんかすごいバカな事してごめん」
「ちょっとびっくりしちゃった」
それにしても志貴くんってこんなキャラだったっけなあ。
「有彦といる時みたいなノリでつい」
あ、そうだ。乾君といる時の志貴くんってこんなノリだったっけ。
わたしといた時はもうちょっとなんか一歩引いたような感じがあったんだけど。
これってちょっと仲が進展したと思っていいのかなぁ?
「もう一杯くらいお茶欲しいな。すいませーん。お茶もう一杯」
はぁ。わたしもなんだか喉が渇いてきちゃった。
お茶を飲んで気分を落ち着かせよう。
「……あれ」
持ってたはずの湯飲みがない。
湯飲みはどこへ。
「って」
今志貴くんに渡したじゃない。
下にあるお盆に乗っているのは志貴くんが最初に飲んでたやつだし。
「こ、これって間接……?」
急に顔が熱くなってきてしまった。
「……」
しかも今志貴くんはそうだと気づかずにわたしの最初に飲んだ湯飲みを持っている。
ということはごく自然にこの下にある湯飲みを取って……
「これを飲めば……」
わたしも志貴くんと間接キス状態っ?
「……」
べ、別に悪い事じゃないもんね。うん、志貴くんがわたしのを間違えて飲んじゃったからいけないんだから。
うん、そういうことにしておいて。
「……」
ごくりと一口お茶を飲んだ。
「はぁ……」
ああもう、なんか凄い幸せ。
幸せすぎて怖いくらい。
「ん? どうした弓塚。やけに幸せそうだけど」
「えっ? な、なんでもないよっ? ただお茶が美味しいからっ」
さっきまで悩んでたのが嘘みたい。
うん、人間プラス思考でいけばいいこともあるんだねっ。
「お団子も美味しいし……お茶も……」
今までのわたしは間違ってたんだ。
プラス思考でいけばどんな困難でも……
「はぁ。志貴さんたち見つかりませんねー。困りました」
「後少し行けば茶店があるはずです。そこで一休みいたしましょう」
ぶーっ!
思わず飲んでいたお茶を吐いてしまった。
「ど、どうした弓塚っ!」
「げ……げほっ……う、ううん。なんでもない」
また翡翠さんと琥珀さんがっ。
しかも今の会話からするとこっちに向かってくるじゃないっ。
「し、志貴くん。もう行こう。お金払って次の場所に」
「え? 弓塚団子全部食べたか?」
「今食べるっ」
お団子を横にして一気に食べてしまう。
「おお、荒業」
「し、志貴くんっ。ちょっとハイキングコースから外れるなんてどうかな? 新鮮で面白いかもよ?」
「んー。そうだな。普通のルートと違ったものが見られるかもしれないし……あ。おばちゃん。勘定ここに置いとくよ」
「こっちこっち」
わたしはなるだけ翡翠さん琥珀さんたちから見えないルートに志貴くんを先導した。
で。
「なあ、弓塚……」
「な、なぁに、志貴くん」
「もしかしなくても……迷った?」
「……うん」
わたしたちは完全にどこにいるのかわからなくなってしまっていた。
ああもうっ、やっぱりわたしってわたしって……しくしく。
続く