こんな混沌を作るだけ作っておいてどこかに行ってしまうとは。
シエル先輩よりも、まず琥珀さんをなんとかするべきじゃないかと強く思う俺であった。
「遠野家ネタ会議COMPACT2」
地上激動編
「はーいお待たせしましたー」
「……早かったね」
ちなみにこれはイヤミである。
「お待たせしてしまってごめんなさいね」
しかしそこは百戦錬磨の琥珀さん。
その程度はものともしないようだった。
「待ってたわよー。早く教えなさいよ」
にこにこ笑っているアルクェイド。
「後でおまえの発表もあるんだぞ」
「別に構わないわよ? わたし困る事何にもないもん」
「……」
つくづくアルクェイドはずるいやつだと思う。
「というわけで志貴さんの特徴ですが」
ぺらりと小さなノートを開く琥珀さん。
「ええ」
全員の視線が一点に集まった。
「志貴さんは究極の朴念仁ではありますが、同時に天然女殺しでもあります」
「……それは褒められてるのかな、けなされてるのかな」
「いえ、これは単なる事実ですので、どう判断するかは個人の自由ですけど」
「……」
俺としてはあんまりいいイメージじゃないなぁ。
「普段は見ての通りフヌケですが、稀に本気になると別人のような力を発揮します。そのギャップにやられるという人も少なくありません」
「滅多に本気にならないけどな、コイツは」
有彦が苦笑いをしていた。
「……うん」
それは出来る限り平穏無事に過ごしたいと思ってるからなんだけど。
「さらに掘り下げましょう。志貴さんは色んな意味で『死』に近い人間です。殺すにしろ、殺されるにしろ」
「きゅ、急に物騒な話になってきたね」
確かに直死の魔眼なんて厄介なものを持ってしまった俺は、普通の人間よりは死に近いといえるんだろう。
「そんな志貴さんが……平穏な日常を望んでいる。これはある種の強さであるとわたしは考えます」
「どうなんだろうな」
あんまり難しく考えた事はないけど。
昔は色々悩んだりもしたんだよな。
有彦のバカとか翡翠や琥珀さん、秋葉、シエル先輩、アルクェイドとの出会いで色々と成長した気もする。
「兄さんは見てて危なっかしいですしね。思わず世話を焼きたくなるのかもしれません」
「おいおい、おまえがそれを言うのか?」
俺は秋葉に世話を焼かれた事なんてないぞ。
「……兄さん、この家は誰の家でしたっけ」
「すいません、俺が悪かったです」
そうだった。遠野家に俺がいられるのは秋葉のおかげなのだ。
あんまりにも当たり前の事になっていてすっかり忘れていた。
「ま、志貴さんについてはこれくらいでいいでしょう。補足するなら秋葉さまに頭があがらないとか色々ありますが……」
その色々を追加されると、多分俺は様々な女性に振り回されている幸せなんだか不幸なんだかよくわからない男という結論になるんじゃないだろうか。
「志貴さんでは比較し辛いんでもうちょっと参考になる人を」
「……いや、じゃあなんで俺の説明をしたのさ」
俺の説明が参考にならないなら別になくてもよかったじゃないか。
「ほら、サンプルってやつですよ。山田太郎くんとかいるでしょう?」
「……」
なんだか酷い扱いである。
「志貴さま、強くあって下さいね」
「……ありがとう」
翡翠の励ましのお陰でなんとか頑張れそうだった。
「で、シエルさんと比較になりやすいのは……アルクェイドさんでしょうね。やはり」
「わたし?」
自分の顔を指差すアルクェイド。
「はい。あらゆる意味で正反対の二人ですから」
「確かにな」
水と油の関係と言うに相応しいだろう。
「アルクェイドの事なんて簡単でしょう。あーぱーで、自分勝手で、傍若無人で……」
すると琥珀さんより先に先輩が説明……というか悪口を言い始めた。
「あー、シエルさんの意見は駄目です。キライな人を評価したっていい評価になるはずがありませんから」
「そうよそうよー。バカシエルー」
「……っ」
ぎろりと俺を睨みつけてくるシエル先輩。
いや、何で俺が睨まれてるんでしょうか。
「アルクェイドさんの特徴は、なんといってもその天真爛漫さでしょうね。誰にでも遠慮しないし、本音で付き合う。表裏のない人です」
「……そういう意味では琥珀とも対象的よね」
ふっっと鼻で笑う秋葉。
「うふふふ。秋葉さまとも対照的だと思いますけどね。特に胸とか」
「……胸は性格と関係ないでしょうっ!」
「まあまあまあまあ……」
慌てて秋葉をなだめる。
自分から喧嘩を売っておいて切れてるんじゃ敗北を認めたのと同じだろうに。
「そんなアルクェイドさんですが、戦闘となると一変、クールビューティ、最強の真祖となります」
「あら、よくわかってるじゃない」
アルクェイドはとても上機嫌のようだった。
「ちょ、ちょっと。わたしの時と違ってずいぶんな褒めようじゃありませんかっ?」
シエル先輩がとても不満そうな顔をしていた。
「アルクェイドさんの場合も志貴さんと一緒で、普段はそれが微塵も感じられないところが魅力なんですね」
「……確かにこうして見ている分にはただのバカにしか見えないものね」
またさりげなく……いや堂々と悪口を言う秋葉。
「わたし、妹より頭いいもん」
「……っ」
事実その通りなので、秋葉は言い返すことが出来ないようだった。
「脳ある鷹は爪を隠す。常に才能を発揮する人はもちろん魅力的ですが、やはりそれをひけらかすのは宜しくないと思うんですよ」
シエル先輩に向かって諭すようにそんな事を言う琥珀さん。
「わ……わたしは別に能力を自慢したりしてません」
確かに先輩が自分からそんな事をするはずがない。
「でも、誰がどう見ても優等生キャラなんですよね、シエルさんって」
「確かに……」
メガネをかけていると知的に見える、というのは誰の言葉だったろうか。
口調も丁寧、成績も優秀、なんでもそつなくこなす。
それが優等生と言わないでなんというのだろうか。
「例えばこう、何かしらの欠点があればそれが光ると思うんですよ」
「アルクェイドで言うところの身勝手さだな」
っていうかアルクェイドの場合はそっちが強調されすぎて他の部分がまるで見えない。
ある意味才能の無駄遣いだと言える。
「志貴さんで言えば普段のダメダメさですし」
「……いくら俺でもそう何度も言われるとへこむんですけど」
「事実なんだから諦めろ」
悪友は無情だった。
「つまり、シエルさまに何かしらの欠点があればそこが個性になると言いたいのですか?」
「いや無理して駄目なところを作れとは言わないよ。それに、問題は他にもあるんだから」
「……ま、まだあるんですか?」
さすがのシエル先輩も琥珀さんの怒涛の攻撃に動揺を隠せないようだった。
「はい。むしろこれが致命的だったりするんですけど……」
「……そ、それは」
本人に言うのはあまりに気の毒なんじゃ。
「……」
先輩は深刻な表情で黙り込んでいた。
「教えて……下さい」
しかしシエル先輩は覚悟を決めたように尋ねた。
「わかりました。シエルさんの致命的な問題……それは」
みんなが琥珀さんの言葉に耳を傾ける。
「ぶっちゃけキャラが被ってることです」
みんな揃って見事にひっくり返っていた。
続く